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1 The Face トップインタビュー2013年11月20日号

 
日本航空株式会社  アドバイザー<br />
三菱航空機株式会社  アドバイザー<br />
コミー株式会社  アドバイザー<br />鶴田国昭さん
このままでは、日本は3等国。強く尊敬される国となるための提言。

日本航空株式会社 アドバイザー
三菱航空機株式会社 アドバイザー
コミー株式会社 アドバイザー
鶴田国昭さん

 在米47年。YS―11機のSEとして派遣された米国暮らしが、人生を大きく変えることとなった。ピードモント航空で学んだ航空会社のノウハウを請われ、上席副社長として迎えられたコンチネンタル航空の再建に成功。一躍アメリカ中に知られる存在となった。そして今、JAL、三菱航空機、コミーのアドバイザーとして、熱い視線を注ぐ鶴田国昭さんにお話をうかがった。

(インタビュー/平田 邦彦)

金持ちはもっと金持ちに、貧乏人はもっと貧乏になる時代がやってくる。

—安倍政権になって、経済の回復基調が見えてきていますが、どう評価されますか。

鶴田 私は評価できませんね。あれはレーガン大統領が打ち出したレーガノミクスのコピーで、失敗した経済政策です。市場原理と民間の活力を活用する景気刺激策でしたが、その結果、アメリカは双子の赤字に苦しみ、そこから立ち直るのにえらい苦労しました。

 それを、あたかも自分の発案のように得々として語り、推し進めている。レーガノミクスが何をもたらしたか、日本の新聞記者は勉強していないか、忘れちゃっている。あの失敗が何に起因し、どうすれば繰り返さずに済むかを書いている新聞は一つもありません。

 為替レートは高騰し、税金も上げる。そうなると金持ちはもっと金持ちに、貧乏人はもっと貧乏になる時代がやってきます。

—日本人は勤勉と言われていますが、それでもだめですか。

コンチネンタル航空時代の鶴田氏

コンチネンタル航空時代の鶴田氏

鶴田 確かに勤勉ですよ。でも方向性が間違っている。

 日本の一流大学が求めているのは暗記力で、創造力を問うていないし、大学で創造力を生かす教育はほとんどされていない。優秀なる官僚と言えども、現状を打破して行ける能力は期待できません。ただ勤勉に働くだけなら、肉体労働者の域を出ないでしょう。

 頭を使ってどんどん新たなチャレンジをしてこそ、本当に国力を押し上げる力になるんです。知識の蓄積がどんなに優れていても、コンピューターにはかないません。勝負はクリエイティビティで、知識の集積の上に出てくる知恵の勝負に勝つことが重要だと申し上げたい。

 このままでは本当に3等国に成り下がります。結局は、日本の企業体質が変わる必要があるんですよ。

—働き方、働かせ方に問題があると……。

鶴田 そうです。長い時間ぐだぐだ会社にいることが、働いていることではありません。何かと言うと会議、会議で、結局何も決められない。会議のための資料作りにも、余計な時間を使わされている。

 会議とは、ノン・プロダクティブ・アワーであることの認識が低すぎます。仕事をしているかのような姿勢だけを作っていて、責任の所在がまるではっきりしていないんですよ、日本の会社は。

 私はかつて、日本から商談に来られた人間に「決定権がないなら、あなたとは話をしない」と追い返したことがあります。逆に即断即決して、3日の出張予定を1時間で済ませ、「せっかく来たのだから少し遊んで帰れ」と言ったこともあります。

 アメリカのビジネスは、生産性を重視する。だから結論も早いし、責任の所在も明確となっている。世界の先進国はそれが常識です。

 

スピード感を持って仕事を進められる、リーダーたるべき人間が不在だ。

パリのホームレス? お茶目な鶴田氏

パリのホームレス? お茶目な鶴田氏

—国際舞台では通用しない、と。

鶴田 だから私は日本人と商売するのが一番嫌い。肩書を持った人物が来ても、「持ち帰って役員会に掛けて決める」と言う。そんな会社組織をまず改める必要があると思います。

 それに、日本人は家庭を犠牲にして、まったく顧みません。私は朝の6時、7時に会社に行って、午後の2時半にはもう帰ってきます。クオリティ・オブ・ライフを大切にしているんです。給与を上げたいなら、もっと少数で生産効率の高い作業にすべきなんですよ。プロダクティビティが恐ろしく低いんだな。

—コストとの見合いを考えるということですか。

鶴田 そうです。私はアメリカの会社に40年以上いるけど、プロダクティビティが何であるかを考えれば、日本のような効率の悪い仕事の進め方は選べませんよ。要するにリーダーたるべき人間が不在なんだな。それは、決めるべきことを決めて、スピード感を持って仕事を進めることができる、プロを育てていないということです。

 日本のほとんどの会社は投資家に対するリターンの意識が希薄だと言えるでしょう。役員の使命はリターンを確保することです。

 それと日本では個人に責任は負わせるが、決定権も裁量権も与えていない。それでは責任をもって仕事をすることができません。

 さらに社員は3~4年で仕事を替えられてしまいますから、10年以上やっても、本当のプロは育たない。それでは世界を相手に戦えませんよ。

—ところでボーイングの新型機では日本がかなり関与したといわれていますね。

鶴田 ボーイング787は35%が日本製と言われていますが、製造原価から見るとせいぜい6~7%です。新聞は35%が日本製だとしか書きませんから、みんなそう思っていますが、嘘ですよ。日本の航空のエキスパートが本当のことを言わないだけです。

