木のストーリーを身近に
〜多摩産材活用のさらなる促進にむけて〜

  • 編集責任者:山下里美

 多摩地域で育ち生産された木材、多摩産材の活用を推進する東京都と、多摩産材をはじめとする国産木材の利活用に力を入れ、神田明神文化交流館「EDOCCO(えどっこ)」(2018年12月オープン)を総合プロデュースした株式会社乃村工藝社に、それぞれの取り組みについて話していただいた。

座談会出席者の方々。
(左から)株式会社乃村工藝社 神田明神文化交流館「EDOCCO」デザインディレクター 大西亮氏、東京都産業労働局 農林水産部森林課 統括課長代理 広瀬光一郎氏、株式会社乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト プロジェクト・マネジャー 梅田晶子氏、そして株式会社乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト プロジェクト・リーダー 加藤悟郎氏

東京都の事業を活用して神田明神のEDOCCO誕生

EDOCCO(写真中央の建物)は神田明神の創建1300年の記念事業として計画された ©川澄・小林研二写真事務所

広瀬 東京都は、森林の整備や林業の活性化につなげるため、多摩産材の利用を推進しています。健全な森の育成のためには、植林・下刈・間伐などの手入れ・伐採した木材の利用・跡地に再び植林、といった森林の循環が重要で、戦後、多摩地域に植林されたスギやヒノキなどは今がまさに利用期を迎えています。

 そこで、住宅などだけでなく、もっとPR効果の高い場所、つまり多くの人が集まり、誰でも利用できる場所で多摩産材を利用して、その利用拡大につなげていこうというのが「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」で、多摩産材の利用に関する支援を通じて、多摩産材をPRするものです。

 EDOCCOは、2016年に「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」に採択されました。初めて来たとき、しっかりデザインされた空間だなと思いました。

神社らしさが随所に感じられる1階の飲食・物販スペース

大西 EDOCCOを手掛けるにあたり、神社から話を聞いたのですが、このまま少子高齢化が進めば、「25年後には、現在の40%ほどの神社が失われる」ともいわれているそうです。ですから、多摩産材を利用するだけでなく、神社に人を呼び込む施設にする必要がありました。マーケティングの手法を取り入れ、イベントや日本文化などの体験によって、今まで神社に興味がなかった層や訪日外国人観光客を集客する文化の交流発信の場と位置付けました。

 EDOCCOのコンセプトは「伝統×革新」です。神田明神の建築様式「権現造り」をインテリアデザインで表現し、神社らしさや縁起のいいものをデザインに取り入れています。

 例えば、1階の櫓(やぐら)の砥の粉(とのこ)や、斗栱(ときょう)といった細部へのこだわりはもちろん、神社の鳥居に使われている朱色を効果的に使用しています。神社でよく見られる格天井(ごうてんじょう)を、現代風にデザインした部屋もあります。

4階にある「令和の間」

 また、神田明神は千歳飴発祥の地であることから、「七五三」も意識していて、「七」「五」「三」という数字をデザインのそこかしこに取り入れています。実は、ソファの背もたれのスリットも7:5:3の割合です。

一同 おお……。

広瀬 そのお話は今初めてお聞きしましたが、館内に統一感を感じるのは、コンセプトに沿ったデザインが細部にまでしっかりとなされているからなのですね。櫓が印象的な1階に足を踏み入れると「ここは木の施設」だとすぐわかります。この事業の意図が見事に具現化されていると感じますね。

大西 スギ材は柔らかく、櫓では構造的に無垢材は使えないので、鉄骨に突き板という薄くスライスした化粧材を貼って使っています。突き板も含め、EDOCCOでは櫓と什器は不燃加工を施した多摩産材を100%使用しています。什器などは年月がたつにつれ、独特の味わいが出てくるのではないでしょうか。

 また、神田明神の御祭神である平将門命(まさかど様)ゆかりの地が多摩エリアとのいわれがあります。神田明神で多摩産材を使うことは、木材の地産地消というだけでなく、神社にご縁のある木材を使用しているということです。こういったストーリーがあると人々は共感し、EDOCCOの集客にもつながり、多摩産材のPRにもなります。

多摩産材・国産木材の利用拡大に向けた具体的な取り組み

広瀬 東京都は今年から「木の街並み創出事業」を始めました。こちらは木材利用のPR効果が期待できるオフィスビルや商業施設などを対象に、外壁、木塀やデッキといった外構など外から見える部分に多摩産材をはじめとする国産木材を使用した場合、設置費を補助するというものです。大都市東京で、国産木材を使うことによって、木の良さや木を使うことの大切さをPRし、国産木材の利用拡大、ひいては全国の森林整備につなげていこうという取り組みです。

