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1 The Face トップインタビュー2017年08月20日号

 
公益社団法人東京都医師会 会長<br /> 尾﨑 治夫さんさん
予防に力を入れるのが医師会の役目

公益社団法人東京都医師会 会長
 尾﨑 治夫さん

 疾病予防としてのたばこ対策と介護予防としてのフレイル対策に特に力を入れてきた。歯科医師会や薬剤師会など関係医療団体とも連携をはかり、2025年に向けた東京の地域医療体制の構築を進めている東京都医師会会長、尾﨑治夫さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

2020年五輪に向け、受動喫煙防止対策はどうなるのか

—疾病予防としてのたばこ対策に力を入れていらっしゃいますが、世界的に見て日本は受動喫煙防止等の法的な整備が遅れているとか。

尾﨑 極めて遅れていますね。

—極めて!?

尾﨑 極めて!

—ヨーロッパ、特にドイツなどは多くの人がたばこを吸っていた印象があるんですけれど…。

昭和大学医学部での講義の様子

昭和大学医学部での講義の様子

尾﨑 ドイツは喫煙大国だったんですよ、日本と一緒で。しかし、ドイツは数年前、ある国会議員が「受動喫煙防止の法律を作らないといけないのではないか」と国会で議論したところ、8割ぐらいが賛同したんです。日本と圧倒的に違ったのは、新聞やテレビなどマスコミがすぐ賛成して全国的な展開をしたこと。日本はマスコミ関係者に喫煙者がいっぱいいるし、民放ではスポンサーとしてのJTの影響力があって、なかなかマスコミが後押しできないんですね。

—日本は専売公社で国がたばこを売っていたという歴史もありますから。

尾﨑 たばこを売って税収を増やし、日本の国力上昇や経済発展につなげるというところからスタートしたので、その名残があるということだと思います。税収、利権、それから飲食店組合、そういうところとたばこ産業はつながっていますからね。日本の場合は特殊なんです。

—今国会では受動喫煙防止の法案の提出すらできませんでした。

尾﨑 これは自民党を中心とする国会議員に、たばこを健康問題としてとらえられない方がたくさんいるということです。もちろん受動喫煙防止の議員連盟もありますが、受動喫煙防止の対策について非常に消極的な方が特に自民党には多い。

 ただ、東京都は、小池都知事が公約に罰則つきの受動喫煙防止を挙げていますので、基本的には条令として、もちろん2020東京オリンピック・パラリンピックがあるということもありますけれども、作ると思います。

—IOCはWHOの合意を受けて「たばこのない五輪」を推進していますしね。

尾﨑 立候補の際は、おそらく2020年までには法制化すると言ったんだと思いますが、国際的な感覚からするとかなり問題です。2019年にラグビーのワールドカップがありますが、ラグビー界というのは基本的に欧州の貴族が多いんですね。だから「日本は野蛮な国だ」みたいな話におそらくなっていく。

 そういった風潮はアメリカでもヨーロッパでもあって、こういう言い方はよくないかもしれないけどエリートの人たちって、たばこをすごく嫌うわけですね。会社でも吸っている人は出世できないとか、そういうレベルにまでなっている。でも、日本の場合はエリートと言われるような人にも吸っている人が多いんですよ。日本人は民度が低いと思われているわけですが、あまりそういうことを意識しないんですね。

 

特定健診受診の年齢見直しと介護予防としてのフレイル対策が重要

—そこまで禁煙にこだわる理由は?

尾﨑 僕は決して禁煙マニアというわけではないんですよ。「何で尾﨑はたばこのことばっかりやってるのか」と言われますが、病気の原因、要介護の原因、死亡の原因のいちばん上を占めているのがたばこ。だから、禁煙を推進しているんです。

日本医科大学で地域医療について特別講義

日本医科大学で地域医療について特別講義

 これからの東京は厳しい状況が待ち受けています。確かに東京は、急性期の病院は日本全国に誇るような病院がたくさんあります。しかし、幸い命が助かっても、リハビリや療養などの回復期の施設は、特に23区は圧倒的に足りません。どうしているかというと、埼玉や千葉、神奈川、多摩地域にお世話になっているんですね。でも、あと10年も経つと、周辺の地域も高齢化が進む。これまでは受け入れる余裕があったかもしれないけれど、当然自分の県の患者さんを優先しますよね。そうすると、東京の人は行き場がなくなるんですよ。

 そういう問題を解決するために、我々もがんばるし、東京都も各区市町村もがんばるわけですが、今のスピードで行くとおそらく準備できないでしょうね。

—それで禁煙を徹底的にやって、病気を減らそうとされているのですね。

尾﨑 そうなんですよ。

 それからもう一つ、介護予防としてのフレイル対策にも力を入れています。フレイルとは病気ではなく、健康診断で検査をしても血圧も正常、糖尿病もない、コレステロールも普通、肝臓も腎臓も悪くないけれども、アクティビティが落ちてしまっている状態のことを言いうんですね。

 今、特定健診というのが浸透していますね。特定健診というのは本来、若い方で腹囲が大きくて血圧が高く、糖尿病になりかけている人が、本格的な病気にならないようにするための健診なんです。30代、40代の人には非常に意味があるんですが、65歳から74歳の高齢者も受けている。そして、「太っちゃいけない、食事は控えなさい、肉はだめ、野菜中心に時々魚を食べなさい」とやる。

