HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.75 (公財)東京都保健医療公社 理事長 白石弥生子さん

1 The Face トップインタビュー2014年03月20日号

 
公益財団法人 東京都保健医療公社 理事長 白石弥生子さん
公社病院の理念は、「医療で地域を支える。」です。

公益財団法人 東京都保健医療公社 理事長 白石弥生子さん

 東京都庁入庁後初めて配属されたのが、現在の都立駒込病院の開設準備室。ゼネラリストとしてのキャリアを積む一方で、都職員として約半分は医療・福祉・保健畑を歩んできた。障害者福祉や児童福祉、介護保険導入の時期には福祉局計画調整課長のポストにあった。それらの経験を活かし、公益財団法人 東京都保健医療公社理事長として活躍している白石弥生子さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

地域包括ケアの中心となって先駆的な取り組みを行っていく

—初めに公社の成り立ちを教えていただけますか。

白石 設立は昭和63年です。今とはだいぶ医療状況が違う昭和50年代の後半に、いくつかの地域で都立病院がほしいという声が上がったんですね。具体的にいうと、今の東部地域病院がある地域と、多摩南部地域病院がある地域ですが、ただ、もう都立病院を新しくつくる時代ではないんじゃないか。単に病院があればいいということではなく、地域全体の医療をどうしたらいいかということを考えていくべきなのではないか、ということになった。もちろん財政的な問題も多分あったのでしょうけど、いろいろと検討した結果、診療所や地域の医師会と連携した病院をつくろうということになったのです。

 運営主体も、東京都が都立という形で運営するのではなく、第三セクター的なところが運営するのがいいということで、都と医師会が出資をして、公社がつくられることになりました。

 今、地域包括ケアということがいわれていますが、公社の設立の目的は、地域を基盤とした病院をつくろうということだったといえます。地域の中で診療所と病院がしっかりと連携していくという構想は、今ふり返ってみますと、すごく先駆的だったと思いますね。

東部地域病院でビジョン研修を行う

東部地域病院でビジョン研修を行う

—現在、公社の病院はいくつあるのですか。

白石 平成2年に東部地域病院、5年に多摩南部地域病院が開設されました。地域の開業医と非常に連携が上手くできておりまして、外来患者の8割強は開業医さんから紹介された方なんですね。そういう試みが認められて、9年の医療法改正時に、地域医療支援病院という制度がつくられることになりましたが、これは公社の2病院がモデルだといわれています。当然、10年から東部地域病院と多摩南部地域病院は地域医療支援病院になりました。

 あとの4つの病院―大久保病院、荏原病院、豊島病院、多摩北部医療センター(旧多摩老人医療センター)―は都立病院だったのですが、都立病院は東京都全域を対象とする病院として機能するべきではないかという都立病院改革により、これらの病院はいずれも地域に根差した医療を現実にやっているということで、公社病院に加わりました。この4つの病院も、すべて地域医療 支援病院になっています。

 都内には一般病院が600くらいあるんですけれども、そのうちの25病院が地域医療支援病院に認定されているんですね。その25病院のうちの6病院は公社の病院ですから、これだけ地域医療支援を強力に打ち出しているところはないのではないかと思います。

 さらにいえば、地域包括ケアをどんどん進めなければならない今、中心となって先駆的な取り組みを行っていくべき病院だろうと思っています。

 

一つの地域全体が病院として機能するのが理想

—いわゆる公社ということで、先駆的なことがやりやすいのか、それともやりにくいのでしょうか。

白石 私はやるべきだと思っています。もちろん東京都の監理団体ですので、都の理解を得て実施することが必要ですし、出資者である医師会などの理解も必要です。また新しいことをやるには、やはり経営基盤がしっかりしてないとできないこともありますね。

 現にやっていることでは、例えば多摩南部地域病院では、地域の訪問看護ステーションの看護師さんに、皮膚・排泄ケア認定看護師が同行して、どうやったら患者さんに褥瘡ができないようにしてあげられるかを教える活動を行っています。これは認定看護師たちからやってみようと声が上がり、スタートしました。看護協会が実施した調査では、制度が始まった24年度は多摩南部地域病院が実施件数日本一だといわれています。そういうスタッフがいることと、以前から地域医療支援病院なので、地元の医師会や訪問看護ステーションとの関係がとてもいいという条件が整っていて初めてできたことと思います。

豊島病院の緩和ケア病棟。室外には屋上庭園が広がる

—高齢者が多い多摩地域ならではのニーズだと思いますが、そういう地域ごとの細かいニーズを知ることは、医療費の面でも大事だと思います。

白石 そうですね。国の財政が厳しいなか、国も今懸命に取り組んでいます。それは地域包括ケアの推進で、地域において医療・介護・福祉が連携して、できる限り地域で自立して生活できる社会を目指そうとするものです。

