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1 The Face トップインタビュー2018年04月20日号

 
株式会社和える 代表取締役
 矢島里佳さんさん
日本の伝統や先人の智慧を次世代につなぎたい。

株式会社和える 代表取締役  矢島里佳さん

 「日本の伝統を次世代につなぎたい」と大学4年、22歳で起業。伝統の技に現代の感性を和えて生まれた、赤ちゃん、子ども用の食器が大ヒットした。その後も「伝統×ホテル」、「伝統×お直し」など、伝統をベースに様々な事業を展開。これからの活躍がますます期待される株式会社和える代表取締役、矢島里佳さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

著しい経済成長によって失われたのは、経済ではなく文化、暮らし、自然だった。

—もともとジャーナリスト志望だったそうですね。

矢島 子どもの頃から自分が知ったことを誰かに伝えるのが好きで、既存の職業だとジャーナリストがいちばん近いと思っていました。

 職人と伝統に興味があったので、19歳の頃から全国の職人さんを回り始めたのですが、ジャーナリストとして誰に、いつ、どのような形で伝えると最もいい循環が生まれるのだろうかと考えながら取材していました。当時、日本の伝統を次世代につなぐことを目指しているジャーナリズムは、存在していなかったように思います。

 自分ならどうするかと考えて、まずは赤ちゃん、子どもの時に知ってもらうのがいい。でも、赤ちゃん、子どもには言葉だけで伝えるのは難しい。それで、伝統産業の職人さんの技術と現代の感性や感覚を和えて、赤ちゃん、子ども向けに物を作っていただこうと思い、“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げました。だからaeruは小売業ではなく、ジャーナリズムなのです。

青森県の津軽焼職人と

青森県の津軽焼職人と

—作ることから始まって、去年から「お直し」事業を本格的に始めたそうですね。

矢島 最初は“0から6歳の伝統ブランドaeru”のサービスの一つでしたが、次第に、自宅にあるものも直したいというご要望が増えていることが、現場の声でわかってきました。そこで、お直しという伝統や物を大切にする心をより広くお伝えできればと考え、サービスの一環ではなく、本格的に事業化することにしたのです。種は確かに私が生み出したかもしれませんが、それを大きく開かせたのは社員なので、とても嬉しいです。

—陶磁器にしても漆器にしても、「直せる」ことを知っている人は少なくなりましたね。

矢島 知らない世代が親になっているので、子どもが「直せる」という選択肢を知らないのは当然かもしれません。好む、好まないではなく、選択肢としてないのですから。高度経済成長、バブルの後、失われた20年、30年と言われていますが、本当に失われたのは経済だけではなくて、こうした文化、暮らし、自然だったのではないかと思うのです。

 私はバブルが弾ける寸前、88年に生まれたので、物心が着いた時は経済の低迷期と言われていましたが、実感としてはまだ豊かで、当たり前に学校も行けて、病院も行けて、ご飯も3食食べられました。著しい経済成長という人類の一つの挑戦の時には、文化、暮らし、自然はいったん脇に置かざるをえなかったのかもしれません。でも、挑戦から見えた結果は、経済だけで人間は豊かになれないらしいということ。

 ですから、私たちの世代が挑戦すべきことは、文化、伝統、自然を次の世代に残すことだと思うのです。自然淘汰であれば仕方ありませんが、あまりにも人工的な淘汰になってしまったのがこの20〜30年だと思うので、文化、伝統、自然を育むことについてもう一度土俵に上げて、皆さんに問うてみたい。その上で、必要でないと言うなら、それは自然界の摂理で淘汰されていくのは仕方ないと考えています。

 

経済と文化を両輪で育む、次世代型のビジネスモデルを発信。

—昨年、女性起業の関心を高めることなどを目的に開催されている第2回「APEC Bus iness Efficiency and Success Target(BEST) Award」でAPEC BEST AwardとBest Social Impact Awardをダブル受賞されたそうですね。

矢島 日本代表の起業家として、内閣府男女共同参画局からご推薦をいただき、プレゼンをさせていただいたのですが、先進国、新興国に限らず、その国の伝統文化を次世代につなげていくということは喫緊の課題のようです。和えるは課題解決のために事業を展開しているというよりは、日本の伝統文化に現代のニーズを和えた商品の開発・販売を行うことで、結果として次世代に伝統がつながるという循環を生み出していることが、評価されたのだと思います。

—伝統文化を守るだけではなく、活かすことでビジネスになり、また文化も育まれるということですね。

矢島 21世紀は、今までの経済一辺倒の成長モデルではなく「文化が経済を育てて、経済が文化を育む」というサイクルを前提とする新しいビジネスモデルの構築が重要になると思うのです。私たちは、伝統文化を次世代につなぐことを目指し、文化と経済、両輪での成長に挑戦しています。そのような次世代型のビジネスモデルについて、少しでも世界に発信することができたのではないかと感じています。

—全国の職人さんにお会いになっていちばん感銘を受けたことは?

