其の117 新玉の令和

  • 記事:坂井 音重

 風のそよぎ、身をつつむ爽やかな寒気、新しい年号の正月。『令和』初冬の春は清々しい。「令」とは「めでたく、よい」こと。「和」は「穏やかで、心が和む」意味をもつ。年初めに「おめでとうございます」と親しくお祝いの言葉を交わす。互いに一年の平穏と無事を願いながら……。

 家の門には松飾り。日本人の心の内に松と梅、そして竹を敬う心が宿る。松の緑。梅の香と、その美しさ。「竹」の真っ直ぐに伸びる姿は、日本の自然と人びとが共にもっている得難い価値。

 能舞台の松羽目には「老松」が描かれている。磨き上げられた舞台に上がる時は白足袋を着用するのが定めだ。お正月には四方に注連縄を張った舞台で謡い、舞う。私自身も心が洗われ、今年一年の希望が膨らむ。舞台の側面には「竹」が必ず描かれている。そして、時として「梅」が描かれることもある。

 能の演目の中には「松」、「竹」、「梅」を題材とし、擬人化された曲が多い。古典の優れた「漢詩・和歌」から構成され、現代まで脈々と、生き生きと演じられている。『謡』の詞章には節付けがされ、その心情や情景を描き出す。『能』にはそれを深めるため『囃子』の「笛」「小鼓」「大鼓」「太鼓」は必須だ。

 ロシアの18世紀から19世紀にかけての詩人「プーシキン」。韻文で構成された秀れた作品は、能の構成と相通じるものがある。詞章を深めた『オペラ』。「チャイコフスキー」作曲の音楽は、音が物語を語っているようだ。

 『能』の中で静かに舞われる「序之舞」。歌人「和泉式部」を主人公とし、「梅」を主題とした『東北』。その美しい「序之舞」の旋律は、『名手』の手にかかると囃子だけで充分に物語ってしまう。序之舞の曲には、伊勢物語からつくられた名曲「井筒」。源氏物語の、高貴で悲運な麗人「六条御息所」の物語「野宮」。作品によって、それぞれ哀感と情念が見事に醸し出される。

 舞台芸術は心から心に伝わる。国が異なってもお互いに長い時間をかけて培われた伝統芸能は、深く通じ合えるもの。

 2020年は日本に於ける『オリンピック・パラリンピック』開催の年。「競い」、「高め合い」、そして互いに『尊重』することに大きな意義がある。

 『スポーツ』と共に行われる『文化行事』。とりわけ長い歴史に育まれ、現代に息吹く「伝統芸能」の「能楽」は、日本を理解する『根幹』ともなろう。その発信は充分に準備し、成功に向けて執り行われなければならない。『世界平和の祭典』のためにも。

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