 これだけ高齢化が進んでくると、生活の質が重視されるようになります。そうなると、公社病院のような急性期の病院では短期間で集中的に治療して、その後はできるだけ地域で生活できるようにしたい。そのためには介護・福祉と医療が連携する必要があります。公社病院が、在宅医療・看護や訪問リハビリをする機関などをどう支えるか、そのシステムづくりが必要だと思います。昔は病院の中で全部完結するという考え方でしたけど、これからは一つの地域全体が大きな病院として機能する、というのが理想でしょうね。

—地域の医師会や診療所との連携が本当に大事なんですね。一方で大学病院とか民間の大きな病院との関係はどうなのですか。

白石 それぞれの病院が、診療所に対して連携医になりましょうといっているので、開業医の先生は多分いくつかの病院と連携を取っていると思います。また、病院同士も「病病連携」といって急性期と療養型、二次医療と三次医療など機能分担し、連携しています。

 今の限られた医療財源の中で、良い医療をさらに患者さんに供給できるようにするためには、各病院同士が効率的に役割分担することが大事で、病院の大きさや運営主体にかかわらず、協力しつつ競争をしていく関係が望ましいといえるでしょう。

 

患者中心の良い医療を行うにはチーム医療が大切

—地域医療の先駆者として具体的に何か新しいことは始められているのですか。

白石 平成24年3月に策定した公社活性化プランⅢの4つのビジョン―患者中心の医療、地域ニーズに対応した医療、人材の育成、経営基盤の強化―のもと、いろいろなことに取り組んでいます。

 例えば、患者中心とは、いかに患者さんが満足できるかということですよね。それは結局、良い医療を行うということです。良い医療を行うためには、医師だけでなく、看護師はもちろん、薬剤師、栄養士、リハビリを担う作業療法士などコメデイカルのみんなが、一人の患者さんに対してできることをやることが必要です。

 チーム医療といっていますけど、それをもっともっとやっていかなければいけないということで、公社の全病院で、25年度、薬剤師の病棟常駐が始まりました。

—それは、公社の病院が初めてなのですか?

白石 初めてではありませんが、まだまだ実施している病院は少ないと思います。

 それから、管理栄養士も常駐できればと思っています。まだできていませんが、なるべく病棟に顔を出すようにするところから始まっています。

 さらに、患者さんに対して、病院に入院している時だけではなく、入院前・退院後を含めて患者さんをサポートするため、患者支援センターも設置し始めています。

 地域ニーズに対応した医療では、救急医療とがん医療です。がん医療については、設備を充実させるとともに緩和ケアにも力を入れています。豊島病院は都立病院の時代から緩和ケア病棟を始めていますが、去年の夏からは多摩南部地域病院でも緩和ケア病棟を始めました。

 また、ひとつ付け加えさせていただきますと、がんについては、公社で東京都がん検診センターを運営しています。検診技術は日本でも有数と自負しています。

—公社病院のミッションとはなんなのでしょう。

白石 ミッションは「医療で地域を支える。(まる)」です。

—「まる」って何なんですか?

白石 「決意」だと言っています(笑)。前任の押元理事長がプランⅢに掲げたキャッチコピーですが、私もはじめてこれを聞いた時、この「まる」で、医療で地域を支えるという決意が、すっと心に入りました。

 公社のビジョンを職員一人ひとりに浸透させるためにビジョン研修として私が各病院・センターを回って話をしていますが、私も「。(まる)は決意表明です」と話しています。

—都庁では医療や保健といった畑が長かったのですか。

白石 都庁は、ゼネラリスト的なキャリアアップシステムです。ですから、私も総務や財務、また下水道局などにもいました。でもトータルで考えると、都の職員として働いた約半分は医療・福祉・保健の分野ですね。実は、私が最初に入ったのは病院なんです。衛生局で、今の駒込病院の開設準備室に入って、そのまま病院に6年いました。

—では今のポジションはなるべくしてなったという感じですね。

白石 そうかもしれません。12年前には今の多摩総合医療センターの事務局長でしたし、福祉関係では、ちょうど介護保険が導入される時期に、福祉局の計画調整課長というポストにいました。またここに来る前は公益財団法人 東京都福祉保健財団におりましたが、この財団は介護保険制度を支える仕事も多く実施しているところです。

 医療・介護・福祉が連携して地域包括ケアを推進していく今、地域医療支援病院である公社病院の理事長として、微力ですけども、今までの経験を活かしたいと思っています。

 

公益財団法人 東京都保健医療公社 理事長 白石弥生子さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
しらいし やえこ
昭和26年生まれ。49年、東京教育大学卒業。同年、東京都庁入庁、衛生局駒込病院開設準備室配属。57年、福祉局心身障害者福祉部計画主査。平成元年、足立高等職業技術専門校副校長、8年福祉局計画調整課長。12年、府中病院事務局長。18年、監査事務局長、21年、議会局長。23年、都庁退職。東京都福祉保健財団理事長を経て、24年10月から現職。

 

 

 

 

タグ:東京都保健医療公社

 

 

 

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