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【特別座談会】高齢者が安心して快適に生活できる2015年11月20日号

 

高齢者向け住宅対策 特別座談会
座談会出席者:

司 会 三重野真氏 (株式会社アライブメディケア 専務取締役)

 急激に高齢化が進む東京において、高齢者が安心して快適に生活できる場としての住宅対策はきわめて重要な課題となっている。東京都における高齢者住宅対策は、福祉保健局(厚生労働省)の所管に係わる「福祉的住宅」と、都市整備局(国土交通省)の所管に係わる「公共的住宅」の大きく2つの流れがあり、現況、主流を占めているのは「福祉的住宅」で、これらの多くは民間事業者の運営に委ねられている。実際に運営・経営する上での課題について関係者の皆さんに話し合っていただいた。

高齢者の住まいの事業者団体の4団体が緩やかに統合して今年4月に連合体発足

三重野 私は、企業の中で有料老人ホーム事業を担当しており、高齢者住宅在宅経営者連絡協議会(高経協)の幹事を務めていますので、今日は司会として参加させていただきます。

 まず東京都の高齢者住宅対策についての概要を改めてご紹介いただき、問題となっている虐待、話題の地域包括ケアなどについて、みなさんのご意見をうかがえればと。その上で有料老人ホームがどう期待に応えていけるかを考えていきたいと思います。

西村 私は、東京都福祉保健局で高齢社会対策を所管しております。
 東京都の高齢者を取り巻く状況ですが、高齢者人口は今後も増加が続き、いわゆる団塊の世代が75歳以上、後期高齢者となる平成37年には330万人を超えて都民の4人に1人が高齢者ということになります。さらに、何らかの認知症の症状を有する方は約20万人増えて、60万人にまで達する見込みです。

 こうした状況を踏まえ、昨年12月に策定した都政運営の指針となる長期ビジョンでは「高齢者が地域で安心して暮らせる社会の実現」を政策指針の一つに掲げています。
 また、平成27年から29年までの3カ年の計画として今年3月に策定した東京都高齢者保健福祉計画では、介護サービス基盤の整備、在宅療養の推進、認知症対策の総合的な推進、介護人材対策の推進、高齢者の住まいの確保、さらに介護予防の推進と支え合う地域づくりの6つを柱として様々な施策を明らかにしています。

市原 私は、有料老人ホーム協会(有老協)で副理事長を努めております。
 有料老人ホームの歴史は古く、いちばん古いものは昭和29年にできたといわれていますが、今では全国に1万カ所定員38万人ぐらいまで増えており、特に大都市東京、大阪を中心に増えています。

 一方、国交省が政策的に供給を促進したことで、4年ほど前からサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)というのも非常に増えてきました。これが今では16万から17万戸となっています。有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅などを高齢者の住まいという一つのジャンルと見なした場合、50万人以上の収容能力のあるマーケットになっています。

座談会風景

 現在、高齢者の住まいの事業者団体は4団体ありますが、それぞれが行政との折衝や意見調整をするより、一緒にやっていったほうが世の中にも理解していただけるだろうと、4団体を緩やかに統合して高齢者住まい事業者団体連合会(高住連)という連合体を今年の4月に発足しました。私はそちらの代表幹事も務めております。

国政 私は、全国特定施設事業者協議会(特定協)の代表理事を務めております。

 今、正会員が640法人です。特定施設の法人は2168ありますので、3割弱の組織率ですが、ホームの数では特定施設全体で4500ホームのうち2131ホーム47%、5割程度が会員となっています。特定協では、国や自治体に対し、特定施設がどういう状態にあるのかを適切にお伝えするということと、もう一つは研修会やセミナーを開催して各事業者がサービスやコンプライアンス等の向上を推進するために活動しています。

 最近、特に力を入れているのは、地域活動です。東京都内だと比較的他業者さんと情報交換できますが、地方だとなかなかそれができないものですから、地域でも活動を積極的に推進しています。

 

施設での虐待を防ぐには、外部の目を入れることが重要

三重野 高齢者住宅対策で、国がたくさん特別養護老人ホーム(特養)をつくるわけにもいかない中で、民間の責務として高齢者の安全な住まいをつくっていかなくてはいけないという使命のもとにやってきているつもりではありますけれども、大手といわれる企業が今回のような事件を起こしたことは非常にショッキングなことです。虐待問題について都としてどのように考えているかお聞かせ願えますか。

西村 虐待に限らず、広く施設内での事故の把握という意味では、介護付有料老人ホームについては、介護保険法に基づく区市町村への報告義務がありますが、都道府県に対する報告義務はありません。このため、都は独自に定めた東京都有料老人ホーム設置運営指導指針の中で、死亡等重大な事故が発生した場合には、都へ報告するよう求めています。

 事故防止のためには、外部の目を入れるということがとても重要です。この事故報告も、事故の原因分析と再発防止を目的としたものです。ただ、法令上の義務ではないせいか、徹底されていない面があるのも事実で、先般改めて都内全ての有料老人ホームに対して事故報告の徹底についての通知を発出いたしました。

