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仕事に命を賭けて Vol.772014年11月20日号

 

警視庁 組織犯罪対策部
組織犯罪対策第五課 警部補
城所嘉久

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。あの池袋の自動車死亡事故から約4ヶ月―「脱法ハーブ」は「危険ドラッグ」と名称を変え、警視庁を中心に本格的な撲滅活動が進められている。今号ではその担当者に話を伺ったが、「危険ドラッグ」の本当の怖さは、まだまだ認知されていないのが実情のようだ。

(取材/種藤 潤)

100枚のポスター配布以上に1人に確実に伝えることが大切

警察博物館」内の「危険ドラッグ撲滅ブース」

2014年9月から行われている、京橋にある「警察博物館」内の「危険ドラッグ撲滅ブース」。平日昼でも多くの人が訪れていた

 東京・京橋にある警察博物館。警視庁にまつわるさまざまな展示が行われるこの建物内に、今年9月から「危険ドラッグ撲滅ブース」が設置されている。

 ブース内には、実際の「危険ドラッグ」のパッケージの他、覚せい剤・大麻などとの比較や、販売ルートなどが記された「危険ドラッグ」の解説パネル、製造工程の現場や「危険ドラッグ」によって引き起こされた自動車事故現場の写真など、「危険ドラッグ」の実態を示すさまざまな資料が掲示されていた。

 取材時は平日にもかかわらず、訪れる人は途切れることなく、なかには「作用は大麻の40倍以上も!」と、その危険性の高さに驚愕の声をあげる人もいた。

 そんな来訪者に対し、今回取材をお願いした城所嘉久警部補は、柔和な雰囲気で声をかけ、パネルの補足説明を丁寧に行っていた。

 「こうやって関心を持ってくださる方にきちんと理解していただくことが、危険ドラッグの拡散防止の第一歩です。ポスターを100枚張ることも大事ですが、それ以上に一人ひとりに確実に危険だと認知してもらうことが、重要だと思っています」

 

歴史の浅い薬物だからこそ軽く見られがち

 取締と広報活動。この2つが現在警視庁が注力する「危険ドラッグ」撲滅活動の主軸であるが、城所警部補が担うのは後者であり、前出の展示ブースの設置や運営の他、都内各地で行われる撲滅キャンペーンの企画・実施などを行っている。

 「覚せい剤や大麻などに比べ、危険ドラッグはまだなじみが薄く、かつ『合法ドラッグ』などの名称だったこともあり、気軽に利用できるゲートウエイドラッグ(入門薬物)として見られがちでした」

警察博物館」内の「危険ドラッグ撲滅ブース」。ブース内には、実際に販売されていた「危険ドラッグ」のパッケージも展示されている

ブース内には、実際に販売されていた「危険ドラッグ」のパッケージも展示

 そうした“誤解”が先行したことにより、乱用後に車を運転し事故を起こす事態が頻発、その最たる例が今年6月に池袋で起こった自動車暴走死亡事故だ。

 それ以前の今年4月から薬事法が改正、指定薬物(覚せい剤などの規制薬物以外の、中枢神経の興奮・抑制などの作用を有するドラッグ)の販売、所持、使用等も法的に取締ができる状況になったが、池袋の事故も契機となり、7月1日には都の条例で「知事指定薬物」として指定された薬物も、薬事法の指定薬物の取締の対象となった。

 一方で警視庁は7月10日に副総監を本部長とする「脱法ドラッグ総合対策推進本部」を設置。販売店舗の取締を強化するとともに、運転時の取締にも本腰を入れはじめた。そして名称も公募により「危険ドラッグ」と改称。より危険性の高い薬物という印象の定着を図り、今日に至っている。

 

簡単に作れるからこそその危険性は無限大

都内各地で「危険ドラッグ」の撲滅キャンペーンを実施。

都内各地で「危険ドラッグ」の撲滅キャンペーンを実施。

 今年7月には、68店舗を対象に一斉立入りを実施。その2ヶ月後には対象が35店舗までに減少。取締の効果が出てきたとも言えるが、これからが撲滅活動の正念場だと、城所警部補は気を引き締める。

 「おそらく今後、業者は取締を避け潜在化していくでしょう。そうなる前にどれだけ多くの人にこの薬物の危険性を伝えられるかが勝負です」

 実は危険ドラッグは、ハーブなどに化学成分を混ぜるだけで簡単に作れる構造のため、容易に量産できてしまう。しかもパッケージも一般の製品と区別しにくく、隠れて販売しやすいのも特徴だ。その上、インターネットでも流通しているので、完全に取締るのは困難だそうだ。

 そんな状況の下で広報としてできることは、取締の実情を広めること、そしてその危険性をこれから手を出してしまう可能性のある若者を中心に伝え、使用を未然に防ぐことだと話す。

 「この薬物は歴史が浅いため、実際にどれだけ人体に害があるか解明されていません。そんなリスクの高い物質を体内に入れ、しかも池袋のような事件を引き起こしてしまったら……誰も幸せになりません。そういう実情を広報自身が伝えるのはもちろん、庁内の警察官にも理解させ、各署で警察官がより多くの人に伝える体制を作ることも、広報の役割だと思っています」

 展示ブースで来場者に説明したように、取材でも終始落ち着いた雰囲気で、とても具体的に説明してくれた城所警部補。そういう人の言葉が最も説得力があるのだと、改めて気づかされた。

 

【プロフィール】
1968年、神奈川県生まれ。1992年、警視庁巡査を拝命、東京水上警察署(現東京湾岸署)に配属。以後、大森署組織犯罪対策総務課、田園調布署生活安全課などを経て、2010年に海上保安庁に出向。2年を経て組織犯罪対策第五課に配属、2014年2月より銃器薬物対策二係として、危険ドラッグの撲滅対策担当

 

 

 

 

タグ:警視庁 危険ドラッグ

 

 

 

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