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大庭麗のイタリア食材紀行 第50回2018年07月20日号

 
大庭麗のイタリア食材紀行

 

第50回 南イタリア、カンパニア州のチレント地域に残る伝統的なイワシ漁法

 先日、地中海に伝統的に伝わる“メナイカ”と呼ばれる漁法でイワシを獲り、アンチョビを生産する方にお話しをうかがう機会がありました。古代ギリシャ時代に遡るこの伝統的なイワシ漁法は、古くは地中海地方全域に普及していました。この漁法は、網の独特な形状により、12~17㎝サイズの片口イワシのみが選別されて網に掛かります。しかし漁獲量が少ないため、時代と共に廃れ、現在イタリアでは7~8艘の漁船のみが、その伝統を守り続けています。

日本ではオイル漬けやチューブタイプのアンチョビがポピュラーだが、イタリアでは風味のより良い状態の塩漬けのままで販売されている事が多い

 良質なアンチョビを作るには、余分な雑味や苦みの原因となる、魚の血をしっかりと取り除く必要があります。通常の漁の場合、魚を7~8時間塩水漬けにして、体内の血液を取り除きます。メナイカ漁の場合は、魚が必ず頭から網に引っ掛かり、漁師が網から魚を外す際にはエラ付近に切れ目が入り、自然と活〆がなされます。すべての魚が完璧に血抜きされた状態となり質が保たれることが、この漁法ならではの特徴です。

 同じヨーロッパでも、フランスやイギリスでは、アンチョビを作る際は内臓を残したままイワシを塩蔵、熟成させます。内臓を残す事で発酵は早まり、若干残る苦みにより複雑な味わいが楽しめるアンチョビになります。それに対してイタリアでは、伝統的に繊細な味わいのアンチョビが好まれる傾向にあり、メナイカ漁の場合もまた、船上でイワシの頭と内臓を取り除きます。その後、テラコッタやアルバネッラと呼ばれるガラス容器、または栗の木を用いた小樽で、海塩をまぶしながら、イワシを幾層にも並べ、上から木蓋と重しをし、約40~90日熟成します。主に4~7月に行われるこのイワシ漁。産卵後の脂の落ちたイワシこそがアンチョビには向いており、仮に脂の乗ったイワシを用いてしまうと、熟成中に脂が酸化し、アンチョビの質が下がってしまうのだそうです。

 次回は、この地域伝統のイワシを用いた魚醤の話題です。

 


大庭麗

<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>

 東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

 

 

 

 

タグ:大庭麗 メナイカ アンチョビ

 

 

 

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