三重野 高住連では、虐待防止のための対策を立てているそうですね。

市原 今回の問題は業界としては特異な事件、単発的な事件というふうにとらえてはいけない、いつ何時、どこにでも起こりうるととらえて、二度と起こしてはいけないという重大な決意を持って対策に取り組むべきと考えています。そこで、高住連を窓口、一つの推進体として傘下の4団体が協力をして再発防止対策を立てたところです。  仮に一職員が不適切な行為をしたとしても組織のマネージメントが働いていれば、こんなに何回も起こらなかったのではないか。それから行政に対する報告も徹底していれば、行政の目が入って再発、あるいは同じような事件が連続して起こることもなかったと思います。今回の反省のもとにまず各社の経営の責任者が、虐待は絶対にやっちゃいけない、虐待は犯罪なんだ、もし虐待が露呈した場合には経営を揺さぶるぐらいの重大なことだと、徹底して自覚してもらうことを第一のポイントに挙げています。  都内の有料老人ホームの場合は3年に1回定期的に行政の立ち入り調査があり、介護保険法に基づいても立ち入り調査があります。有老協では第三者のサービス評価という制度をつくっていますし、東京都もグループホームなどでは第三者評価をやっていますので、行政における第三者評価、あるいは事業者団体の第三者評価、これらをうまく連携してやっていったら効率が上がるのではないかと思います。また、外部の目を入れるということも非常に重要なポイントだと考えています。

三重野 有料老人ホームの最大手でもある国政さんの会社では、どんなふうに取り組んでいらっしゃいますか。

国政 今回の事件を受けて、あらためて弊社が行っているのは、社長が、ホーム長、看護職、サービスリーダーを集めて21回にわたって直接語りかけ、私たちが今まで大切にしてきたこと、ベネッセスタイルケア宣言というのですけれども、もう一度それを読み合わせて、そこに込められた思いを伝え、それぞれのチームでセッションをして、私たちの周りで起こる可能性はないだろうかという振り返りをしています。本来の思いを伝え続けることは非常に重要だと思います。

 それから、内部通報制度も持っています。直接は言いづらい場合でも、スタッフがはっと気付いた時に通報することで、問題が大きくなることを防げるのではないでしょうか。

 

特定施設は地域の拠点のひとつとして地域包括ケアの担い手になる

市原 地域包括ケアという言葉が一人歩きをしていますが、イメージがはっきり湧きません。住まいがあり、訪問介護や看護があり、小規模多機能があり、在宅支援がありというのが理想なんでしょうけれど、都としてはどのような計画を立てているのですか。

西村 先ほどご紹介した東京都高齢者保健福祉計画の中でも、平成37年をめどに大都市東京にふさわしい地域包括ケアの構築を目指すこととしています。東京は隣人関係が希薄だとの指摘もあります。その一方でみなさんも含めて専門性を有した方々、事業者が集中しています。様々な分野の人材も豊富です。民間の力と地域の方々の力、そして行政の力、これらを束ねて東京にふさわしい地域包括システムをつくり上げていくべきだろうと考えています。本年7月には、東京の地域包括ケアシステムのあり方に関する検討の会議を立ち上げ、幅広い方面の有識者の方々にご議論をいただいております。年度末までには最終報告をまとめる予定ですが、ここでの議論や提言を踏まえて、都の施策にも反映していきたいと考えています。

 また、地域包括ケアのイメージが湧いてこないということですが、こう考えるとわかりやすいと思います。

 例えば特別養護老人ホームは、医療があり、看護があり、介護もあって、住まいがあり、食事などの日常生活サービスが施設内で完結しているわけですね。

 では、必ずしも施設が必要かというと、住まう場所があって日常サービスがあれば、医療や看護、介護といった機能は地域にあるものを使えばいい。つまり各地域に拠点になるような場所があって、様々なサービス提供のネットワークが存在している状態をイメージすると近似値になるのかと思います。そう考えれば、地域包括ケアシステムへの貢献の仕方についても具体的になってくるのではないでしょうか。

 例えば、認知症の方に対するケアのノウハウを持っている施設であれば、週に一度地域の住民の方を対象とした学習会を開くとか、自宅で介護をしている方からの相談を受ける場をつくる、あるいは食堂を利用して定期的に地域の活動拠点として開放するなど、地域包括システムへの参加の仕方、貢献の仕方は様々にあってよいのではと思います。

国政 弊社では白糸台のサ高住に「さとまち」というホールを持っていて、地域の方に学びの場や介護予防の場を提供しているのですが、いろんな人間関係が生まれています。他の地域でも例えば、自宅で介護されている方は腰を痛めることが多いんですね。私たちのスタッフが腰を痛めない介助の方法をレクチャーして、よろこんでいただけると、スタッフ自身が生き生きとするんです。自分のスキルが地域の役に立つ、近隣の方に役に立っているという実感を持つことができ、誇りに思うようです。

