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NIPPON★世界一 The64th2014年02月20日号

 

・ナカ工業株式会社
・台東区北上野
・設立:1959年(創業:1932年)
・従業員数:518名(2013年6月現在)

避難器具の製造・販売

 日本にある世界トップクラスの技術・技能―。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。マンション等の集合住宅に設置されている代表的な避難器具と言えば「避難はしご」である。ただこれらは身体の不自由な高齢者など“避難弱者”にとっては万全とは言えない存在であった。そうした人々も安心して使用できる新商品が産声を上げ、注目を浴びようとしている。

(取材/種藤 潤)

 


 一見すると、マンションのベランダなどに設置されている避難はしごのハッチとおなじ佇まいだが、その扉を開いてみると、見慣れないハンドルと足場が登場した。ハンドルを上部に引き出すと、大人の身長の腰あたりで自動的にロックされ、手すりに変身。この手すりを持って足場に立ち、足場中央にあるロックペダルを踏むと、エレベーターのようにゆっくりと下に降りていく。想像以上の安定感だ。約1階建分の高さを降りたが、不安は全く感じなかった。

 「やはり高所から降りる動作は恐怖がつきものです。恐怖を感じさせず、いかに安全・安心な状態で避難させることができるか、苦労しました」

 この全く新しい「ユニバーサルデザイン避難器具(仮称・以下UD避難器具)」の開発に携わった庄司辰夫さんは、我が子を自慢するように、商品を説明してくれた。

 

“避難弱者”に優しい新しい避難ツール

取材に応じてくれたナカ工業株式会社技術研究所長の庄司辰夫さん(右)と開発四グループ長の城戸憲昌さん(左)

 マンション等の集合住宅や高齢者住宅などのベランダへの設置が義務づけられている避難器具。これまでは縄はしごや折りたたみ式の「金属製避難はしご」が主流であったが、身体が不自由になった高齢者や力の弱い子どもにとっては決して安全とは言えず、ましてや小さい子どもを抱えながら避難をする場合は、両手を使えない状態ではしごを降りなければならず、非常に危険であった。

 そうしたいわゆる“避難弱者”をより安全に避難させる代替手段として一部では「救助袋」も設置されているが、避難時の恐怖感は完全に払拭することはできず、避難にかかる時間も決して速やかとは言えなかった。

 金属製避難はしごをこれまで販売してきた同社は、5年ほど前から従来品にはない簡単かつ安心・安全な避難器具の開発を開始。その結果誕生したのが、この「UD避難器具」である。

 

たった3ステップで誰でも簡単・安全に操作

 前述の通り、操作はいたって簡単。①ハッチを開ける②手すりを引き上げロックさせる③足元の降下開始ペダルを踏むの3ステップだけ。避難時を想定し、できる限りシンプルな構造で、誰にでもできるようにした。

 「高齢者でも、自立して生活できる方であれば、この避難器具を利用することは十分可能です」(庄司さん)

 避難時には電力がストップすることも想定し、電力は一切使わず乗る人の体重で降りる仕組みになっている。その際、体重に左右されずに安定したスピードを保つのが、ステップ内部に組み込まれた「緩降装置」。その開発にも苦心したと、もう一人の開発者である城戸憲昌さんは言う。

 「体重によって若干変動しますが、恐怖感の無いスピードで降りていきます。この安心感のあるちょうどいいスピードを出すために、何度も試験を繰り返しました」

 さらに操作開始の際、ステップの下が見えないようになっており、視覚的な恐怖を与えないよう配慮されている。

 そして下まで降りた「UD避難器具」は、人がステップから降りると自動的に上階へと戻り、次に避難を待つ人がいる場合は、③の操作をするだけで降りることができる。

 

都内の高齢者施設やパラリンピック会場にも

上4枚、「ユニバーサルデザイン避難器具」を使用した様子。3ステップで誰でも利用できるシンプルな構造だ

 避難器具だけに、耐久性も懸念されるが、100kgのおもりで100回の昇降実験を済ませ、動作に問題ないことは実証済み。大柄な人でも大丈夫と、城戸さんは太鼓判を押す。

 ちなみに設置スペースは、同社が販売する大型タイプの「避難はしご」と同様の700mm×700mmサイズ。安心して人が乗れる空間を確保しつつも、従来品と同様のコンパクトさを実現した。

 現在消防法に基づく各種基準づくりを進めており、それらが完了後に本格的に販売される予定だ。城戸さんは、来る高齢化社会に向けてもぜひ活用してほしいと願う。

 「特に都内の高齢者住宅は、どうしても階層の多い建物になると思います。ぜひこの器具を導入し、高齢者の安全・安心の暮らしを実現してほしいですね」

 さらに、庄司さんは2020年に東京で予定されている世界的祭典でも、ぜひ活用して欲しいと付け加える。

 「特にパラリンピックの施設等では自立不能な方の避難も想定されます。現在、車いすで利用できるタイプの開発も予定しており、この装置は大きな役割を果たすと思います。そのためにもより多くの人に体験してもらい、実力を知ってもらいたいですね」

 実際、昨年開催された「東京国際消防防災展2013」では、大人はもちろん子どもも何度も乗りたいと行列を作るほどの好反響。防災都市・東京の実現にとっても、欠かせない存在となりそうである。

 

 

 

 

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