自転車損害賠償保険等への加入義務化について

  • 編集責任者:津久井 美智江

座談会出席者の方々。
(前列右から)一般社団法人日本損害保険協会 南関東支部 事務局長 瀧口彰子氏、東京都 都民安全推進本部 治安対策担当部長 斎田ゆう子氏、東京都自転車商協同組合 理事長 小澤豊氏(後列右から)一般財団法人 東京都交通安全協会 安全対策部 安全対策課長 星野正之氏、公益財団法人 日本交通管理技術協会 常務理事 伊藤智氏、司会進行:東京都 都民安全推進本部 総合推進部 交通安全課長 串田治城氏
※撮影のためにマスクを外していただきました。

 自転車は高い利便性を有した乗り物であり、都民生活や事業活動に重要な役割を果たしている。その一方で、交通事故が多発しており、死亡事故や重篤な障害に対しては高額な損害賠償が命じられるケースも出ている。東京都が今年4月から実施している自転車損害賠償保険等への加入義務化について、関係各位に話し合っていただいた。

自転車損害賠償保険等の加入義務化に至った経緯

司会(串田 以下略)ー本日はお忙しい中、本座談会にご出席いただきありがとうございます。まず東京都都民安全推進本部治安対策担当の斎田部長から、最近の自転車を取り巻く状況についてご説明いただければと思います。

斎田 初めに都内の自転車事故の状況からご報告します。

 10月末現在、都内における自転車の交通事故死者は23人。これは全事故の死者の約20%を占めており、23人という数字自体は前年比同数にとどまっていますが、自転車が交通事故に関与する割合は約40%で、依然として高い水準となっています。

 自転車の事故については平成29年から増加傾向にあり、令和2年も新型コロナウイルス感染症の影響による外出自粛により、一時は事故が大幅に減りましたが、現在では昨年とほぼ同様です。

 コロナ禍においては、通勤通学、フードデリバリー、シェアサイクル等、自転車利用が大きく注目を浴びています。

 この中で自転車を利用した各種宅配サービスの増加に伴い、一部の配達員ではありますが、交通ルールを無視して交通事故の当事者となったり、交通上のトラブルを起こすことが社会問題化しています。

 東京都としては警視庁や区市町村等とともに、フードデリバリー事業者やシェアサイクル事業者に自転車安全利用を働きかけるなど、普及啓発等にいっそう力を入れています。

ー東京都において、本年4月1日に自転車損害賠償保険等への加入義務化が施行されました。自転車損害賠償保険等への加入義務化に至った経緯につきまして、東京都からお話をいただけますか。

斎田 10年以上にわたって減少していた都内の自転車関連事故件数が29、30年度で増加に転じたことを踏まえ、専門家による会議で議論したところ、自転車損害賠償保険等への加入義務化を実現し、よりいっそうの自転車の安全利用を推進していく必要があるという結論に至りました。

 自転車の利用者が加害者となる事故が発生した場合には、高額な賠償責任を負うこともあります。被害者、そして加害者も救済する事故への備えとして保険加入は極めて重要だということです。

東京都 都民安全推進本部 治安対策担当部長 斎田ゆう子氏

火災保険などの特約を確認することが大切

ーそれでは自転車損害賠償保険等への加入義務化を受けまして、各団体の取組み、その成果、実際現場で感じていらっしゃること、問題や課題等も含めて、おうかがいしたいと思います。

 まず保険がテーマですので、一般社団法人日本損害保険協会南関東支部の瀧口事務局長からお願いいたします。

瀧口 私どもは、損害保険会社28社から構成されている事業者団体です。我が国の損害保険業の健全な発展および信頼性の向上を図ることにより、安心かつ安全な社会の形成に寄与することを目的に、全国11の支部において損害保険の普及啓発、理解促進、防災防犯対策、交通安全対策などの活動を地域で展開しています。

 自転車損害賠償責任保険等への加入義務化を受けてということですが、それ以前からリスク啓発、交通安全対策の一環として講演会を開催し、自転車の事故そのものを減らす活動として、警察庁を通じて自転車のシミュレーターを寄贈しています。

 講演会は、高校生や一般消費者を対象に、「自転車を取り巻くリスクとその責任」というテーマで、自転車事故の特徴、交通ルールや交通マナー、自転車事故に備える保険などについてお話しています。

 また、それらをコンパクトにまとめたチラシも作成し、都民の皆さまに手に取っていただけるような場所で配布しています。現在の新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて、講演会に対応した動画も作成しており、ホームページを通じて閲覧、申し込みができます。

