ポロはスポーツではなく文化です。

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

ポロジャーナリスト/フォトグラファー/元ポロ殿堂博物館(米国)国際委員 森 美香さん

 中学生の時、ハワイの人気歌手アル・ロパカの甘い歌声に魅了された。4年後、偶然にも彼と出会い、ポロの選手に転向したことを知る。しかし、落馬事故で42歳の若さでこの世を去ってしまった。彼はなぜそこまでポロにのめりこんだのか。彼の衝撃的な死が自分を突き動かす原動力になっているというジャーナリスト、森美香さんにポロの魅力をうかがった。

ポロというのは麻薬のようなもの。
破滅するか落馬して死ぬまでやめられない。

―ポロに興味を持ったきっかけは?

森 中学生の頃、父の仕事の関係でハワイに行きました。当時、一世を風靡していた地元の歌手のアルバムを買って帰ってきたんですね。1970年代の前半ですけれども、その人はアル・ロパカといって、ライブにはエルビス・プレスリーがお忍びで訪れるほどの売れっ子エンターテイナー。ロマンチックな歌声にすっかり魅了され、レコードがすり切れるくらい聴きました。

 大学1年の夏、偶然、その彼に出会ったんです。落ちぶれて、レストランのラウンジの片隅でエレクトリックギターの弾き語りをしていました。「私はあなたのファンです。ファーストアルバムも持っています」と言ったらすごく喜んでくれて、聞けば最近は歌ではなくてポロに夢中なんだと。チャールズ皇太子とプレーしたことや、ポロがいかに危険な競技であるかを熱心に語ってくれました。

 8年後、再びハワイに行った時、アル・ロパカがポロの試合中に事故死したと知らされました。ショックでした。彼の生き様をノンフィクションにしたいという思いがこみ上げてきました。ポロは、馬を何頭も所有しなければならず、とても経費のかかるスポーツです。ロパカの軌跡を取材していくと、金を使い果たし、最後は無一文になって死んでいったことが分かりました。彼を破滅に追い込んだポロの魅力とは何だったのか。この視点から、ポロを追う私の人生の旅路がスタートしたのです。

—ポロといえばチャールズ皇太子、イギリス貴族が馬に乗ってやるという程度のことしか知らなくて……。

森 そうですよね。日本では見る機会はありませんもの。ラルフ・ローレンのポロシャツはすごく人気がありますけど。

 ポロはサッカーと同じで相手のゴールに入れると1点、多く入れた方が勝ち。4人が1チームで、1チャッカ(ピリオドのこと)が7分30秒、それを4回から6回行います。サッカー場の3倍のグラウンドを、ボールの行く方向に時速60㎞近いフルスピードで走ったり、ボールに向かって回転したり、急停止したりする。それを繰り返すと馬が消耗してしまいますから、1チャッカずつ交代させるんですね。同じ馬に連続して騎乗できるのは長くても2チャッカまで。ですから馬を1人10頭から12、13頭待機させる。主要大会の決勝戦になると、見渡す限り芝生の上に百頭近い馬が待機する壮大な光景が広がります。

2016USオープン @MikaMoriPhotography

 みなさん、貴族の優雅なスポーツみたいに思われますが、スポーツの中でも苛烈な競技の一つではないかと思います。選手たちは口をそろえて言います。ポロとは麻薬のようなもの、破滅するか落馬して死ぬまでやめられないと。私はプレーヤーではありませんが、考えてみたら半生をポロに捧げていました。ポロには人を惹きつけて止まない磁気のようなものがあるんですね。

アルゼンチンのポロ選手は人馬一体。
まさにケンタウロスです。

—命を落とすかもしれないスポーツに何故そんなに魅せられるのでしょう。

森 ポロはスポーツではなくて文化だと思うんです。今、ポロを始めた人たちの3代目、4代目がプレーヤーになっていますが、ポロは家族の伝統でありレガシーであり、代々受け継いでいくものなんですね。“Way of life”、つまり、馬と共に生きるライフスタイルであり、生活の一部であり、ポロという生き方なんです。

 ポロはエリートのスポーツと言われ、アメリカではビジネスで成功した人が、パトロンとして一流選手を雇い、自分もチームの一人として一緒にプレーしてグランドスラムで優勝を果たすというのが、究極のアメリカンドリームと見做されています。

—なるほど。

森 エリートのスポーツだけに、歴史を顧みると、外交の場面でもポロが一役買っています。

 インドがイギリスから独立して権利を移譲する時、藩王国が600ぐらいありました。交渉をどうするかと頭を悩ませたチャーチルは、ヴィクトリア女王のひ孫のマウントバッテン卿を総督として送り込みました。マウントバッテンは海軍中尉時代にインドに駐屯し、藩王国の王様たちとポロを通じて信頼関係を築いていたからです。

