HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.74 (公社)日本ファシリティマネジメント協会 会長 坂本春生さん

1 The Face トップインタビュー2014年02月20日号

 
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会(JFMA) 会長 坂本春生さん
ファシリティマネジメントを常識の言葉にする。それが私の使命です。

公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)
 会長 坂本春生さん

 東京大学経済学部を首席で卒業。「女性初」のキャリアとして通産省に入り、女性官僚の草分けとしてその道を切り開いてきた。退官後は西友や西武百貨店の副社長、「2005年愛知万博」事務総長などを歴任。現在はそれらの経験を活かし、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)会長の任に就く。ようやく日本にも根づいてきたファシリティマネジメントという概念を広く知らしめるべく日々奮闘している坂本春生さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

若干の意地もあり、結婚し、子供を生み、仕事を続けると決意

—女性として初めて通商産業省に入省し、以来「女性初」の道を歩んでこられました。今振り返ってどうお感じになりますか。

坂本 私としては、二十何人かの同期と国家公務員の幹部候補生として入ったというだけのことなんですが、すごいことをやったみたいに、いろいろ取り上げられて……。当時は「通常残業省」なんて言われている通産省に女性が入るなんて誰も思いませんから、そのこと自体が、ニュースだったんでしょうね。何しろ入ったのが初めてですから、課長になろうが何になろうが「初」、辞めても女性初の退任者で(笑)。ものすごくプリミティブな女性初だったんです。

 ですから、今の女性初は本当に実があると感じています。今だったら、私、恥ずかしくて机の下に入りたいです。

JFMA  FORUM  2014で講演する坂本さん

JFMA FORUM 2014で講演する坂本さん

—「通常残業省」でお忙しかったと思いますが、ご結婚もされて、お子さんも育てられて……。

坂本 若干の意地はあったんですね。「あの人はちょっと難しいところに入ったから、どうせ特別な道を歩むんだろう」とか、私の母も「お宅のお嬢さんは立派ですけども、まぁお孫さんの顔は見られないでしょうね」とか言われたりね。

 別に結婚しなきゃいけないと思っているわけじゃないんですよ、それは人生観ですから。

 でも、世の中に染みついている古い人生観に、まず合格することが必要だと感じていましたので、私は「結婚はします、子供は3人つくります、仕事は続けます」と決意していました。

 そういう普通のところを通り抜けると、認めてもらえることもあるんですね、不思議なことに。

—今は日本ファシリティマネジメント協会の会長ということですが、そもそもファシリティマネジメントということがよく分かりません(笑)。

坂本 私も会長になって1年は分からなかったです。なんか立派なことらしいし、役に立つことらしいということは分かるんですけどね。なぜ分からないかというと、間口が広すぎるからなんです。設計、建築、メンテナンス、エネルギー、危機管理、もう全部の概念が入っている。協会の皆さんが、とうとうと説明してくださるんですが、素人の私にはさっぱり。で、「10分で説明してください」というと、皆さん困っちゃう。

 それで、説明を聞いて、私の頭に残ったことを絵にまとめてみたんです。その1枚の絵でファシリティマネジメントが分かっていただけるのではないかと思います。

 

良い経営をするために必要なのが、ファシリティマネジメント

—なぜファシリティマネジメントが必要なのか、というところから教えてください。

坂本 私なりに説明しますと、企業というテーブルの上に、得べかりし利益、つまりリンゴがあります。経営を支える資源という脚となるのは、人材、資金、情報、それからファシリティ(土地・建物、ワークプレイス・環境、設備・家具/備品、ICT・サイン、ユーティリティ〈電気、ガスなど〉)の4つです。ところがその脚の1本が折れている。だからリンゴが落っこちてしまう。それは大変なことではありませんか、ということでなんですね。

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 では、なぜ落ちてしまうかというと、ファシリティについて言うと、一番の理由は、トップが関与しないからなんです。例えば、施設をつくる時は、役員会とかで予算がいくらかかるとか、設計は誰に頼むとか諮るでしょう。でも、それにどれだけのメンテナンス費がかかるかとか、維持管理費がかかるかということは全然問題にされない。でき上がってしまったら、本社だったら例えば施設管理部が管理するし、支店だったら支店長が管理してしまいますから、トップの意識が離れちゃうんですよ。だから、そこでどんな無駄があっても分からない。人事とか経理は書面にして社長室で説明できるけれど、ファシリティは立体ですから説明できないんですね。ここが使い勝手が悪いとか、ここが傷んでるとかは、現場じゃなければ分からないことが多い。

—社長も現場に行かなければならないと。

坂本 そのくらいの努力をしないといけないということです。

 もう一つ根本的な問題があって、それはファシリティが完全に縦割りだということです。例えば地方公共団体で、市長や知事が病院をつくるでしょう。でも、できてしまうと病院は病院経営者の管理下なんですよ。厚労省から病院に補助金が出て、そこで完結しちゃう。市長や知事は口が出せない。縦割りの弊害の典型的なものですよね。そういう本質的な問題があって、経営の中にうまく入ってないんです。

