地域防災力向上を目指して【6】
東京駅周辺防災隣組
(東京駅・有楽町地区帰宅困難者対策協力会)【千代田区】
帰宅困難者対策を中心に
東京駅周辺の防災に取り組む
「東京駅周辺防災隣組」は、帰宅困難者をはじめとする、「街」が直面するさまざまなリスクに対して、企業の枠では捉えきれない管理面での活動を目的として、「企業間の共助」という新しい理念のもと有志が集まり、知見を出し合い実践的な活動を展開している組織だ。代表を務める株式会社セイビの松井正雄さん、事務局を務める一般財団法人都市防災研究所の守茂昭さん、アドバイザーの三菱地所株式会社の水口雅晴さんに取材した。
取材/津久井 美智江
「企業間の共助」という新しい理念
東京駅周辺、千代田区大手町・丸の内・有楽町・内幸町は、数多くの企業が集まり、また多くの人が行過ぎる一つの「街」だ。大都市の中の「街」が賑わいとともに多くの来街者を迎えることは、自然災害や社会・人為的災害のリスクが高まることに他ならない。遠距離通勤の時代、移動中の市民が災害に見舞われれば、その混雑と混乱はこの上ないものになる。
「東京駅周辺防災隣組」(以下防災隣組)は、東京駅周辺という代表的な都心の安全・安心のあり方を考え、それを地元の「街」としてどう実現していくのか、地区内の企業の有志が集まり、知恵を出し合い、活動している組織である。
設立のきっかけとなったのは、企業有志が立ち上げた「東京駅周辺・防災対策のあり方検討委員会」。平成14年、伊藤滋東京大学名誉教授を委員長とするこの会の「帰宅困難者対策と企業セキュリティ」において、地元企業組織が地区の防災活動に対応する必要性を指摘。「企業間の共助」という新しい考え方(DCP=District Continuity Plan)による自主防災組織づくりが提唱され、平成16年、伊藤委員長命名により「防災隣組」が発足した。
ちなみにDCPとは、企業の業務継続計画(BCP=Business Continuity Plan)の手法を地区全体に拡大し、災害発生後の地区内残留を前提とする「街」としての業務継続計画である。
その後、16年には、千代田区から「東京駅・有楽町地区帰宅困難者対策協力会」として行政上の位置づけを受けるにいたり、24年7月現在、参加企業は67社に上っている。
地域の特性と時代性を考えた訓練
「防災隣組」発足以来、千代田区と共催する年1回の帰宅困難者避難訓練を軸に、提言活動、研修活動など、多くの活動を行っているが、17年には、DCPの実現に向け「地区防災計画ガイドライン」を策定。地区防災計画の理想的な「あるべき姿」を提示した。
主な活動としては、「帰宅困難者開放スペースに関するゾーン区分の提唱」、「DCPの公開」、「外国人帰宅困難者避難訓練」、「ブログ発信によるメーリングリストの公開」、「全国防災隣組全国会議の主催」、「循環型非常食の提唱」「東京駅周辺水害対応検討」「拠点間通信(災害時第二電話)の提唱」など。
具体的な取り組みについては、必要に応じて関係組織等の理解と賛同を得つつ、関係する最新情報を入手、その時点で最適なアクションを検討し、達成を目指すとしている。
また、社会情勢の変化や技術革新等、地区以外の環境の変化に応じて、適宜見直しを行っている。
千代田区と共催の帰宅困難者避難訓練の内容は表1のとおりで、最初の2年はいわゆる帰宅困難者避難訓練だが、次の4年は英語による外国人向けの防災訓練、その次の2年はトリアージ訓練というように、タイムリーな訓練を取り入れていることが分かる。
東日本大震災の経験を反映すべく改訂中のルールブックに沿って訓練を行い、ルール内容の検証、今後の反省材料を得ることを目的に、今年は9月3日に「防災隣組」主催で、千代田区と連携して訓練を実施した。
日比谷公園で帰宅困難者発生を想定し、日比谷図書文化館前に「情報機動ステーション」を立ち上げ、丸の内ビルの防災隣組情報連絡本部の機能を移動。停電の想定の下、電気自動車(EV)を電源として用い、大型TV、PC、照明等を稼働させる訓練を行った。また、千代田区と連携、協働した給水訓練も行った。
このように「防災隣組」は、帰宅困難者問題、テロ対策、電力・通信の安定性など、「街」の新しい課題を考え、一時の場当たり策に終わらない日常性のある活動を展開し、東京駅周辺の安全性を世界にアピールしている。