 どうなるかというと、たんぱく質を摂らないために、固いものがだんだん食べられなくなり、歯が弱り、筋肉が落ちる。それで動かないものだからさらに筋肉が落ち、骨がもろくなって、ちょっとした段差につまずいて転んで、普通なら骨折しないぐらいの衝撃でも骨折して、杖とか車いすとかになってしまうんですね。

—最近は元気なお年寄りは肉を食べると言われますよね。だいぶ流れは変わってきていると思うんですが。

尾﨑 実際には高齢者にもこれまで通りの指導が行われている部分があります。だから、厚生労働省にも言っているんですよ。30歳から50歳ぐらいまでは徹底的にやってもらいたい。だけど、50歳以上の人は普通の検診で十分。65歳過ぎて軽い高血圧や軽い糖尿病があってももういいでしょうと。もちろん、重症な糖尿病とか発見された場合は別ですし、がん検診はやったほうがいいと思いますよ。

 むしろ高齢者は、歩き方も含めて体の状態が落ちていないか、体重が減っていないか、歯は丈夫か、ちゃんと噛んでいるかということをチェックして、歯科医師、理学療法士、あるいは言語療法士、そういう人たちの力を借りて、介護予防的なものにシフトしていくべきだと思います。

 

多様性を持った超高齢社会であれば、決して暗い未来ではない

—たばこ対策とフレイル対策の他に、重点を置いているのは?

尾﨑 ポイントは三つありまして、一つは来年の保健医療計画の改訂です。都のマターとしては保健医療計画ですけれども、区市町村では介護計画が変わります。もう一つは障害福祉の変更。診療報酬の改訂もありますから、行政と一緒にどう対応していくかが大きなポイントになりますね。

 それから、3年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けた医療体制をどうするか。特に外国人医療は、言語の問題があります。私も含めてみなさん英語ペラペラ、中国語ペラペラなんて無理です。看護師やスタッフ、受付も含めて、タブレット等を利用しながら患者さんに対応できるようにしないといけないでしょうね。

 また、保険証がない人もいますので、どうやって診療費をいただくのか、あるいは払えない場合どういう保障をするのか。保険として保険会社で対応していく必要があるかもしれません。

 あとは新興感染症。いろんな病気が今後も入ってくる可能性がありますから、そういうことにも対応していかなくてはならないと思います。

—2020年の東京オリンピック・パラリンピックは7月下旬から8月上旬のすごく暑い時期の開催ですが、熱中症対策はどうなっているのですか。

尾﨑 僕らは自殺行為だと思っていますよ。暑さはまだしも湿度が違うんですよ、日本は。500億でエアコンが入るんだから、国立競技場には入れたほうがいいと思います。

 何れにしても、都立病院や大学病院といったところで対応することになると思いますが、それではとても足りないので普通の診療所クラスも協力しないと難しいと思いますね。こういう機会に共通の目的を持って、日常診療ではない社会的な意義を考えていただくのは、医師会活動にとってプラスになると考えています。

—これからの課題である地域包括ケアについてはいかがでしょう。

尾﨑 地域包括ケアは医療と介護の連携が中心です。昔は大家族でしたから誰かが気づいた。あるいは近所はみんな顔見知りで、誰かが気にしてくれましたけど、今は人間関係が希薄です。だから人工的な共同体を作っていかなければならないわけですが、健康、介護、福祉と、行政は縦割りじゃないですか。全部まとめて動かすのが地域包括ケアだと思うんですが、これがなかなか難しい。

 一方の医療介護は、総合的な力として医者が中心になって看護師、介護士、理学療法士と多職種協同でやらないといけないんですが、この連携もまだうまくいっていません。

—東京がいちばん必要とするところですよね。

尾﨑 でも、医者も看護師も足りない。特に訪問看護、介護関係の人が足りないんですよ。何で介護関係者が増えないかというと、一つは給料が安いから。それは保育士も同じです。

 これからは人にサービスを提供するような職業が大事です。そういう人たちの給料を高くし、やりがいがある、なくてはならない職業だというイメージを作って、そこにお金を投下していけば経済はよくなると思います。

 そして、女性がもっと働きやすい環境を作る。高齢者も元気なうちは働いて、そこにロボットを加えれば、少子高齢化が進んだとしても、支えられるはずです。そんな多様性を持った超高齢社会であれば、決して暗い未来ではないと思うんですよね。

 そういう意味で予防医療にきちっと力を入れるのは医師会の役目だと思っています。

 

公益社団法人東京都医師会 会長<br /> 尾﨑 治夫さんさん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
おざき はるお
昭和26年東京都出身。52年順天堂大学医学部卒業、医師国家試験合格。54年同大学医学部循環器内科学講座入局、60年同大学医学部循環器内科学講座講師 。平成2年おざき内科循環器科クリニック開設。10年東久留米医師会理事、14年東久留米医師会会長。18年日本医師会代議員 、23年東京都医師会副会長、24年 日本医師会監事、27年東京都医師会会長、28年日本医師会理事。医療法人 順朋会 おざき内科循環器科クリニック院長

 

  
 

 

 

タグ:公益社団法人東京都医師会

 

 

 

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