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NIPPON★世界一 The76th2015年07月20日号

 

次世代水素エネルギーの開発

●株式会社東芝 ●東京都港区
●従業員数:約20万人(連結)
●設立:1875年7月

次世代水素エネルギーの開発

 日本にある世界トップクラスの技術・技能―。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。昨年11月に発売されたトヨタ自動車「MIRAI」により、「燃料電池」の存在が一気に世の中に浸透した。水素を中核とした環境負荷を最小限に抑えるその技術は、実は東芝が他に先駆けて研究を進めてきた分野だ。昨年からは新たな事業として本格始動。2020年も見据えたその戦略を、プロジェクトのトップに尋ねた。

(取材/種藤 潤)

 

株式会社東芝の前川治執行役上級常務。『H2One』をはじめとする水素エネルギー事業を進める次世代エネルギー事業開発プロジェクトチームのプロジェクトマネージャー。電力システム社副社長なども兼務する

 神奈川県川崎市・東扇島にある公共施設「川崎マリエン」。敷地の一角には、高さ2.5mのコンテナほどの機器が4台設置されている。上には太陽光パネルがあるので、発電する機器であることは想像できる。実はこれこそが同社が昨年から本格的に手がけている「水素エネルギー」事業の象徴とも言える存在なのだ。

 「この機器があれば、約300人が1週間過ごせるだけの電力とお湯を提供できます。さらには機器全体を運搬することができますので、電力のストップした災害現場などに運び入れることも可能です。輸送も考えこのサイズにしました」(前川治執行役上級常務)

 その名も、『H2One(エイチツーワン)』。現在は「川崎マリエン」に設置され、災害時を想定した実証運転を行っているが、実は我々の日常生活をも大きく変貌させる実力を持っている。

 

水さえあれば発電できCO2も発生しない

 『H2One』は、再生可能エネルギーと水で水素を作り、その水素で発電する、完全自立型のエネルギーシステムである。具体的には「太陽光パネル」で生成された電力を用い、「水電気分解装置」で水を電気分解し、水素を発生させる。そして水素と酸素を化学反応させて電気と熱を作り出し、電気は施設に供給し、熱は水を沸かしてお湯として活用する。つまり水さえあれば“地産地消”で電気とお湯を作り出すことが可能で、そのうえCO2などを発生させることもない極めてエコロジーなシステムなのである。それは電力システムの理想の形といっても過言ではないのだ。

 

電力の“地産地消”により作業現場や離島などでも活躍

 電力の“地産地消”による幅広い可能性を、前川さんは期待を込めて力説する。

 「もとは東日本大震災を教訓にBCP(事業継続計画モデル)として開発しましたが、現在は『エネルギーマネジメントシステム』と組み合わせ、ビルや工場、物流倉庫などの作業現場での応用も進めていますし、“地産地消”の特性を生かして離島や遠隔地での稼働も想定しています。なかでも離島は使用燃料の輸送コストに加え、災害時に輸送がストップするリスクもありますので、『H2One』を備えておけば心強いと思います」

 実はこの離島の課題は、日本が置かれているエネルギー状況になぞらえることができ、それも同社が「水素エネルギー事業」を本格化した理由のひとつだという。

 「意外と知られていませんが、日本のエネルギー自給率は現在たったの6%。エネルギー資源のほとんどを海外に依存している状況です。それはコスト面はもちろん、いざというとき資源の輸入が途絶し、電力供給できないというリスクを抱えることになります。しかし我が国に資源が豊富にある訳ではなく、一方で環境負荷も極力抑えた発電の形を構築したい。そうした問題を解決できるのが、『H2One』なのです」(前川さん)

 

より大きな発電・蓄電が可能
水素社会実現に貢献

水素エネルギー研究開発センター
水素エネルギー研究開発センター

上2枚:同社の水素エネルギー事業の中核を担う、今年4月にオープンした「水素エネルギー研究開発センター」

 同社の「水素エネルギー」との関わりは長く、1960年代にはすでに同エネルギーを用いた「燃料電池」の研究開発に着手。その技術は2009年に家庭用燃料電池『エネファーム』に結実、日本の新たな電力システムの礎となった。ただ『エネファーム』もCO2削減に大きく寄与できるエネルギー源であるものの、都市ガス等を改質(炭化水素から燃料電池に供給する水素を取り出すこと)する過程ではCO2が排出される。それを太陽光など自然エネルギーと組み合わせ、水を原料としてCO2排出をなくしたのが『H2One』なのである。

 同社では現在、『H2One』よりさらに発電・蓄電力の高い『H2Omega(エイチツーオメガ)』の開発も進行中だ。『H2One』の電力量が約5キロワットに対し、『H2Omega』はその1000倍の5メガワットクラスになる。これは1万世帯の家族が8時間生活できる電力であり、しかも大きさはテニスコート一面程度。このためビルの地下などにも設置が可能になるという。「都市部での電力の大量供給に耐えられる技術を確立することで、水素を活用した東京の街づくりに、お役に立てると思います」(前川さん)

 特に2020年の東京五輪は、水素社会実現のエポックと位置づけられている。日本の新たな水素エネルギー技術を世界にアピールし、将来の水素社会実現につなげていく、その中で同社の技術は欠かせない存在になることだろう。

 

 

 

 

タグ:東芝 H2One エイチツーワン 水素エネルギー H2Omega 

 

 

 

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