地域防災力向上を目指して【5】
小山七丁目町会(品川区)
要援護者支援のための見守りネットワークをつくる
品川区小山七丁目町会では、平成20年度から、首都直下地震に伴う大災害への危惧もあって、災害時要援護者支援活動に着手してきた。また、21年には品川区より「孤立死ゼロ作戦」の働きかけもあり、この活動に対する助成金をもとに、①災害時要援護者支援、②平常時の見守り、③平常時の助け合い活動を3本柱とする仕組みづくりを進めてきた。「東京防災隣組」第一回に認定された「要援護者支援のための見守りネットワークづくり」の取り組みを紹介する。
取材/津久井 美智江
孤立死ゼロ作戦を機に活動開始
平成20年、町会内で2件の「孤立死」が発生した。小山七丁目は、区内でもとくに高齢者の割合が高い地域。災害時要援護者支援と孤立死防止は切実な課題として受け止められた。
「町会の役員になったばかりの頃、区が主催する災害時要援護者支援のワークショップや避難訓練に私も参加する機会がありまして、高齢者の問題は町会にとっても大事だと話し合っていたところでした」と話すのは品川区小山七丁目町会副会長の葛西武志さん。21年から品川区が地域見守り活動実施団体助成事業をスタートさせ、「孤立死ゼロ作戦」を目指して“見守り”活動を行っている地域に対して、10万円を限度に助成金を出すことになり、小山七丁目町会でも助成金の申請を行い「支え合い活動の仕組み」を構築する活動に取り組むことになった。
最初に行ったのは、町会の会員がどのようなことを望んでいるのかを知るためのアンケート調査。その結果、支援を希望する人、支援に協力してくれる人が明らかになり、その他、さまざまなニーズが明らかになった。
「例えば、災害時だけでなく、平常時の安否確認、通院や買い物の付き添い、食事の世話などの手助けをしてほしい人がいた。こうした会員のニーズを具体的に把握するために、アンケートに回答してくれた一人ひとりを戸別訪問して、実態を確認しました」
要援護支援者と支援者を結ぶ名簿
この活動のポイントは、「災害時要援護者」と「支援協力する人」の関係が、住宅地図上でひと目で分かるようなマップをパソコンで作成するシステムを構築すること。そのために必要となるのが、会員の世帯状況やニーズといった情報が一元化された名簿だ。
「この活動に対応した情報ということで、品川区の高齢者福祉事業部と防災課の両方から名簿をいただいたのですが、それぞれ目的が異なりますから、同じ人でも記載されている内容が違うんですね。そこで、私がエクセルと格闘しながら、必要な項目を追加し、整備していったんです」
そこに記されているのは、住所、氏名、年齢、性別、世帯状況といった基本データはもちろん、「災害時要援護者支援活動」「平常時の見守り活動」「平常時の助け合い活動」の各項目について「支援してほしい」「支援します」といった意思表示など。膨大な量だ。その作成・管理をやるのは葛西さん一人。気がついたら最初の調査から2年が過ぎていた。
そこで23年9月、状況の変化や現状の把握・確認、さらに会員の意見を聞くために第2回目のアンケートを行うことにした。
「支援する側だった人が、支援される側に変わっていたりするんですね。また、災害時要援護者の中には安否確認のほか避難の支援も必要だったりしますから、避難支援者は3人以上が必要です。そう考えると支え合いのネットワークづくりは大変です」と、葛西さん。高齢化によって要支援者が増えて、支援者が減っているという実態がますます懸念される。
お互い様の精神が芽吹き始めた
名簿の情報をパソコン上のマップに反映して初めて、この「支え合い活動の仕組み」ができ上がるわけだが、そのためには住人が転出し家がなくなれば消したり、新しくマンションが建ったら書き加えたりと、自由に書き込みができる地図データが必要になる。
ようやく探し出した東京都関連のデジタルマップの会社から助成金でまかなえる程度の金額でデータを入手し、自治体、自治会、福祉関連団体の災害時のデジタルマップを作っている個人経営の小さな会社を見つけて、都市型の災害に対応するにはどういう機能を持たせればいいのか、知恵を出し合ってシステムを構築した。さらに要援護支援者は男性なのか女性なのか、一人暮らしなのか老々世帯なのかといったことがひと目で分かる凡例マークも作成した。後は名簿の情報を地図に落とし込むだけだ。
「小山七丁目は、地域の繋がりが希薄で、実際、人が集まる集会所もありませんでした。でも、昨年の大震災で家族や地域の絆の大切さが見直され、また、この活動によってお互い様の精神が芽吹いてきているのではないかと感じています。それに今年、町内の洗足会館が建て替えられ、地域の人たちが集まる場所ができました。これからはそこを拠点に活動の場を広げていこうと計画しています」と、副会長の阿部佐千子さんは、期待を込めて語ってくれた。
品川区七丁目町会の「要援護者支援・見守りネットワークづくり」は着実に前に進んでいる。
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