レガシーとして残したいのは、スポーツを生活の中で楽しむ文化

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会 事務総長 嶋津 昭さん

 9月20日、ラグビーワールドカップ2019日本大会がいよいよ開幕する。アジアで初めて開催される大会ということもあり、世界の関心は高い。2015年大会で強豪・南アフリカ代表を破った日本チームへの期待や、大会レガシーなどについて、ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長、嶋津昭さんにお話をうかがった。

日本独特のホーカーシステムで海外から来る観客を驚かせたい。

―ラグビーワールドカップ2019のマスコットは、白と赤の、あれは連獅子ですか?可愛くて、かっこいいです

嶋津 人気があるんですよ。連獅子をイメージしています。マスコットというのは日本文化ですから、ぜひ記事に出していただけると、評判も上がるかと(笑)。

―オリンピックは文化とスポーツの祭典といわれますが、ラグビーワールドカップも文化的な面が求められるのですか。

嶋津 そうですね。ラグビーというのはイギリス発祥のスポーツなんですが、ヨーロッパにはラグビー文化というものがあって、ラグビーだけではなく、クリケットや他のスポーツも含めて、スポーツを楽しむ文化があるんですよ。

 ロンドンのトゥイッケナム・スタジアムは8万人を超える観衆が入るんですが、見に来る人はラグビーの試合を見て楽しむだけではなく、2時間ぐらい前から行って、ビールを飲みながら今日の試合はどうなのかワイワイガヤガヤ話をしたり、終わった後も、今日の試合はよかったとか誰が活躍したとか、そういう話題で数時間楽しむ。ラグビーの試合を取り巻く、一つの文化になっているんですね。

 トゥイッケナム・スタジアムの3階席にはコーポレートシートというのがあって、それを年間契約で借りている会社だけでスタジアムの4割ぐらいは観客を集める力があるほどなんですよ。

 日本も豊かになってきたんですから、単にスポーツの試合を見るだけではなくて、スポーツを生活の中で楽しむという文化を、ラグビーワールドカップのレガシーとして残したいと我々としては考えているわけです。

—日本の伝統的なスポーツである相撲は、升席でお酒を飲んだり焼き鳥を食べたりしながら楽しみます。

嶋津 日本に全然ないわけじゃない。東京ドームに行ってもそういうゾーンはあるにはあるんですけど、ほんの一部なんですよ。

 だから、そういうホスピタリティ文化というのかな、そういうことは東京オリンピック・パラリンピックにも、その次の年に開催される世界マスターズ(ワールドマスターズゲームズ2021関西)にも引き継がれるでしょうけれど、今後のスポーツスタジアム造りとか、スポーツの試合につなげていきたいと思っているんです。

 ただね、外国にない文化というのもあって、例えば東京ドームでビールを担いでサービスしているでしょ。ホーカー(hawker)と言うんだそうですが、ああいう文化は外国にはないので、皆さん非常にびっくりするそうです。日本の担当者は、あれはすばらしいシステムだから活用したいと言っています。

理事会後メディアブリーフィング

地方だから行けないのではなく、ツアーしながらラグビーの試合を楽しむ。

—いよいよ9月に迫ってきました。チケットの売れ行きが好調だとうかがっています。

嶋津 我々は48試合、すべてフルスタジアムでやることを、最大で最終の目的にしていますから、チケットはすべて売り切ります。日本戦とか決勝戦、開幕戦に限らず、非常に反応がよくて……。日本国内だけではないんですよ。チケットサイトには世界中からアクセスがありますが、海外からのアクセスのウェイトが思ったよりも高く、約3割は国外からです。座席は全部で約180万席あるんですが、3割が国外だとすると約54万人。最初は40万人ぐらいの国外からのお客さんを見込んでいたんですが、もう少し多い可能性がありますね。

—けっこう外国人の割合が高いですね。

嶋津 横浜とか東京スタジアムのお客さんの半分が国外の方だとすると、異様な試合になるでしょうね。

—まだチケットは取れるのですか。

嶋津 取れます。次は5月18日から第3次一般販売(先着)を始めます。そして、8月に最終販売を行います。

 それともう一つ、チケットのリセールサービスというのをやります。それは、チケットを買ったけれども日本に来られなくなった、あるいは都合が悪くなった場合、それをまた我々のサイトに戻してもらって、それを改めて売り出すというシステムです。次の第3次一般販売、最終販売、リセールとチケットを手に入れるチャンスはありますから、あきらめないでください。

