HOME » トップインタビュー Vol.119 江戸東京・伝統野菜研究会 代表 大竹 道茂さん

1 The Face トップインタビュー2017年11月20日号

 
江戸東京・伝統野菜研究会 代表 大竹 道茂さんさん
江戸東京野菜は、江戸の歴史や文化を伝える

江戸東京・伝統野菜研究会 代表 大竹 道茂さん

 JA東京中央会の農政担当時代、東京を含む三大都市圏農地への「宅地並み課税」により、東京に農地がなくなっていくことに危機感を覚える。京野菜や加賀野菜と同じように、東京にも伝統野菜があることを知り、平成元年より本格的に江戸東京野菜の復活に取り組む。江戸の歴史と文化を伝える江戸東京野菜を知ってもらうことで、東京の農業への理解を深めてほしいと願う江戸東京・伝統野菜研究会代表大竹道茂さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

江戸の歴史や文化を伝えているのは代々続く東京の農地であり農家

—弊紙の連載「蘇れ!江戸東京・伝統野菜」では大変お世話になりました。東京味わいフェスタ2017にブースを出されるなど、素晴らしい発展ですね。もともと農業との関わりはおありだったのですか。

江戸東京野菜コンシェルジュ協会が主催する収穫体験で奥多摩わさびを収穫

江戸東京野菜コンシェルジュ協会が主催する収穫体験で奥多摩わさびを収穫

大竹 両親は茨城の土浦のちょっと奥の出身で、父は東京の学校を出て小学校の先生をやっていたので、生まれは目黒です。戦争中で産めよ増やせよの時代、親父は教育者ですから非常に律義で……。そんなことで昭和19年、日本の国を救うために生まれてまいりました(笑)。

—当時、目黒には農地はあったのですか。

大竹 畑もありましたけど、農業に興味を持ったのは高校の頃で、いわゆるインドアガーデンということで観葉植物などが建物の中に導入され始めた時代でしたから、植物には自然に興味を持ちました。

 それで、東京農業大学に入ったのですが、農業拓殖学科(現国際農業開発学科)で、農業については、野菜栽培はもちろんですが、農業機械、農業経済、畜産まで浅く広く学びました。

 3年生の時に東京オリンピツクがありまして、国際的なボランティア団体SCIに入っていましたから、選手村と競技場の選手の送迎をやりました。強く印象に残っています。

—JA東京中央会(以下、中央会)に入られたのは?

東京都市大学付属小学校で実施している三國清三シェフによる食育プログラム「ミクニレッスン」にて

東京都市大学付属小学校で実施している三國清三シェフによる食育プログラム「ミクニレッスン」にて

大竹 中央会というところはJAの教育機関なんですよ。職員教育、農家教育、それからJAの経営、監査などが仕事でかなり幅広い。自分がやりたいことができる、いいところに入れたと思います。

 私が最初に配属されたのは電算課。昭和41年ですけれども、JAも各JAの金融をコンピュータでやろうということで導入したんですね。そこに10年近くいてプログラムを書いていました。その後、総務、そして農政担当になりました。

 農政担当の時の主な仕事は、都市に農地はいらないという例の国の政策、農地に宅地並み課税をして農家に土地を吐き出させ、それを住宅用地にするという国の考えに対抗する反対運動でした。東京の農政担当ですからね。農地をなくしたら環境がおかしくなると、自治体、消費者、農家、一体となって反対運動をしました。

—いつ頃ですか?

大竹 昭和56年頃のことです。その時に、東京に伝統野菜があるということを知って、「子どもたちに残したい身近な自然」という小冊子を作ったんです。

 東京の農家というのは江戸の頃からの農家の末裔なんですね。途中で農地を買ったわけではなく、分家、分家で土地を分けてもらってきた。

 だから、江戸からの歴史や文化が言い伝えや記録として残っているのは、農地であり農家なんですよ。

 

東京に限らず農地を守らないと日本の伝統そのものが途切れてしまう

—つまり昭和の終わり頃までは伝統野菜はまだ作られていたということなのですね。

大竹 作られていたんですよ。しかし、昭和40年代に指定産地制度が制定されると、例えば大根なら三浦とかキャベツなら嬬恋とか、規格に合ったものを大量に生産する産地ができたんですね。でも、伝統野菜は大きさも形も揃っていないから、流通に乗らないわけです。東京は流通と言っても近所の人が買うんですから、流通のことは考えなくてもいいんですけど、やはり種屋さんが高度な育種技術で作った交配種は作りやすいんですよ。そうやってどんどん交配種に代わっていってしまいました。

 種屋さんだって買ってくれるのは農家ですから、農家が栽培しやすいように品種改良しますよね。どういう品種改良かというと、作りやすいこと。はじめは味じゃなかったんですよ。だから、おいしくない野菜ばかりになってしまった。それは大変だということで、平成に入ってから伝統野菜を守るような活動を中央会として始めたんです。

 まず元年から試験場の場長経験者、普及所長経験者の皆さんにお願いをして原稿を書いてもらって「江戸・東京ゆかりの野菜と花」という本を出しました。先輩から伝統野菜を作っている農家が激減しているという話を聞いていましたので、出しておいて大正解でした。

 というのも、伝統野菜は時間との戦い。知っている人が死んでしまったら、作り方もわからず、種もなくなってしまう可能性がありますからね。その後、畜産の歴史も書いてくれと言うことで、「江戸・東京暮らしを支えた動物たち」という本も出しました。

