第76回 ぶどうの収穫をよろこぶヴェンデッミア

  • 記事:加藤 麗

種や皮の厚みがしっかりして、酸味や糖度の高いものが多いワイン用のぶどう品種を用いた焼き菓子

 地中海の暑い夏が過ぎ去ると、イタリアにはヴェンデッミアとよばれるワイン醸造用のぶどうの収穫時期が訪れます。地域やぶどうの品種、果実の熟度、はたまたワインの種類によって収穫時期は異なりますが、8月下旬から11月まで、生産者たちにとって忙しく、とても大切なシーズンは続きます。

 イタリアで暮らしていた頃、友達や職場の同僚など、いろいろな人との会話のなかで、子供の頃の思い出や、古き良き時代の話題になると、必ずと言っていいほど出てきたのが、このヴェンデッミアの話。もちろん、彼らの家が皆ワイナリーを所有していた訳ではありません。古くイタリアでは、多くの家庭やその親戚の誰かが、自家消費用のワイン用にぶどう畑を所有しており、そのヴェンデッミアが家族行事となっていたのだそう。

 大人から子供まで家族や親戚総出で、早朝からぶどうを収穫。お昼になると、木陰で準備してきた食事を皆で共にし、その年の収穫をよろこぶ賑やかな宴を楽しんだそうです。収穫したてのぶどうを、ティーノとよばれる醸造用の木製のおけに詰め、素足で踏んで圧搾するのは子供たちの役目。30〜40年経っても、ティーノの中でぶどうを踏み潰した感触やその温度感などは鮮明に覚えており、子供にとっても大人にとっても、年に一度の楽しみな行事だったと、皆が口を揃えて言います。

 このようなヴェンデッミアは、ほぼ皆無となってしまいましたが、イタリア各地では今でもこの時期になると、ワイン醸造用の品種のぶどうを使った伝統料理や菓子がつくられます。スキアッチャータとよばれるトスカーナ地方に伝わるフォカッチャをはじめ、ぶどうを用いた肉料理など、その多くはこの時期限定のものです。

 ぶどう畑に家族が集い収穫を祝う宴はなくなってしまったものの、ぶどうを用いた料理や菓子を食べることで、ヴェンデッミアの特別な時期をよろこぶ気持ちは、残り続けているようです。

加藤 麗 かとう・うらら

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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