—チケットサイトをちょっと覗いたんですがなかったので、安心しました。

嶋津 皆さんは開幕戦の東京スタジアムのチケットとか、日本戦のチケット、決勝のチケットに目が行くかもしれませんが、ラグビーワールドカップというのは20カ国のすごい選手たちが集まるのですから、どの試合もみんなおもしろいです。全12会場でやる一つ一つの試合についてチケットサイトに見どころコーナーを作っていますので、そういうことも参考にして、楽しんでもらいたいと思います。

 例えば、九州に行ったことがないから、九州でラグビーの試合を見たい。九州の試合というと福岡、大分、熊本ですから、まず大分の試合を見て、それから福岡に行って、最後に熊本に行くと。あるいは静岡のエコパスタジアムで見て、それから1〜2日おいて、豊田スタジアムで見るとか。そういうツアーをしながらラグビーの試合を楽しんでいただくのもいいと思います。

—ラグビーワールドカップをきっかけに、行ったことのないところに行って試合を見るというのはいい考えですね。

嶋津 そのために全国、札幌から九州まで12会場でやるんですよ。

 日本の国を挙げての世界的なスポーツ大会が、ラグビーワールドカップで始まって、オリンピック・パラリンピックそして大阪でやる世界マスターズと、3年連続で開催されます。ラグビーワールドカップの熱気がそのままオリンピック、マスターズまでつながっていくことを期待しています。

ボランティアユニフォーム発表会

ラグビーは単なる体力の勝負ではなく、知恵やチームワークを競うスポーツ。

—世界的なスポーツ大会が3年連続して日本で開催されるということですが、その意義は奈辺にありますでしょうか。

嶋津 スポーツ大会というのはすべてそうですが、開催すること自体も楽しむんです。

 我々ラグビーの関係者は、その大会でどういうレガシーを残すかということに関心があるわけですね。

 ハードのレガシーは、大改修する釜石、熊谷、東大阪の3つの会場があります。ソフトのレガシーとしては、この大会をきっかけにしてラグビーというものの裾野を広げていきたい。2015年の大会はレコードブレイキングの大会といわれていますが、我々はその大会と規模を競うのではなく、アジアで初めてのワールドカップとして、レコードブレイキングではなく、グランドブレイキングの大会にしたいと考えています。

 9月20日に東京スタジアムで行う開会式のテーマは、「ラグビー・フォー・トゥモロー」です。「ラグビー・フォー・トゥモロー」とは、次世代の子どもたちにもラグビーをしてもらいたいという意味ですので、世界の子どもたち、特にアジアの子どもたちに、観客席でセレモニーや試合を見てもらいたいと思っています。

—アジアで初めてのワールドカップということですが、ラグビー伝統国以外で開催されるのも初めてだとか。

嶋津 ラグビーは世界的にいうと、ヨーロッパが一つの固まり。もう一つは南半球で、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチンの固まりです。

 日本は、北半球と南半球のラグビーの真ん中ぐらいに入っていて、サンウルブズの試合を通じて南半球のラグビーとも一緒にやりますが、地理的には北半球ですね。

—2015年の大会で、日本が強豪・南アを破って世界中から注目され、日本でもブームになりましたが、スポーツの位置付けとしてはいかがでしょう。

嶋津 日本のラグビー文化は120年以上の歴史があって、我々の学生時代は学生スポーツはラグビーが花形で、女の子を誘うのもラグビーがいちばん誘いやすかった。

—そうなんですか(笑)。吉永小百合さんも大ファンですものね。

嶋津 そうそう。日本にはラグビーファンは多いし、日本のラグビー特有の文化もあるんです。ワールドカップだって、1987年の第1回から今回で9回目ですけど、毎回出場している国は、ヨーロッパの国、南半球の主立った国、それと日本だけですからね。

—日本は常連国なんですね。2019大会は日本チームは期待できそうですか。

嶋津 前回、エディ・ジョーンズ監督の下、選手が非常にすばらしい結果を出してくれたわけですが、我々はそれを偶然とは思っていません。

 2019年大会は8強以上。決勝トーナメントに進出することを期待しています。

—可能性としては。

嶋津 エディ・ジョーンズ監督もコメントしていますが、日本は決勝トーナメントに残る実力はある。ただし、決勝に行くのはイングランドだと言っていますがね、彼が監督ですから(笑)。

—最後にラグビーのおもしろさは、どんなところだと思われますか。

嶋津 ラグビーはチームプレイですが、そのチームプレイの中身が単なる体力の勝負ではなく、知恵とかチームワークとか、そういうものを競い合うスポーツというところでしょうか。見ていて非常におもしろい、やるのも楽しい魅力のあるスポーツだと思います。

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