第60回 大理石がカギを握るイタリアの絶品ラルド①

  • 記事:加藤 麗

現在でもコロンナータ村の周りでは、レオナルド・ダ・ヴィンチの愛したカッラーラビアンコの大理石の採石が続いている

 イタリアでは、豚の背脂部分をハーブや香辛料と塩漬け熟成したものを、ラルドと呼び、生ハムのように薄くスライスして食べます。日本で言うラード(豚の脂肪を加熱・精製した半固体の油)は、イタリアではストゥルットと呼ばれます。中部イタリア、トスカーナ州の西岸側に位置するマッサカッラーラ地方には、イタリアの人々をはじめ、世界中で絶賛される極上のラルドがあります。

 氷山のような大理石の山々が切り立つコロンナータ村は、古くから大理石の産地として知られています。通常、大理石は、ミネラルなどの不純物が柄のような模様として現れるのに対し、この地域の大理石は、非常にきめの細かい均一な粒子と、不純物が少なく純度の高い炭酸カルシウムでできています。特徴とも言えるその白さから、カッラーラビアンコ(カッラーラの白)と呼ばれ、古代ローマ人も、この大理石を使用していました。コロンナータの語源はラテン語で柱を意味するcolumna。ローマで使われた大理石の柱が採石されたことに因んでいます。宮殿、モニュメントの製作に、ローマをはじめ各都市に運びだされたカッラーラビアンコ。また、レオナルド・ダ・ヴィンチが好んだ大理石としても知られており、ダビデ像をはじめとした多くの彫刻にも用いられています。

 この地で古くから作られてきた“ラルド・ディ・コロンナータ”は、コロンナータ産の大理石をくり抜いてつくられた箱“コンカ”の中で、豚の背脂部分を塩漬け熟成したものです。早朝4時から、急傾斜の採石場で大理石の切り出し作業を行う貧しい労働者たちにとって、生の玉ねぎ、トマト、塩漬けのアンチョビを挟んだ素朴なパンと、ダイス状にカットしたラルドこそが、日中の貴重な食糧であり、労働による疲労に打ち勝つための貴重なエネルギー源でもありました。人々に絶賛されるラルド・ディ・コロンナータの秘密は、次回に続きます。

加藤 麗 かとううらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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