 もちろん時代的な問題もあります。バブル期の建物は老化現象が起きていますし、自治体が合併してホールが3つも4つもあるというようなことも起きています。それから、幼稚園がいらなくなっている代わりに、高齢者福祉施設が必要になっているとか、さらには環境問題もあります。そういうものをビビットに経営の中に入れる方法がないんですね。

 従って、テーブルの脚のファシリティの部分だけが折れっぱなし。この脚をしっかり立てて、リンゴをちゃんと乗せて、良い経営をするために必要なのが、ファシリティマネジメントですと説明すると、何となく分かってくれるんです。

—何だか分かったような気がしてきました(笑)。

 

縦割りに横串を刺すのは、トップのリーダーシップ

—なぜファシリティマネジメントは良い経営につながるのですか。

坂本 ファシリティマネジメントは、財務、品質、需要と供給、寿命(ライフサイクル)の4つの面をきちっと把握をした上で、統轄的な組織が横串を通すんですね。病院であろうと会社であろうと、各部署に横串を通してちゃんと監督していく。客観的な基準を設けて、ここは問題ありということになれば、それにプライオリティをつけて、会社・組織の問題としてちゃんとあげる。そして、PDCA(Plan計画→Do実行→Check評価→Act改善)サイクルをチェックしていく。

 その時に大事なのが、トップのリーダーシップなんです。なぜなら中間管理職では縦割りに横串は刺せないから。担当部長あたりが全部に横串を刺すなんて無理。でも、トップだったら刺せます。

—会社にしても自治体にしてもトップの決断が大事なんですね。

JFMA  FORUM  2014で講演する坂本さん

坂本 私は、ファシリティマネジメントは企業の救い主でもありますし、特に国民の税金を使っている地方公共団体の救い主、最後の砦と考えているんです。ファシリティマネジメントは、組織内のためだけのものではなく、トップが客観的に自分の政策を行うためのものです。客観的に情報を集めて説明し、客観的な手法でプライオリティをつけて、「こうやりたい」と言えば、圧力に負けないで時代に合ったものを自分が判断できる。つまり、地方公共団体の自治制が高くなるんですね。

—実務をやるには専門知識がいるのではありませんか。

坂本 ちょっと我田引水ですけど、当協会は認定ファシリティマネジャー資格制度をつくっていまして、そういう人がいればベストですが、いなければファシリティのことをすべてわかっている人がファシリティの情報を全部集めればいい。いわゆる情報の“見える化”ですね。それをやればファシリティは利益を食い潰すのを防ぐだけでなく、利益を生み出すようになるんです。

—ファシリティマネジメントが利益につながるという発想がなかったんですね。

坂本 そうなんです。笑い話ですけど、当協会の一部の法人会員は、会社の調子が悪くなると辞めてしまう。これは逆なんですよ。調子が悪くなったら本気でファシリティマネジメントをやるべきなんです。人事とか財務とか情報で絞りに絞った財源が、ファシリティマネジメントにはいっぱい残ってる。だから、私は宝の山だと言ってるんですけど、困ったら宝の山を探しに行くべきなのに、宝の山に蓋をしちゃう(苦笑)。

—東京は今2020年オリンピック・パラリンピックに向けて、さまざまなファシリティを計画していますが、ご意見はございますか。

坂本 余計なことかもしれませんけど、新しくつくる施設は、特に初期投資だけでなく、将来どう維持するのか、環境問題にどう関与していくのかということをもっと考えてほしいですね。今の議論は初期投資の話ばかりでしょう。それで、当協会の長老が憤慨しまして、「ファシリティマネジメントをちゃんと考えてほしい」という要望書をもって、文科省や東京都などに行ったんですよ。

 そのためには、ファシリティマネジメントということを分かってもらわなければなりません。私の役割は「種を蒔く・育てる」から一歩進んで「枝を広げる」。つまり、ファシリティマネジメントという言葉を常識語にする。これが私の使命だと思うんです。

 

公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会(JFMA) 会長 坂本春生さん

撮影/赤羽 真也

<プロフィール>
さかもと はるみ
1938年、東京都生まれ。1962年、東京大学経済学部卒業、通商産業省入省。通商産業大臣官房企画室長、札幌通商産業局長を歴任。1989年、西友顧問、常務、専務を経て1997年、副社長、西武百貨店副社長に就任。1999年、経済同友会副代表幹事、2000年から「2005年日本国際博覧会(愛知万博)」事務総長、副会長。2001年、北海道ファシリティマネジメント協会取締役、2006年、財団法人流通システム開発センター会長、2009年より公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会会長。

 

  
 

 

 

タグ:日本ファシリティマネジメント協会 JFMA

 

 

 

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