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仕事に命を賭けて Vol.1132017年11月20日号

 

陸上自衛隊 第1師団 第1後方支援連隊
補給隊 業務小隊 需品サービス班 3等陸曹
 靏 麻美

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。  地震や豪雨による被害で、自宅からの長期避難を余儀なくされた場合、居住場所や食事だけでなく、入浴環境も必要となる。東日本大震災、熊本地震と被災現場で入浴支援を経験した女性隊員に話を聞いた。

(取材/種藤 潤)

陸自の訓練や災害時の野外入浴を支援

 靏麻美3曹が所属する「第1後方支援連隊」は、1都6県の防衛警備および災害派遣を担任する陸上自衛隊第1師団の補給・整備・輸送・衛生などの支援を行う部隊だ。連隊の「補給隊」に所属する「需品サービス班」は、生活基盤を支える「業務小隊」で、野外入浴や洗濯の支援を担当している。靏3曹は、そこで野外入浴支援の専門部隊の一員として、8年間活動してきた。

屋外入浴施設の外観。5m×5mのテントを複数繋ぎ合わせテント内に脱衣所や浴室が設置

屋外入浴施設の外観と内観。5m×5mのテントを複数繋ぎ合わせテント内に脱衣所や浴室が設置

 具体的な任務は、第1師団の訓練現場等で野外入浴支援施設を開設し、隊員の戦力回復のために入浴環境を整え、支援期間中の設備の整備維持をすることだ。また、災害が発生した際、被災地において入浴施設を開設し、避難所での生活を余儀なくされる被災者に対して入浴支援等を行うのも、同班の任務だ。

 第1後方支援連隊補給隊は、関東一円を支援する第1師団に所属するが、東日本大震災や熊本地震等大規模災害の際には、靏3曹を含め同班の隊員が被災現場に駆けつけた。

 「実は私が体育学校から戻り、本格的に需品サービス班に配属になった直後に、東日本大震災が起こったんです。入浴支援をした経験がほとんどない状態でしたので、実践のなかでその方法を学んでいきました。実際の災害現場ではどんなことが起こり、どのような入浴支援が求められるかを身をもって知ることができました。おかげで昨年の熊本地震ではスムーズに入浴の支援ができたと思います」

 

入浴支援部隊の約半数が女性
年齢も20代が中心

隊員は入浴施設を開設し、その後は浴室の清掃やボイラー等の機器のメンテナンスを行う

隊員は入浴施設を開設し、その後は浴室の清掃やボイラー等の機器のメンテナンスを行う

 靏3曹は、入隊直後の教育期間中に、中越地震で入浴支援を行った女性隊員の体験談を聞き、この任務に就きたいと思ったという。

 「女性が最前線で被災者の方々をバックアップできる仕事にやりがいを感じ、部隊への配属を希望しました」

 需品サービス班が所属する「補給隊」は、第1師団のなかでも女性の割合が高い部隊であり、全体の2割が女性。特に需品サービス班は約3分の1を女性が占める。

 「しかも女性隊員のほとんどが20代。私は今年ちょうど30歳になるのですが、現在は指導する立場です」

 女性中心の隊だからといって、力仕事が少ないわけではない。特に入浴施設の開設や撤収は、男女問わずハードな仕事だ。野外入浴施設は、5m×5mの巨大なテントを繋ぎ合わせて建てられる。災害派遣の場合は男女それぞれ2個ずつ、計4個のテントを使用して構成されることが多い。その4個のテントを建てるために、重い機材を運び、開設する。撤収も同様だ。

 「開設は6名で約3時間以内、撤収は約2時間以内という基準があります。天候が悪かったとしても、原則として時間内の開設が最優先です。もちろんそこで女性だから、という言い訳は通用しません」

 

女性ならではの視点を生かし真情あふれる支援に徹する

 開設・撤収は体力的に大変だが、それは女性でも経験と組織力である程度対応できるという。それよりも、特に災害派遣では、女性ならではの入浴環境の整備が重要だと、靏3曹は語る。

熊本地震災害派遣での支援現場にて。浴室入口には、利用者が困ったこと、感じたことを書き込めるメモ帳を設置。そこには靏3曹への感謝のメッセージも綴られていた

熊本地震災害派遣での支援現場にて。浴室入口には、利用者が困ったこと、感じたことを書き込めるメモ帳を設置。そこには靏3曹への感謝のメッセージも綴られていた

 「8年の経験を経て、今は男女の部下を指導する立場ですが、清掃をする時など、男性では気づきにくいポイントがありますので、その都度指摘しています。また、被災地の入浴支援で感じたのは、自衛隊を“怖い”と思っている被災者の方々がいるということです。女性であることで、その印象を少しでも和らげることができるのではないかと思い、積極的に挨拶して、なるべく明るい雰囲気を作るように心がけました」

 もともと靏3曹は、人見知りせず誰とでもコミュニケーションが取れるタイプだが、それでも東日本大震災の際は、苦しみや悲しみ等、被災者の心情を十分に理解できていないと感じ、そんな自分が軽々しく笑顔で接することに抵抗を感じたという。

 しかし、支援を続けているうちに、大切なのは一生懸命に被災者の立場で考え、支援に繋げていくことだと気づいた。その経験は、熊本地震の被災地で十分生かされたと話す。

 「まさに我が班のスローガンである“真情あふれる支援に徹する”ことですね。後輩たちが少しでも真情あふれる支援ができるよう、指導していければと思います」

 

【プロフィール】
1987年福岡県久留米市生まれ。大学まで地元で柔道選手として活躍。2010年陸上自衛隊に入隊。同年9月より第1後方支援連隊補給隊に配属されたのち、半年間自衛隊体育学校に入校。翌年3月より補給隊に復帰し、以後8年間現職として、野外入浴支援等に携わる。その間、東日本大震災や2013年の台風による伊豆大島土砂災害、昨年4月の熊本地震災害に伴う各種被災現場で、被災者支援を経験した。

 

 

 

 

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