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1 The Face トップインタビュー2014年07月18日号

 
公益社団法人東京都医師会 会長 野中博さん
医師として大事なのは逃げないこと、その姿勢を大事にすること。

公益社団法人東京都医師会 会長 野中博さん

 父親の病院を継ぐために、大学病院を辞めて浅草に戻った。求められるままに往診を行い、地域医療のあり方に疑問をもつ。その言葉もない頃から在宅医療に携わり、地域で患者さんをケアすることの大切さを訴え続けてきた。2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築が叫ばれる今、改めて地域での医療や介護を見つめ直している東京都医師会会長、野中博さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

往診によって大学病院勤務とは違った医療のあり方を体験しショックを受ける

—厚生労働省は今、2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築に力を入れていますが、地域医療についてはどのようにお考えですか。

野中 昭和60年、父親の死亡に伴い浅草の診療所を承継するため大学病院勤務を辞めて地域に戻りました。

 父親は昭和5年に開業しましたので、地元の高齢な患者さんが多くおられました。昔馴染みの患者さんから往診を頼まれたのですが、その際、大学病院に勤務している時とはまるで違った医療を体験し、カルチャーショックを受けました。

 往診するだけで、ご本人やご家族はもちろん、地域の人たちがこんなに喜んでくれる。また、白衣姿で患者さんの家に向かって歩いていると、「先生、往診もしてくれるんですか?」と周りの人が声をかけてくれる。あらためて地域医療の大切さを感じて、今でいう在宅医療を始めました。

 しかし、当然医療だけでは地域の生活者を支えることはできないことも痛感した。訪問看護や特別養護老人ホーム等地域の福祉と医療との関わり、つまり地域医療においてケアがどうあるべきかを、その頃いろいろと考えさせられました。

—ご自身の体験もふまえ、地域包括ケアシステムを構築するにあたり、難しい点はどこだとお考えですか。

都民を対象とした医療情報提供のため、平成14年度より毎年1回開催している都民公開講座

都民を対象とした医療情報提供のため、平成14年度より毎年1回開催している都民公開講座

野中 病院は病気を治すところで、治療が終われば退院して自宅等で生活するのが本来です。しかし、以前は病気を抱えるとそのまま長期に入院され、病院で生活する方も多く存在し、その結果、治療を必要とする患者さんが容易に入院して治療を受けられない状況も生まれました。

 それで、病院での長期入院が制限されるようになったのですが、残念ながら患者さんやご家族の意識はすぐには変わりません。病院で治療が終わって退院となると、患者さんは「家に帰りたいけれど家族に迷惑をかけたくない、だから病院にこのまま入院したい」、ご家族も「本当は家でお世話してあげたいけれど、自分たちの生活もあるのでこのまま病院あるいは施設に入ってほしい」というのが本音です。嫌な言葉ですけど、これがいわゆる「社会的な入院」です。

 責任を問う気持ちはありませんが、この問題の解決は医療側だけではできません。地域の福祉を担当する行政が長い間放置してきたことが大きな要因と思います。確かにご家族だけで介護をするのは大きな負担です。しかし、戦後大変なご苦労をされてきた高齢者の方々がみじめな思いを抱くことのないよう、社会全体でお世話するのは当然だと思います。

 西暦2000年から介護保険制度が施行され、様々な介護サービスが存在するようになりました。患者本人とご家族と共に医療や介護など多くの関係者が協働して、病気の治療や介護を必要とする方々を、ご家族が犠牲とならずに支える方法を模索する意義を理解していただくことがまず大切と考えます。

 

病気を治すだけではなく、患者さんの生活を見る、支えることが大事

—ひと口に地域包括ケアといっても、地域によって特徴があると思います。どこがリーダーシップをとるべきでしょうか。

野中 確かに地域の医療や介護には様々な特性があります。ですから、トップダウンではなく、 現場に適した地域包括ケアシステムを創り上げることが重要です。

 病気を発症した際、自らの地域で克服できる地域医療提供体制の構築、つまり医療への「入口」がまず大切です。次に大切なのが、病院からどのように退院するか、すなわち「出口」です。

 退院時に「病気の診断名や今後の治療特に投薬内容」は説明を受けますが、これだけの説明で安心して地域で生活することはできません。退院後、地域でどのような医療や介護サービス等、どのように利用すべきか等のプランを提示することが必要なのです。このプランの提示がなければ、患者さんは安心して退院できないことを医療機関は認識すべきです。

 今、病院には退院調整看護師やケースワーカー等が存在していますが、病院内の医師や看護師や薬剤師や栄養士等の多職種のみならず、院外の医療や介護の関係者が退院時に結集して協議し、患者さんの退院プランを作成して退院後の生活の安定を支援することが、以前にも増して望まれています。

 患者さんが退院して安心して生活することを実現することが病院本来の機能です。東京都医師会は、病院から退院していく患者さんに対して、丁寧に愚直に退院後の生活の安定の確保を実現するプランの作成をすることが大切と提案しています。

—大変そうですが、そこが鍵になりそうですね。

野中 介護保険が始まる2000年4月前後に、私は東京都医師会の担当理事として盛んにケア マネージメント、ケアプランの重要性を訴えました。その重要性は病院からの退院においても同様です。