市原 有料老人ホームやサ高住等、特定施設は、これから地域包括ケアの担い手になっていかなくてはならないと思います。今すぐにできるのは特定施設の介護保険を使っての短期利用です。介護保険で認めてもらいましたので、大多数のところでは条件をクリアできます。

 ただ、特定施設としてのケアプランの作成や居宅ケアマネージャーとの調整、送迎など手数がかかるので「うちは無理」というところが多いんですけど、もうちょっと地域の方に使っていただくことも必要だと思います。

三重野 ちゃんと地域に根差す覚悟ができると、それこそ行ったり来たり、具合が悪くなったらまた来ればいいしという、そういうふうな場所になりえますよね。

市原 難しいのは、サ高住などで空き部屋を使うと旅館業じゃないかとか、レストランを開放すると飲食店の許可を取れとか、規制との戦いになってしまう。その辺をもう少し緩和していただけると、より地域に貢献できるのではないかと思います。

 

特養、特定施設、地域の力、バランスよくサービスを伸ばしていく

三重野 東京都の重点施策である在宅療養の推進というところで、看取りというキーワードがありますね。家で看取るということを、家族と在宅サービスで支えるのはとてもハードルが高い。同じ家の機能を持っている特養や我々が、高機能の在宅ということで地域のみなさんのお役に立てるのではないかと思っています。

国政 特定協の調査では今、死亡退去が55%ぐらいで、そのうちの45%がホームの中で亡くなっています。3年前と比較しても確実に増えてきていますね。

西村 現在、有料老人ホームは八王子市を除いて661施設あるのですが、介護付き有料老人ホームは560施設です。そのうちの373施設、7割弱が看取り介護加算の届出済施設となっています。確か二年前は5割弱だったと思いますので、かなり増えていますね。

三重野 ヨーロッパの先進国は日本と逆で、在宅系で看取るのが8割、病院は2割ぐらい。その内訳を見ると自宅が3、4割、住宅系の高齢者の施設や住まいが3、4割です。まずは我々が機能を高め、ホームだったら必ず看取りができますという流れをつくっていく必要があるのでしょうね。

市原 施設で看取る場合は、家族と十分コミュニケーションを取っておいて、身体の状態は医者から言ってもらうのがいちばんいい。医者が説明をして家族にご理解いただいて、例えば「この施設ではバイタルチェックと疼痛ケアと点滴はできますけど、これとこれはできません」とはっきり伝えて、「家族がそれでいいです」と言ったら、職員も不安なく心安らかに看取ることができると思います。

三重野 これからの課題としては、独居老人と認知症の対策を行政側もそうですが、我々も本当にやっていかなければならないと思います。

市原 まず、独居老人の認知症の方が入居する時に、誰が法律的にギャランティするのかという問題がある。成年後見制度があるじゃないかといいますが、成年後見人をつけるには手間も時間もかかります。入居するだけのためになかなかそこまでできません。

 それから、地域サポートシステムや地域包括ケアだけで在宅の独居老人と認知症の問題を解決するのは相当難しい。包括的にその方の暮らしを面倒みてあげるシステム、点と点をつなぐのではなくて、一つの空間の中でサービスを完成させられる施設を増やしてもいいのではないかと思います。

 例えば特定施設で暮らすということは、定期的な在宅支援診療やインフルエンザの予防注射が受けられたり、転ばないように運動することもできるということです。長期入院を避けることができるので医療費削減にもつながります。特定施設だけのコストではなく、社会的なコストまで考えれば、特定施設で暮らすというのはハイコストではないと思うんですね。

国政 それに付け加えるとすると、最近話題になっている介護離職の問題も、私たちの施設があることによって少なくなるのではないかとも思います。

西村 先ほど、「施設を増やしてもいいのでは」というご発言がありました。私どもとしても、引き続き特別養護老人ホームの整備も進めてまいりますし、特定施設も必要だと思っています。そういうさまざまなサービスの選択肢を充実させると同時に、もう少し地域の力をつけて地域でも受け止めていかないと、すべてを支え切れません。バランスよくいろんなサービスを伸ばしていきたいというのが東京都の基本的なスタンスです。

市原 我々も地域に貢献する高齢者の住まいをつくるよう努力してまいりますので、今後ともよろしくお願いします。

三重野 これを機会にご指導賜りたいと思います。本日はありがとうございました。

 


-お詫び-

今月11月号の11面、右下の写真のキャプションに誤記がございました。

正しくは「公益社団法人全国有料老人ホーム協会副理事長 市原俊男氏」です。

関係の皆様にご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。今後このようなことのないよう、編集スタッフ一同、細心の注意を払うよう心掛けてまいります。

 

 

 

 

タグ:東京都福祉保健局高齢社会対策部 公益社団法人全国有料老人ホーム協会 一般社団法人全国特定施設事業者協議会

 

 

 

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