自転車賠償保険等 4月1日から加入義務化へ

  • 記事:大竹 良治

高額賠償のリスクに備えを

 買い物や通勤・通学など、日常の手軽な移動手段として定着している自転車だが、都内における自転車による交通事故は依然として年間1万件を超えて発生しており、死亡事故や重篤な障害に対して高額な損害賠償が命じられるケースも出ている。こうした状況を受け、東京都は昨年9月、専門家の意見を踏まえ、自転車の利用者に損害賠償保険等の加入を義務づける条例改正を行い、いよいよ4月1日から施行される。もとより自転車が人を傷つける凶器とならないよう、ルール、マナーの徹底が第一だが、万一の事故の際も、被害者が適切に救済されるよう、すべての利用者の保険加入が求められる。

1億円近い賠償判決も

 都内における自転車関連の事故は、近年、減少傾向にあったが、平成29年に13年ぶりに増加に転じ、平成30年も前年比で増加、対歩行者の事故は年間940件に及んでいる。

自転車関連事故発生件数

出典:第1回専門家会議資料

 自転車事故に伴う裁判では、加害者に対して高額な賠償が命じられるケースも出ている。

 平成25年には小学生の児童(11歳)が女性(62歳)に衝突、意識が戻らず寝たきりになった事例では児童の母親に約9500万円の支払いを命じる判決が出され、世間に衝撃を与えた。

 こうした状況をふまえ、国は昨年2月、自転車損害賠償保険等の加入促進が必要との観点から、地方公共団体に対して条例等による加入義務付けを要請するとともに、技術的助言として標準条例を示した。

 国の要請を受け、都は昨年5月に専門家会議を設置、加入義務化に向けた検討を開始した。そこでは「自転車事故の被害者は加害者を選ぶことはできない」「自転車損害賠償保険等への加入を義務づけることにより安定した賠償の確保が図られる」「どのような保険が自転車事故に伴う損害をカバーしているのかを都民に伝えることが大切」などの意見が出された。

 そして、専門家会議の報告をふまえ、9月の第3回都議会定例会に「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」の改正案を提案、賠償保険の加入義務化が全会一致で可決された。

賠償額事故の概要
約9,500万円 男子小学生(11歳)が夜間、自転車で帰宅途中に女性(62歳)と衝突、転倒して頭を強打した女性は意識が戻らず寝たきりに。(2013年7月神戸地裁)
約9,300万円 男子高校生が自転車で歩道から車道を斜めに横断、男性会社員(24歳)と衝突、重大な障害(言語機能の喪失等)を負わせた。(2008年6月東京地裁)
約6,800万円 男性がペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさずに交差点に進入、横断中の女性(38歳)と衝突、脳挫傷等で死亡させた。(2003年9月東京地裁)

未成年の保護者 事業者も対象に

 今回の条例改正はこれまで努力義務だった自転車損害賠償保険等への加入を義務化するというのが最大の骨子。

 対象は①自転車利用者②未成年者が自転車を利用する場合の保護者③事業活動において自転車を利用する事業者④自転車貸付業者—としている。

 これら4者を対象とすることで、都内の自転車利用者の全てが保険加入義務化の対象となる。

 なお、保護者を対象としたのは、未成年者が保険契約の主体になれないことから。また、事業者を対象としたのは、個人の保険が業務中の自転車事故をカバーしないため。

自転車損害賠償保険等の加入状況

出典:第1回専門家会議資料

 自転車貸付業者については、借り受け者が保険に入っていない場合でも保険加入を担保する必要があることから対象者に定めたとしている。

 また、主な努力義務としては、自転車小売事業者に対して自転車購入者に保険加入の有無について確認する努力義務を定めた。通勤で自転車を使用する従業員のいる事業者に対しても通勤で自転車を使用する従業員に、同様の努力義務を定めている。

 さらに、学校等の設置者に対しては、自転車を利用する児童生徒・学生及び、その保護者に、自転車損害賠償保険等に関する情報提供を行う努力義務などを定めている。

保険加入促進に向け普及啓発活動を推進

 都はこれまでも、業界団体や小売業者との連携などにより、自転車が車両であるとの認識や保険加入の必要性など、自転車の安全利用に向けた普及啓発に努めてきた。

 今後は保険加入義務化の意義等を周知するため、個人の自転車利用者、法人の自転車利用者など対象ごとに、効果の高い普及啓発を行っていく考えだ。

 まず、個人向けには都のホームページから保険各社のページへのリンクを設定し、個人が保険情報に接するアクセスルートを拡充する。

 また、交通安全教室の講義内容に保険加入の必要性や保険料、補償の範囲について情報を盛り込み、加入促進に向け、意識向上を図るなどの普及啓発を行っていく。

 一方、法人に対しては、都が企業向けに実施している「自転車安全利用TOKYOセミナー」の講義に保険の必要性を啓発する内容を盛り込むなど、対象者ごとに効果を勘案した普及啓発を実施していくとしている。

まずは加入状況をチェック 保険料・賠償額は多種多様

 自転車損害賠償保険には、①「自転車保険」等の名称で販売している傷害保険とのセット商品②自動車保険(特約)③火災保険(特約)④傷害保険(特約)⑤クレジットカードなどの付帯保険⑥会社等の団体保険⑦PTAの保険など学校・大学で加入募集を受ける保険⑧交通安全協会の自転車会員として加入している保険(自転車事故による損害賠償のみを保障)がある。さらに自転車安全整備士が自転車の点検整備を行うことで車体に張られる「TSマーク」に付帯する保険(補償条件は限られる)もある。

 そのため、東京都は保険に入っているかどうかを判別できるチェックシートを作成し、二重加入の防止を呼びかけている。

 保険料は月額百円程度から年額5千円程度、賠償額は約1千万円から約3億円と多種多様な商品が揃っている。

東京都自転車損害賠償保険等加入促進リーフレット

出典:東京都自転車損害賠償保険等加入促進リーフレット

 なお、自転車損害賠償保険等の種類などの詳細は東京都交通安全課のホームページで確認できる。

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