矢島 一人ひとり、それぞれに魅力をお持ちですが、みなさんに共通しているのは、今の自分のことだけを考えて生きていないということです。職人さんは、自然と共に生きて、自然に命をいただきながら仕事をされているので、5年、10年先ではなく、百年、2百年、千年ぐらい先のことを想像しながら生きるのが当たり前なのです。

 例えば今、この木を切って器を作れるのは、百年前に百年後の私たちのことを考えて木を植えてくださった方がいるからです。百年、2百年、千年先の人のために、今何ができるかを考える人が増えれば、日本、ひいては世界の未来はもっと明るくなると思いますし、今の自分たちにとっても最善の判断になると思っています。

『こぼしにくい器』の使用風景

『こぼしにくい器』の使用風景

—何百年、何千年先のことを考えながら今を生きると、価値観が変わりそうですね。

矢島 私たちは、もう一度生きることの本質を考えないといけない世代だと思っています。特に私たち以降の世代は、お金だけでは人間は幸せに生きていけないということを、生まれながらにして社会環境から学んでいる。

 バブルの時に幸せのパッケージができたのだとしたら、今はそれで幸せな人もいれば、幸せではない人もいて、幸せを定義することが難しくなっている。当たり前に聞こえるかもしれませんが、自分の幸せは自分にしかわかりません。要するに、自分のことをよく知ることが、人生をより豊かにできる方法なのだと思います。

—今の若い者はやる気がないとか言われますけど、そうではないと。

矢島 はい。実際、本気で社会の役に立ちたいと思っている方は、多いと感じています。10代の方々と話していると、自分のことだけを考えている方はほとんどいません。必ず自分と社会、周辺の人という視点をお持ちです。

 

創業の要は辞める時と承継する時。事業承継を踏まえてビジネスモデルを考えた。

—2025年までに今ある127万の中小企業のうちの3分の1が廃業予定という統計が出されましたが、職人さんの後継者についてはどうなのですか。

矢島 経済産業省によると、2015年時点で中小企業の経営者で最も多い年齢層は65〜69歳で、職人さんの年齢も同じくらいです。トップの年齢が高いために廃業の可能性が上がっているわけで、事業承継は日本の全産業の喫緊の課題だと思います。20代、30代、もちろん10代でもいいのですが、若い世代を承継者の対象にして、若返えらせていくことが継続の鍵ですね。

 人生百年時代なので、社長を辞めたら引退ということではなく、見守る側として会社に残ってもいい。とにかく経営者が元気なうちに、自らハンドリングができる若い人に継げる体制を作っておくことが大切だと思います。

—下の者がトップに「そろそろ代わりませんか」とは言いにくいですものね。

矢島 そうですね。それに、トップの年齢が高いと、20年、30年後まで会社が継続していけるのかなと感じたら、20代の子は不安で入社できないかもしれません。これは、中小企業が若い人の採用に苦戦される要因の一つです。ある程度トップは若いほうが、若い人をリクルーティングしやすいと思います。

『徳島県から+本藍染の+出産祝いセット』の製作風景

『徳島県から+本藍染の+出産祝いセット』の製作風景

—そういう考え方は事業をやってきた中から生まれてきたのですか。

矢島 私は大学院でファミリービジネスを学んでいたので、一番の要は辞める時と承継する時だと考えていました。

 会社を作るのは簡単です。法務局へ行けば誰でもすぐにスタートできますから。「和える」を創業する時からすでに、どういった形で事業を承継するかということを含めてビジネスモデルを考えていました。

—どういうビジネスモデルですか。

矢島 例えば、私はお母さん、和えるくんは息子だとします。和えるくんが20歳になった時、私は42歳。私はそこでいったん社長を退任して、会長というおばあちゃんになる。新しい社長というお父さんかお母さんは、社内外から公募してみんなの総意で決める。数年だと短期的視野になってしまうので、最低でも干支一回り12年は在任してほしい。

 日本人の平均年齢が今46歳ぐらいなので、就任時46歳前後くらいまでで、12年以上できる人がお父さんお母さんになるというルールがわかりやすいと考えています。

—矢島さん、ひいおばあちゃんくらいまで行ける可能性がありますよね。

矢島 はい(笑)。でも、経営のリスク管理としては、お父さんお母さんに何かあっても、おばあちゃん、ひいおばあちゃんがいるので何とか面倒を見られます。逆もしかりで、要は経営ができる人材が社内に3人ぐらいいると、事業部が増えたとしても、「お父さんお母さんが見られるのはここまでなので、おばあちゃん、こちらをお願いできますか」、などということができても良いのではと。

—“和えるくんの家”で実践した事象を伝えていくって、まさにジャーナリズムですね。

矢島 もともと起業家を目指していたのではないからなのかもしれませんが、成功という概念にさほど興味はありません。むしろ、分析して仮説を立て、それを検証するプロセスに興味がある。実証は数十年後にはなるかもしれませんが、自らが、和えるという事業を検証し続けて、その事象を伝えていきたいと思っています。

 

株式会社和える 代表取締役
 矢島里佳さんさん

撮影/宮田 知明

<プロフィール>
やじま りか
1988年7月24日東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。2011年3月大学4年時に株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。オンライン直営店、東京直営店「aeru meguro」、京都直営店「aeru gojo」を展開。その他、“aeru room”、“aeru oatsurae”など、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

 

 

 

 

 

タグ:和える aeru 伝統文化

 

 

 

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