2020大会の成果を東京のスポーツレガシーへ

  • 写真提供:東京都

 2021年夏、大会史上初の延期という困難を乗り越え、東京2020大会は開催された。いかなる困難にも立ち向かい、最高のパフォーマンスを発揮するアスリートの姿は、私たちに感動と勇気を与えてくれた。この大会を機に、都内では、スポーツ施設の整備や都市のバリアフリー化などハード面が大きく進展した。また、パラスポーツへの関心の高まりや、大会を支えたボランティアの活躍などソフト面の取組も注目を集めた。私たちの記憶に残る、この大会の成功を経て、その後の東京・日本はどのように変わっていくのか。東京2020大会が遺したレガシーをより具体的に掘り下げていく。 

カヌー・スラロームセンター見学会(羽根田選手デモ)

TOKYOスポーツレガシービジョン

  先月21日(金)、東京都は、東京2020大会の成果を、今後どのようにスポーツの振興に活かし、都市の中で根付かせていくか、その姿を示す「TOKYOスポーツレガシービジョン」をとりまとめ、公表した。「都立スポーツ施設の戦略的活用」、「パラスポーツの振興」など、7つの取組が取りまとめられている。

新たなスポーツ施設の戦略的な活用

  東京都は、大会に向け、6つの新しいスポーツ施設を整備。既存のスポーツ施設のバリアフリー化等も進めてきた。この大会を契機に、東京のスポーツインフラがバージョンアップした。

 こうしたスポーツ施設は、インフラとしてのコストに目が行きがちだ。しかし、コストだけで施設の価値を計ることはできない。スポーツ施設そのものが持つ、公共的な側面にも着目するべきではないか。

 具体例を挙げると、今回、新たに整備された「カヌー・スラロームセンター」は、国内唯一の人工スラロームコースを完備している。まだ競技人口の少ない分野のアスリートにとって、身近な場所にハイレベルな練習環境が整ったことは、更なる競技力の向上へとつながる、大きな価値をもたらすだろう。この価値は、コストとして計ることのできない、無形の価値である。

 スポーツ施設の恩恵を受けるのは、アスリートだけではない。都民がスポーツに触れられる場の拡大にもつながる。

 東京都が発表した最新の調査によると、都民・国民のスポーツに対する関心は高く、都民のスポーツ実施率は68・9%に上昇した。調査対象などが異なるため単純に比較することはできないものの、世界的に見てもフィンランドやスウェーデン、オーストラリアに並ぶ高水準だ。

 多様なスポーツを体験できる機会が幅広く提供され、都民の日常にスポーツが溶け込んでいく。そのこと自体が、まさに社会にもたらされる新しい価値なのではないだろうか。

 当然、この貴重なスポーツインフラを未来へと受け継いでいくためには、収益の向上やコストの削減に最大限取り組んでいく必要がある。東京都は、大会の3年前(平成30年8月)に指定管理者を決め、いち早く、大会後の利用に向けた体制を整えてきた。早い段階からの取組が実を結び、再開業後には、各種大会等の開催も予定されている。

 全18か所となる都立スポーツ施設のネットワークが持つポテンシャルは、世界から見ても、東京の大きな強みとなる。

 国際大会などの誘致に加えて、文化やエンターテイメントなど、地域とも連携して様々に活用され、そのポテンシャルが最大限発揮されることで、かけがえのない価値を提供し、都民の健康で豊かな暮らしにつながることを期待する。

有明テニスの森公園テニス施設見学会

有明アーバンスポーツパーク(仮称)の整備

  今大会で新たに正式種目として採用された競技では、日本勢の躍進が目立った。その中でも、スケートボードでは、4種目で金3個、銀1個、銅1個とメダルを量産。日本史上最年少の金メダリストも誕生した。

 大会を通じて、スケートボードやスポーツクライミングなど、若者に人気のある都市型スポーツ(アーバンスポーツ)が、日本そして世界の脚光を浴びたことは、語り継がれる今大会の成果の一つだったのではないだろうか。

 これらの競技は、臨海部に設置された仮設競技会場で開催された。東京都は、この大会時の仮設競技会場を活用して、有明エリアに新たに「有明アーバンスポーツパーク(仮称)」を整備する計画だ。

 大会での盛り上がりを引き継ぐだけでなく、都民が多様なスポーツを楽しみ、地域の賑わい創出にも貢献する場として、大きく発展していくことだろう。

有明アーバンスポーツパーク(仮称)イメージパース

2度のパラリンピックが与えた気づき

  1964年の前回大会は、「パラリンピック」という名称が初めて用いられた大会だった。

 日本からの出場選手は53名。この大会を機に、国内における障害者スポーツの環境整備が飛躍的に進んだ。まさに、障害者をスポーツへと誘う機会となった大会であった。

 そして今回、世界で初めて、2度目となる夏季パラリンピックを成功させた都市・東京。「多様性と調和」をコンセプトに掲げた大会は、共生社会やジェンダー平等などに向けた様々な取組が注目を浴びた。

 女性アスリートの参加割合は、オリンピックでは約48%、パラリンピックでは約42%と史上最高。オリンピックの男女混合種目は過去最多の18種目を実施、開会式での入場行進では、大会史上初となる男女共同旗手が実現された。これまでの中で、最もジェンダーバランスのとれた大会となった。

 そして、様々な障害を持つパラアスリートたちが、競い合う姿は、私たちに大きな気づきを与えてくれた。

 特に、子供たちにとってのインパクトは大きかった。

 東京都は、都内の公立学校2300校、100万人の児童・生徒を対象に、2016年から6年間オリンピック・パラリンピック教育を実施してきた。

 アスリートとの交流や競技体験、ボランティア体験などを通じて、スポーツだけではないオリンピックの精神を伝える取組だ。参加した児童・生徒からは、「スポーツや別のことを頑張りたいと思った」という意見が多く寄せられたという。

 未来を担う子供たちが、「誰もが持っている可能性に気づく」ことは、大きな一歩だ。

 競技を目の前で見る機会は限られたが、子供たちは、大会を通じて確かな「気づき」を得た。この「気づき」を、一人ひとりができること=行動へと育て上げていくことが、私たちの目指す共生社会の実現へとつながるのではないだろうか。

都民の日常にスポーツを浸透させる

 アスリートや競技団体からも高く評価をされた大会施設。前回(12月20日発行号)でも紹介した、パラスポーツの振興に向けた数々の取組。

 これらの大会の成果(レガシー)を、一過性のものとして終わらせてはならない。このレガシーを未来へとつなぎ、都民の日常にスポーツを浸透させていくことこそ、世界で初めて、2度目となる夏季オリンピック・パラリンピック競技大会を開催した都市・東京に課された使命ではないだろうか。

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