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NEXT東京街づくり 第3回 町田市2016年01月20日号

NEXT東京街づくり
 
地元技術者を中心に作り上げたメロンが農業の新たな地域活性&貢献を生み出す

 今、町田市のメロンが注目を浴びはじめている。昔から地元で生産が盛んな農産物だったわけではない。地元中小企業技術者たちがゼロから作り上げた、まったく新しい栽培方式のメロンである。糖度14%以上と高い品質を誇り、生産性の高さとコストの低さも特徴だ。その技術を町田以外にも広める一方で、農業を中心とした新たな地域活性の形も構築しつつある。

(取材/種藤 潤)

 

専門農家不在だから夢の栽培技術が誕生した

 2015年8月25日。町田市内にある農園では、「まちだシルクメロン」の初収穫を記念した収穫祭が行われていた。同メロンの栽培技術の開発の中心となった町田商工会議所の深澤勝会頭とともに、石阪丈一町田市長の姿もあり、同市のこのメロンに対する期待の高さが伺えた。

町田式新農法」の礎を作った、まちだシルク農園の林大輔代表取締役(中央右)と、その授業を共に発展させてきた町田商工会議所のメンバーたち

「町田式新農法」の礎を作った、まちだシルク農園の林大輔代表取締役(中央右)と、その事業を共に発展させてきた町田商工会議所のメンバーたち

 「まちだシルクメロン」。かつて町田が八王子から横浜に絹を運ぶ「シルクロード」の中継点であったことが名前の由来というが、濃厚な味、とろけるようななめらかさもまた「シルク」の名にふさわしい。実際、その糖度は高級メロンに匹敵する14%以上だ。

 品質もさることながら、注目すべきはその生産手法だ。一般的な農法の場合は1株につき1〜4個の収穫だが、「町田式新農法」と呼ばれる水耕栽培の技術では、約60個ものメロンを実らせることができるという。さらに一般的な水耕栽培と比べ、低コスト化も実現。まさに夢のような技術である。

 「町田式新農法」を作り上げたのは、メロン専門の農家ではなく、地元中小企業の工業技術者たち。その発起人であり、現在栽培を手がける株式会社まちだシルク農園の林大輔代表取締役は、この技術について次のように語る。

 「専門家がいなかったからこそ、常識にとらわれず、新しい視点でこの農法を作り上げることができたのだと思います」

 

中小企業の新産業としてメロン栽培技術に挑戦

 農産物による地域活性というと、近年は生産から加工・販売までを担う「6次産業化」を中核とする観光誘致などが連想されるが、「まちだシルクメロン」は、結果としてその要素はあるものの、そもそもの目的が異なる。

 リーマンショック等で景気が低迷した2009年。町田商工会議所の工業部会では、新たな産業活性の手法を模索していた。その際、異分野の農業がテーマの一つとして挙がり、当時工業部会長の立場にあった林さんが中心となり、「ものづくり」の視点で新しい農法を開発することになった。

 「我々の持つ技術力を活用できるのは、水耕栽培だと思いましたが、トマトなどは現状の水耕栽培でもある程度うまくできた。でも、メロンは課題が多く、新しい農法があってもいいと思い、あえてメロンを選びました」

 林さんの本業は、エアーノズルなどを製造する機器メーカーだ。専門領域は、流体力学。その技術を応用し、これまでの水耕栽培の問題点を見事に解決した。

 「従来の水耕栽培では、水が停滞しやすいため液肥が均等に行き渡らず、根腐れを起こしやすいことが課題でした。ならば、その水を常にバランス良く循環させる“ゆらぎ”を作ればいい! 思いついたものの、形にするのは容易ではありません。しかし困難であるほど挑戦したくなるのが、我々技術者の哀しい性です」

 林さんの言葉通り、1年を経てこの技術が確立したことにより、根腐れが起こらなくなり収量は増加、成長効率も上がり4kgもの巨大メロンが誕生するまでになった。それに何より水耕栽培のメロンは味の質も課題だったが、その点もこの技術により解決した。

 

儲からないからこそ社会貢献できる事業に

 その後、地元企業の技術を応用し、液肥にあえてブレーキをかける装置を作り、より甘いメロンにすることに成功。その他の地元企業の協力のもと、収量の安定化や低コスト化などを進め、2015年4月より一般販売に向けた初めての栽培が行われ、9月より出荷がスタートした。

「まちだシルクメロン」の収穫祭の風景。

昨年8月25日に行われた、「まちだシルクメロン」の収穫祭の風景。同プロジェクトの中核となった町田商工会議所の深澤勝会頭(右)に加え、石阪丈一町田市長(中央)の姿もあった(提供:町田商工会議所)

 並行して、市内の事業者と共同してオリジナルのスイーツも開発。さらに「町田式新農法」をメロン以外の農作物にも応用し、他地域への技術普及もはじめているという。

 「まだ商品として一般流通に出すには収量は不安定で、量産体制も不十分ですから、その点が当面の課題です」(林さん)

 とはいえ、その個性的な取り組みから、各メディアでも取り上げられ、協力する企業も増加、地元の新たな産業として順調に歩んでいる。一方で、メロンを中心とした新しい地域貢献の形も模索しはじめている。

 「メロンはどんなに作ってもあまり利益は産みませんから、むしろ利益以外で社会に貢献できる事業にしていきたいです。例えば雇用。我々は、就職が難しい障害者や高齢者などを抱える主婦を、できるだけ採用するようにしています。というのも、この農法はマニュアル通りやれば誰でもできる容易さも特徴です。上手にやりくりすれば、家庭優先で仕事してもらうことも可能になります。そういう社会性ある価値観に共感し、この事業をサポートしてくれる企業も少なくありません」

 農業×技術が生み出す、新しい地域活性と社会貢献の形。今後「まちだシルクメロン」が広く普及するとともに、仕組みとその価値観が広がることを期待したい。

 

 

 

 

タグ:町田市 まちだシルクメロン 町田商工会議所 町田式新農法 

 

 

 

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