 例えばバッテリーの件にしても、日本の専門家は「電圧が急に上がったから事故になった」とか、すぐにコメントを出し、それが大報道されますが、こちらでは軽々しくそんなことは言いません。NTSB(国家運輸安全委員会)とかFAA(連邦航空局)などが1年かけて精査して、実際のデータから電圧は急に上がっていないと、結果を発表するんです。

 御巣鷹山の事故にしても、あれはボーイングのAOG(特別の修理チーム)が来て修理をしたんだけれど、彼らは修理が終わってもそれで飛んで良いとは言えないんです。航空局が判断して飛行許可を出しているから。

 でも、航空局は何も言いませんでしたでしょう。最終責任は許可を出した局にあるにも拘らずですよ。

—訴訟にもなっていません。

鶴田 日本の航空局は事故が起きると陰に回ってしまうんだな。それで何を言うかと思えば「厳重に監査する」。局の役割は、監査も大切だがそれは後追いの話で、やるべき仕事は事前に防ぐことです。

 LCCだって安い運賃を売りにしているが、私はどうしたら安くできるかを尋ねたい。航空機は、発注数が少ないから当然高い。燃料だって同じこと。メンテナンスもおざなり。一度トラブルを起こせば、機体もないからどんどん遅れる。遅れて客を運べなければ売り上げにならない。悪循環です。結局安くしているのは従業員の給与なんですよ。

 また、日本の航空局は、外国では危険だとして受け入れていない航空会社を受け入れています。それだって局の責任ですが、もし事故が起きたときに、認可をした局が何と言うか。これまでの事例からすると、結局、陰に回って「厳重に精査する」だ。

 大切なのは、そんなブラックリストに載るような会社を受け入れないということが分かっていないんです。

 

情報公開から生まれる揺るぎない一体感が、お互いの強い信頼関係を作り上げる。

—Working together
を信条として提唱されています。ご紹介いただけますか。

快気祝いに部下から送られた寄せ書き

快気祝いに部下から送られた寄せ書き

鶴田 発注者と受注者、あるいは上司と部下の関係にあっても、共に働いていることを忘れてはならない。そこにあるのは互いに尊敬しあえるフラットな関係で、間違っても上下の関係ではないということです。

 その前提となるのは、情報の共有です。会社の状況が悪いならその全てを明らかにして、今置かれている厳しい状況を伝えることによって、信頼と一体感が醸成される。それがWorking togetherの大前提です。公開できる情報はすべて明らかにして、そこに生まれる揺るぎない一体感が、お互いの強い信頼関係を作り上げ、仕事をスムースに運ぶ糧となってくれるのです。

 改革改善のために、私はこれまでいろんなチャレンジをしてきました。例えば「定時到着ボーナス制度」の採用です。これは1995年にスタートした制度で、定時到着率が米国の航空会社のトップ3に入れば、全社員に65ドルのボーナスを約束するというものです。一見無謀に思われるかもしれませんが、もしそのままなら、遅延により支払われているホテル代や食事代といった毎月500万ドルもの無駄な出費をセーブできるわけですから、ボーナスのトータル250万ドルは安いものです。

 それに、達成できればお客様に喜んでもらえますし、社員全体が問題意識を持たないとできないことだけに、一体感も生まれる。正に Working togetherです。

 制度を発表した後に、万年最下位のコンチネンタルは、その月のうちに順位を3ランク上げて7位に、翌月には4位、その翌月にはとうとう第1位を獲得しました。わずか3カ月ですよ。

 その後も安定して上位をキープすることとなりましたが、情報を開示し、共に力を合わせて働くことの素晴らしい成果だったと思います。

—最後に、これから日本を背負ってゆくべき、若者たちへの提言をお願いいたします。

鶴田 「日本人よ、目を覚ましなさい。馬鹿なことばっかりやっている己を知るべきだ」ということを一番強調したいですね。このままで行けば、再び後進国に成り下がる危険に満ちています。

 積極的に外国語を学び、若い時から海外に出て、己を磨いてほしい。政治も経済も、全てにわたって自分たちが置かれている立場、劣っている点を謙虚に学び、精進して行かなければなりません。

 これからの若者はチャレンジしなければなりません。君達を迎える社会は明治以来ほとんど変っていない。太いものに巻かれろ。先輩の言うことを聞け。それでは進歩も成長も望めないと考えるべきです。それが後に続く人達への私の言葉です。

 

日本航空株式会社  アドバイザー<br />
三菱航空機株式会社  アドバイザー<br />
コミー株式会社  アドバイザー<br />鶴田国昭さん

撮影/平田 邦彦

<プロフィール>
つるた くにあき
1937年東京都大田区出身。武蔵工大在学中の19歳で父親となり、結婚。大学を中退し、苦労の末に就職した川崎重工から日本航空機製造に出向。YS―11機のSEとしてフィリピン、米国に派遣され、プロダクト・サポートに従事。同機製造中止に伴い帰国。その後、ピードモント航空に入社。1984年、資材担当副社長に就任。ミッドウェィ航空上級副社長を経て、1994年、経営危機にあったコンチネンタル航空に購買担当上級副社長として招かれ、見事に立て直しに成功した。2003年、同社退社。現在は航空機ビジネスのプロフェッショナルとして多忙な日々を送る。テキサス州・ヒューストン在住。77歳

 

 

 

 

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