テーマ「アスベスト(石綿)対策」

  • 取材:種藤 潤

 コロナ禍により生活様式が変化するなかで開催される東京オリパラ大会。

 東京のまちには新たな「危機管理」が求められている。本紙では、これまで「危機管理」に関するさまざまな課題や商品、サービスについて取材してきたが、ここで改めて、2020年以降に求められる「東京の危機管理」について考え、あるべき形を検証していきたいと思う。今号では、昨年末に「東京辰巳国際水泳場」の対応で注目を浴びた、「アスベスト(石綿)」について取り上げる。

「東京辰巳国際水泳場」

昨年末に報道でアスベストの存在が指摘された「東京辰巳国際水泳場」

 建物を建築施工、運営管理する業種であれば、建物の改築時等に必要となる「アスベスト(石綿)」対策は、重要な危機管理のひとつである。しかし、近年は地震、豪雨災害対応などが喫緊の課題として取り上げられがちで、注目される機会は比較的少ない。だが実は、アスベスト対策はこれからが本番といっても過言ではない。

 なぜなら、アスベスト対策に対する法的な規制が年々厳しさを増しているからである。

アスベストが使用された建材の一例。建物の断熱材として吹き付けた屋根裏や外壁、煙突の断熱材などに使用されてきた(提供:株式会社エコ・24)

時代とともに厳しさを増す「アスベスト」への規制

 「アスベスト」とは、高い抗張力と柔軟性を持つ綿糸状光沢の特異な繊維状集合(asbestiform)をなす天然鉱物を指し、耐熱性が高いことから、主に建材を中心に使用されてきた。日本国内では、高度成長期の1960年代から輸入アスベストが増加し、1970年代から1980年代にかけて多くの建築物に使用された。

 一方で、老朽化したアスベストを人が吸い込むことで、「石綿肺」「肺がん」「中皮腫」を発症する可能性が指摘され始めた。飛散したアスベストは髪の毛の5千分の1の極細の丈夫な繊維状になり、胸膜や肺胞に突き刺さることで、体内に影響を及ぼす。このため、国内でも1975年から段階的に使用の規制が始まり、2006年にはほぼすべての石綿が含まれる建材の使用が禁止になり、すでに使用されている建物に関しては、増改築や解体等の場合、封じ込め、飛散防止対策が法律で義務付けられることになった。

 そして近年は、さらに規制が強化され、2014年に施行された改正「大気汚染防止法」では、これまでは工事事業者だった解体時の届義務者が発注者となり、責任の所在が明確になった。また、同年施行された改正「石綿障害予防法」により、工事中の粉塵測定の確認と、損傷・劣化で粉塵飛散の可能性がある場合でも、飛散防止等の対策が必須となった。

 そして2020年6月「大気汚染防止法」の最新の改正案が参議院本会議で可決。比較的飛散リスクの低い場合も含めて、アスベストを使用するすべての建材が規制対象となった。さらに、調査にはアスベストの専門家が必須となった。

 これまでは調査や飛散防止の対策をしなくても問題なかった事例が、これからは必要になる可能性が大きいのだ。「知らなかった」「調査していない」では済まない状況になっているのである。

東京は今が対策のピーク
2050年まで年間1万棟解体

 法規制の強化に加え、2020年以降はアスベストを使用した建物の解体がピークを迎え、その解体時に発生する飛散対策等も求められることになる。

 日本全国で見ると、アスベストが使用されている建物は約280万棟あり、現存率を参考にして算出した解体ピークは2028年頃に訪れるとされている。だが都内は、2017年ごろからすでにピークを迎え、2050年ごろまで年間1万棟を超える建物が解体されると見込まれている(参考:「建築物の解体等にかかる石綿(アスベスト)飛散防止対策マニュアル(平成29年12月版)」)。東京は、今まさにアスベスト対策の真っ只中にいるのである。

 ちなみに、震災対策においても、アスベスト対策は同時に行われるべきだと考えられている。阪神大震災、東日本大震災の際、倒壊した建物から高濃度のアスベストが飛散しているというデータもある。危機管理の総合的な観点からも、アスベスト対策は必須といえよう。

「東京辰巳国際水泳場」で使用された「CAS工法」によるアスベスト封じ込め作業風景の一例(提供:株式会社エコ・24)

各地で行政の取締事例が発生
オリパラ会場でも可能性指摘

 全国的にアスベスト対策が求められる中で、その責務を怠ったことで、取り締まりを受ける事例も多く、その責任が行政にまで及ぶことも少なくない。

 2017年には、北海道の札幌市教育委員会が学校関連施設のアスベストを含む煙突用断熱材の点検を怠ったとして、職員8人を処分。2018年には岩手県の大槌町旧役場庁舎の解体工事を巡り、町が法律で義務付けられているアスベスト等の調査報告等の事前通知を行わず解体に着手したとして、厳重注意を受けた。

 都内では、ここまでの事態には発展しないものの、対応の必要性が指摘される事例も出始めている。特に直近で注目されたのが、東京オリパラ大会の水泳会場である「東京辰巳国際水泳場」の事例だ。2017年にアスベストが大屋根の橋脚部から発見されていたものの、翌年の観覧席の改修を行った際、飛散リスクが少なく、建築基準法による「大規模工事」に当たらないとして、封じ込めなどの対策を行っていなかった。

左は「CAS工法」作業前、右は作業後のアスベストの顕微鏡検査画像。作業前は極細の繊維状であり、作業後は包み込まれているのがわかる(提供:株式会社エコ・24)

都は先進技術を用いて迅速に無害化を実施

 この状況に対し、都はより安全な大会運営を目的として、アスベスト対策工事を実施することを決定し、すでに3月末に作業は完了した。

 そこで採用されたのが、鉱物学的な理論から作り上げた処理方法である「CAS工法」だった。これは、アスベストを除去するのではなく、特別な溶液を吹き付けることで、前出のアスベストの極細の繊維を包み込み、無害化させる先進技術である(本紙2017年8月20日号で紹介)。そして都は、今後定期的にアスベスト飛散のチェックを行っていくという。

 前出の札幌市や大槌町の事例からもわかるように、行政機関は建物の運営管理をするだけでなく、民間事業者の建築や運営管理をチェックする立場でもある。今回の都の事例のように、行政が積極的に安全性に配慮したアスベスト対策を行うことは、民間事業者の模範となるはずだ。アスベストのリスクが限りなくゼロに近い社会が1日も早く実現することを願う。

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