 患者さんが退院する際、地域の病院がケアマネージャーをはじめとして関係者の様々な人たちと担当者会議を通じて、医療やケアにおいて不足がないかを確認する。そういう流れを作ることができれば、地域医療は大きく変わると思います。

—病院だけではなくてかかりつけの、町のお医者さんにも関係することですね。

野中 「かかりつけ医」は医師の原点ですね。医師にとって大切なのは、病気を治すだけではなく、患者さんの生活を見て、支えることです。東京都医師会では20年以上、その重要性を医師会の会員にアピールしています。

 また、「かかりつけ医」には何時でも相談に乗る機能も求められます。しかし、外来で患者さんの病気だけを診ている医師にとってはなかなか難しい。それは夜、いつ呼ばれるか分からないという不安です。

 確かに夜中に電話を受けて、必ずすべて対応できる訳ではありません。ですから、電話を受けて状況を把握し、状況により救急車を呼んで病院受診を勧めるだけでも良いと思います。

 何はともあれ電話に応対して、相談を受けることが「かかりつけ医」の基本と思います。

—まずはかかりつけのお医者さんにアドバイスをもらえるだけで、すごく安心できると思います。

野中 医者になって、特に地域で開業してからの自分の経験を振り返ると、患者さんやご家族から何気なく「ありがとう」と言われたことが一番嬉しいことです。医者という職業を選んだ以上、そのような喜びを、あらためて見出してほしいと思いますね。

 

医療は患者さんとの共同作業
相談しながら一緒に歩むという姿勢が大事

—今は医療機器が高額なので、開業することはもちろん、医院の跡を継ぐことが難しいということはないのでしょうか。

野中 確かに医学が進歩すれば、以前とは比較にならない程、診断や治療には高額な医療機器が必要となります。また、診療所の家賃等も最近ではかなり高額です。想像する以上に経営にはコストがかかります。

 しかし、医師は基本的には患者さんから選ばれてはじめてその役割を果たせる職業です。患者さんが医者を選ぶ根拠には、「あの先生は何々が得意で高名だから」という理由だけではありません。むしろ自分の相談に丁寧に応じてくれるとか、自分の病気の診断や治療を適切にしてくれるとか、必要に応じて専門の医療とつなげてくれる等が医者を選ぶ基本的な基準と思います。

 何れにしても、診療所に過重な設備を設けることが、ある面では負担になっている可能性がありますので、東京都医師会では、これから開業する医師の疑問に答える相談窓口を設置する予定です。

 また、これからは多くの地域でリタイアする医師も多くなります。診療所の事業継承も地域医療にとっては大きな課題ですので、この相談窓口で対応できると思います。

東京都医師会の最高議決機関である代議委員会

東京都医師会の最高議決機関である代議員会

—病院と診療所では役割が違うと。

野中 地域の病院と診療所が適切に連携することが、地域の様々な医師の過重な負担を解消する ことにもつながると思います。

 もっといえば、専門技能を持った医師が病院で集中的に診療して、その専門性を発揮できるようになるといい。そうすれば今までの医療連携とはまた違った可能性が生まれると思います。

 前述の退院支援に「かかりつけ医」が加わるとか、「かかりつけ医」が診ていた患者さんが病院に入院する際は副主治医として活動あるいは情報提供する等、そういう面での医療連携が理想ですね。

—医者は患者が選ぶものというのはまさに至言ですね。

野中 「かかりつけ医」という言葉は患者さんが発する言葉です。医者側が「私はあなたの『か かりつけ医』です」なんて言いません。病院に入院した時「今回は私があなたの主治医になりました」と病院側が決めますが、これが誤解の始まりでしょう。本来は病院でも患者さんが主治医を選択できるようにするべきなんでしょうね。

 医療は患者さんとの共同作業です。患者さんと相談しながら、すべてが実現できるわけではありませんが、それに近づく努力をする。一緒に歩むという姿勢が大事なのです。

—最後に、「かかりつけ医」にとって大事なのはどんなことだと思いますか。

野中 「かかりつけ医」をひと言で表現すれば、逃げない医者。患者さんから「助けて」と言われたら、逃げないで「わかった!」と。実際はどこまで助けられるかわかりませんよ。しかし、言葉を受け止め、「一緒に頑張ろう」と言う。そのひと言が患者さんやご家族を安心させるのです。

 「かかりつけ医」は信頼される医師として様々な知識を持つ必要があります。最近では、総合医あるいは総合診療医等の表現もあります。しかし、一番大事なのは資格ではなく患者さんから逃げないこと、その姿勢をまず大事にすることと思います。

 

公益社団法人東京都医師会 会長 野中博さん

撮影/赤羽 真也

<プロフィール>
のなか ひろし
1947年、台東区生まれ。1972年、東京医科大学卒業。85年、東京・台東区の野中医院を2代目として継承。1989~2005年3月、浅草医師会会長。03年、東京都医師会副会長、04~06年3月、日本医師会常任理事。06年、社会保障審議会臨時委員。07年12月~「安心と希望の医療確保ビジョン」会議アドバイザリーボードを務める。08年1月~社会保障国民会議サービス保障(医療・介護・福祉)分科会委員。11年、東京都医師会会長に就任、現在に至る。医療法人社団 博腎会 野中医院院長。

 

  
 

 

 

タグ:東京都医師会 地域医療 地域包括ケアシステム かかりつけ医 

 

 

 

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