 また、ソフト面では建築士に木材への理解を深めてもらうための事業も行っています。建築に従事している方のなかには、木材を扱ったことのない方もいます。そんな建築関係の方を対象に、木材利用をもっと知ってもらおうと、多摩地域の伐採現場から建築現場までを巡るツアーを行っています。多摩産材という地元東京の木材の、生産から流通、利用までを見て回るツアーなのですが、これがかなり好評で定員がすぐに埋まってしまいます。

加藤 当社も昨年、多摩産材の産地を訪れるツアーを開催しました。木材の利用者である事業者や当社のクリエイターが、ともに実際に森に入って木に触れ、木材市場での競りや、製材所での加工の様子などを見学しました。理解が深まったと評判がよく、産地訪問はこれからも続けていく予定です。

乃村工藝社主催の多摩産材FSC®認証林ツアー

 当社の国産木材活用の取り組みは2008年からスタートしました。2010年には出どころの確かな木材(国産木材、地域産材、森林認証材)などを積極的に使用していくため「フェアウッド応援宣言」をし、社員をはじめ業界全体や関連団体などへの啓蒙活動を行っています。

 また、地域産材活用の活性化につながればと、当社のデザイナー鈴木恵千代が考案した、「板材を使って誰でも作れる椅子」のデザインをオープンソース化する取り組みも行っています。製材所などはこのデザインで地域産材を使用したイスを製作し、消費者に供給することができます。

 さらに、100%国産木材を使用した家具づくりで実績のある家具メーカーと協働で、全国各地の森で木を選び伐採することから、木質空間の完成までをトータルにサポートするプロジェクトも始めました。今後、需要は増えていくのではないかと、当社でも力を入れている取り組みのひとつです。

軽く柔らかいスギの性質を活かした、板材で構成した椅子。デザインをオープンソース化している。

梅田 木は、私たち「ものづくり」を仕事にしている人間にとって素材であり、生き物、環境でもあります。私たちは木を通して、人と自然の付き合い方を学んでいるのだと思います。ただ量をたくさん使えばいいというわけではなく、まずは森や木の現状を知ることが大切なのではないでしょうか。実際、「フェアウッド・プロジェクト」では、森に携わる方々と、事業者やクリエイターなど利用者側の方々が直接出会い、理解を深めながら進めています。理解が深まれば、自分自身の勉強にもなり、木材利用も増え「地域の木を使用しながら森を育てていこう」という応援にもつながると思います。

フェアウッド・プロジェクトの概念図

官民連携でさらなる多摩産材・国産木材の活用を促進

広瀬 都市部にはまだまだ木材を使う余地があると思っています。技術開発もあり、将来的には中高層建築物への木材利用も進み、木造のオフィスビルなどが増えてほしいと思います。そのためにも、木材の供給や森林の整備を継続して進めていきます。

 東京都では、保育園や幼稚園の内装の多摩産材による木質化や、木製の遊具や什器などの整備についても支援しています。これは小さなころから木を身近に感じ、木の良さを知る木育を進めるとともに、保育園や幼稚園の内装が木質化されていれば、親の目にも触れますので、木材利用のPRにもなります。

梅田 当社内でも保育園や科学館などをお手伝いする部署がありますので、木材利用について社内外の関心度を高め、「木のことを自分の言葉で語る」人が増えるよう仲間づくりに力を入れていきたいです。

加藤 技術開発という点では、これまでにない木材の使い方を提案していきたいと思っています。例えば、多摩産材と異素材との組み合わせも面白いかなと。多摩産材の産地とは、今後もつながりを作り、東京都など行政とも連携していければと思います。

広瀬 昨年度から「ウッドシティTOKYOモデル建築賞」という木材利用の建築物や木質空間を表彰するコンクールを始めました。EDOCCOもぜひ応募してください。

大西 はい、ぜひ。最近のデザインのブームは「サスティナブル」です。そういう意味でも、再生可能な資源である木材を使用することには意義があり、アワードを通して事例を発信することで、同じ価値観をもって取り組む人が増えるきっかけになると良いと思います。

 当社も、引き続き、空間づくり・活性化を通じて東京の林業・木材産業の活性化や森の保護・成長に貢献していきたいと思います。

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