 ゲームを通して培った絆は血の繋がりにも勝ると言われます。その絆は外交交渉においても功を奏し、大方の藩王国が権力移譲日までにインド自治領への加入を承諾したと言われています。

 そういう意味で、ポロには民族とか国境とかジェンダーを超えて、世界を束ねる求心力があると思っています。

―命がけのスポーツを一緒にやることで人となりもわかり、信頼が生まれ、絆につながっていくのでしょうね。

森 その通りですね。危険と隣り合わせの厳しい勝負の世界で戦っていますから、プロ選手の方たちがまた精悍で写真映えするんです。鍛え抜かれたスラーッとした肢体で、ラルフ・ローレンからモデルを頼まれるくらいカッコいい(笑)。

 最近はアルゼンチンが優勢で、アルゼンチンの選手たちは子どもの頃からパンパスで裸馬に乗っているので、手綱ひとつで馬を自在に操ります。人馬一体の度合いが違うんです。彼らがプレーするその姿はケンタウロス。まさに自分の脚が馬になっている感じです。

―国によって選手の乗り方も違うのですか。

森 はい。それがまたおもしろいんです。アメリカはカウボーイっぽいラフな感じ。イギリスはやはりフォームが美しくて格調高い。そこにひとたびアルゼンチンの選手が入ると、試合の流れは途端に、ねばり、うねって、タンゴでも踊るかのような妖しいスリルを増します。

―ぜひ見てみたいです。日本では開かれないんでしょうか。

森 開かれていないですね。サッカー場の3倍の広さ、それ以外に馬を待機させる場所が必要なので、なかなか条件的に難しいでしょうね。

2016USオープン決勝戦ハーフタイムの様子 @MikaMoriPhotography

かつてチャーチルは言った。
「ポロは世界のパスポートだ」と。

—そもそもポロは、いつどこで誕生したのですか。

森 今からおよそ2500年前のペルシャ帝国に起源があるというのが通説でしたが、最新の研究によって、ペルシャよりも更に1000年も遡る、紀元前1405年にインドのマニプールで行われていたことが明らかにされています。

 ポロはまだまだ海外でも専門に研究している方が少ないのが現状です。

—そんなに長い歴史があるのに研究があまりされていないと。

森 そうなんです。1997年に朝日新聞社から世界史とポロをテーマにした本を出すことになった時、海外でもポロの研究書は限られていましたから、代々ポロの後援に携わる貴族の方たちに取材したり、オックスフォード大学図書館や各国のポロ協会の書庫に入れていただいて、資料を読み漁りました。世界史を自分の足でたどっているような、わくわくするおもしろさがありました。

 アレクサンダー大王に始まって、唐の玄宗皇帝、チンギス・ハーンなど、いわゆる武将と言われる人たちは大概、ポロの名手です。つまり、馬は戦争に不可欠でしたから、戦況を瞬時に読み解く頭脳と胆力を必要とするポロに秀でているということは、軍事司令官としても優れているということになるんです。それで軍人たちは競って腕を磨いたんですね。現代の英米の例を見てもそうですが、どの国でもポロの発展の軸には軍隊があります。

 ポロをキーワードに見ていくと世界史が作れてしまう! それがすごく大きな発見でした。

—歴史の確認ではなく、新たな事実の発見ですものね。

森 パズルが解けていくようでした。

 かれこれ30年以上ポロの世界を歩いてきて、世界中に仲間ができました。一昨年、USオープンに20年ぶりに行ったら同窓会みたいで、嘗て取材したスター選手たちは一線を退いていましたが、本当にポロは、私にとってかけがえのないものだと痛感しました。一人で海外のどこかの町に行っても、寂しくないんです。フィールドへ行けば必ず誰かとつながる。イギリスでもフランスでもアメリカでも。チャーチルが嘗て、ポロは世界へのパスポートというようなことを言いましたが、まったくその通りだと思いました。

—それがポロの世界なんですね。ずっと研究していらして、これからやりたいことは?

森 日本には平安時代、打毬という形で入ってきましたが、打毬の国ニッポンとポロ・プレーイングカントリー77か国をつなぐ翼となるような活動を、アメリカ、イギリス、アルゼンチンの選手や仲間たちとやっていこうと思っています。

 それは日本でポロチームを作ろうということではありません。ファッション誌等で紹介される華やかで優雅な社交の世界ではなく、ポロに人生を賭けた人たちの情熱や生き様、愛馬との物語など、長年ポロフィールドを歩いて知り得たこの競技の担い手たちの世界。競技の背景にある壮大な歴史や、異なる価値観を受容する精神などを、伝えていきたいと思っています。

 新しい起源説を打ちだしたイギリスの研究者とは、東西それぞれのポロの歴史を共著という形で計画中です。

 ポロを追う私の旅路はいまだ終わりそうにありません。ポロへの情熱が人と国を結び、最終的にはそれが世界の平和へつながっていくような、そんな活動ができればいいのですが。

    

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