秋葉原駅前のオープンスペースで行われたイベントで辻説法式に江戸東京野菜について話す

秋葉原駅前のオープンスペースで行われたイベントで辻説法式に江戸東京野菜について話す

—それで「江戸・東京の農業」の説明板も作られたのですか。

大竹 平成9年が農業協同組合法という法律ができて50周年だったんです。それを記念して何か作ろうという話が出たので、私は伝統野菜をやっていましたから、観光地に良くある歴史の説明板のように、「ここに伝統野菜があった」という記録の説明板を作ったらどうでしょうと提案したんです。今までにない発想だったので、当時のトップがそれはおもしろいと、JA東京グループでやろうということになりました。50周年で50本ですからね、記念事業でなければできませんでしたね。

—それを機に小学校で江戸東京野菜の栽培をしたり、町おこしが始まったりしましたよね。

大竹 例えば亀戸大根の板は、亀戸の香取神社に立てたんですが、商店街の若い人たちが「ここにこんなのがあったのか、知らなかった」と、町おこしとして「亀戸大根の福分け祭り」を始めました。もう17年も続いています。すると、当時亀戸大根を作った小学5年生くらいだった子たちが、親になっているんですね。そして子どもたちに伝えている。そうやって代々、種とともに歴史や文化が伝わっていくんでしょうね。

—東京の農業を守るということは、江戸から続く歴史や文化を守り伝えていくということなんですね。

大竹 本当に今、東京に限らず農地を守らないと、日本の伝統そのものが途切れてしまうと危機感を抱いています。

 

江戸東京野菜は東京に来て食べていただく“おもてなし食材”

—「江戸東京・伝統野菜研究会」からさまざまな活動が派生していますね。主なものはどんなことですか。

大竹 まず、発見された江戸東京野菜を承認するオフィシャルな組織として、中央会の中に「江戸東京野菜推進委員会」を設立しました。それから、江戸東京野菜に魅せられた人たちの個々の活動を取りまとめるため、「NPO法人 江戸東京野菜コンシェルジュ協会」を設立。江戸東京野菜のコンシェルジュの資格を与えて普及に努めてもらおうということです。

 個人的な活動のメインは「江戸東京野菜通信」というブログで、これは毎日書いています。3000日以上続いていますが、それだけ情報があるということなんですね。

 一人の活動を紹介すると、そこからどんどん広がり、地方の人との交流にもつながっていきます。先日も大阪に行って野菜の歴史研究家の久保功先生にお会いし、なにわ野菜についてなど素晴らしいお話を聞いてきました。

—なにわ野菜とおっしゃいましたけど、大阪にも伝統野菜があるのですか。

大竹 京野菜や加賀野菜は有名ですが、熊本の肥後野菜、高知の土佐野菜、兵庫にも山形・庄内にもあります。そういうところで話を聞きますとね、これは江戸から持ってきた野菜だというのがあるんですよ。

 そもそも江戸の野菜は、各大名が故郷の野菜を江戸に持ってきて栽培させ、江戸の気候風土の中で根づいたものです。城北と言いますが、北区、板橋区、練馬区辺りは関東ローム層の火山灰土がやわらかくて深いんですね。尾張から持ってきた大根をまいたら、1mもあるような長いものができちゃった。練馬大根ですね。滝野川ゴボウや滝野川ニンジンも1mくらいあります。

 そういうのを見たら、みんな種がほしいですよね。だから江戸土産といえば、お菓子じゃなくて一握りの種。軽くて万倍ですからね。それで練馬系大根は日本全国に広まったんですよ。神奈川の三浦大根も一方の親は練馬大根です。ゴボウも、今日本で流通しているものの8、9割は滝野川系と言われています。

—確か練馬大根は5代将軍の綱吉が尾張から取り寄せたとか、江戸川の小松菜は8代将軍吉宗が名付けたとか、将軍の名前が出てきたりして、歴史的にみても面白いですよね。

大竹 食べて美味しいのはもちろんですが、野菜のバックグラウンドを知ったらもっと楽しいですよね。ただ、江戸東京野菜は揃いが悪くて流通に乗らなくなった野菜ですから、これを大々的に広めようという考えはありません。東京に来て食べていただく“おもてなし食材”と位置づけています。

 「どこで買えるの?」という問い合わせもよくいただくのですが、農家の皆さんには一作でもいいから何か作って、地元の直売所に出してほしいとお願いしています。我々が地方の道の駅に行くと、その土地ならではの珍しいものを探しますよね。それと同じように直売所の目玉になるようなものを作っていくことが大事だと思います。

 私がやってきたことは、基本的に東京の農業振興です。キャベツやブロッコリーは大産地がいっぱいありますが、江戸の歴史、文化と関わっている野菜はここしかありません。そういうところから、皆さんに東京の農業への理解を深めていただけると嬉しいですね。

 

江戸東京・伝統野菜研究会 代表 大竹 道茂さんさん

撮影/木村 佳代子
インタビューが行われたのは、地産地消に力を入れている三國清三シェフが平成21年、丸の内にオープンしたミクニマルノウチ。江戸東京野菜も含めて東京の食材が食べられる店として知られる

<プロフィール>
おおたけ みちしげ
昭和19年東京都生まれ。41年東京農業大学卒業。同年、東京都農業協同組合(JA東京)中央会に入会。平成元年より江戸東京野菜の復活に取り組み、平成9年には江戸・東京農業の説明板50本を都内に設置企画。平成20年から23年まで東京都農林水産振興財団で食育アドバイザー。現在は農林水産省選定「地産地消の仕事人」。農林水産大臣任命「ボランタリー・プランナー」。総務省「地域力創造アドバイザー」。NPO法人江戸東京野菜コンシェルジュ協会会長などを務める。著書に「江戸東京野菜(物語編)」、監修に「江戸東京野菜(図鑑編)、「まるごと! キャベツ」「まるごと! だいこん」など他数。

 

  
 

 

 

タグ:江戸東京・伝統野菜研究会 大竹道茂 江戸東京野菜コンシェルジュ協会

 

 

 

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