 自転車事故による損害賠償責任に備える保険は、火災保険、自動車保険などの特約として個人賠償責任保険をセットするのが一般的です。すでに特約がセットされていることも多いでしょうし、現在セットされていなくても契約期間の途中から追加することができます。ほかにも単独の自転車専用の保険もあります。特約という形はわかりにくいかもしれませんが、まずはこの特約がセットされているかを確認していただくのがいちばん大切ではないかと思っています。

一般社団法人日本損害保険協会 南関東支部 事務局長 瀧口彰子氏

TSマークは安全な自転車であることの証

ー次に公益財団法人日本交通管理技術協会の伊藤常務理事にお願いいたします。

伊藤 略称は「管技協」といいます。管技協の事業の一部として自転車安全整備事業を推進しています。

 自転車の事故防止を考える時、交通ルールを順守することも大事ですが、ブレーキやタイヤ、ライト、反射材がきちんと機能する自転車に乗っていただくことも大事だからです。

 この事業は1年に1度、自転車安全整備店で整備を受けた自転車にTSマークというシールを貼って、安全な自転車であることが一目でわかるようにするのが主な内容です。そして、このTSマークに自転車損害賠償保険等が付帯をしているという形をとっています。

 毎年8月に全国十数か所で自転車安全整備士の検定試験を行い、非常に厳しい試験を通った、高い自転車整備技術を持つ方が勤務している店を、自転車安全整備店として登録しています。全国に1万3000店、現在、東京都には1200店ほどあります。

公益財団法人 日本交通管理技術協会 常務理事 伊藤智氏

 きちんと整備された自転車であっても事故を起こすということはありえます。現在の赤色TSマークに付帯している保険の内容を説明しますと、死亡時等の限度額1億円の人身事故についての損害賠償保険、死亡時等百万円の傷害保険、長期入院中の10万円の見舞金です。これは自分も相手方もどちらも対象です。

 TSマークの付帯保険は、シールを貼って終わりと非常に簡単です。また、保険が自転車にかかるので、TSマークが貼られている自転車であれば、友人に貸したり、会社の従業員に使わせたりしても保険が下りる点が特徴です。

 交付枚数は、令和元年度は約236万枚で、一昨年と比べて17万枚ほど増加しました。今年度は、当初は新型コロナウイルス感染症の影響がありましたが、夏以降は増加傾向に転じています。特に東京都においては、条例の施行と関係があると思いますが、昨年4月〜10月の交付枚数は約9万5000枚でしたが、本年度10月末までは約12万枚となっており、30%程度増加しています。

自転車交通安全のための3つの普及啓発活動

ー次に東京都自転車商協同組合の小澤理事長にお願いいたします。

小澤 自転車の事故を考えた場合、大きな事故も年に何件かありますが、実際には骨折事故とか接触事故とか軽傷事故が多いので、TSマークだけで大丈夫ではないかという思いはありました。

 問題は、自転車店はお客さまとの直接のやりとりがいちばん多いのですが、保険の代理店でない自転車店の人間が、賠償責任保険について説明してはいけないということです。現実を考えると、やはりTSマークのような付帯保険になるのではないかと思います。

東京都自転車商協同組合 理事長 小澤豊氏

ー次に一般財団法人東京都交通安全協会の星野安全対策課長にお願いいたします。

星野 まず、TSマークの代理店として状況分析をお話させていただきます。自転車損害賠償保険等への加入が義務化された本年4月から10月末日までの取扱い件数を昨年と比較してみますと、赤色TSマークは約8万1800枚で昨年同期に比べ増加率は46%。同じく青色TSマークは約1万2700枚で増加率は34%でした。次に新規の取扱店ですが、義務化の影響でしょうか、例年は月に1、2件程度だったのが、本年は1月から3月に18店が加わり、5月以降も月2件ペースで増えています。以上のことからTSマーク取扱店の増加の要因は、自転車保険加入が義務化されたこと、コロナ禍にあって自転車利用者が増加していることと言えると分析しています。

 次に保険の代理店としての状況分析です。当協会では三井住友海上の自転車向け保険の代理店を行っていますが、この保険はネットとスマホで簡単に契約ができる、あるいは賠償保険金が最大3億円になる、示談交渉サービス付きであることを売りにしているのですが、先ほど紹介がありましたように、いろんな保険に自転車保険が付帯している関係もあり、残念ながら思ったほど伸びていないのが実態です。

 昨今の自転車事故とマナー違反の状況については、警視庁の統計データに基づいてお話いたします。昨年の都内における自転車の交通人身事故は1万3094件で、10年前(平成22年)と比べ4割ほど減少しています。しかしながら、交通事故全体に占める割合で比較してみますと、平成22年が約38・7%であったのに対し、令和元年は約43・0%で4%ほど高くなっています。

 自転車事故を事故類型別でみますと、自転車同士を含めた他の車両との事故が全体の82%で、その半数が出会い頭の事故、続いて右折、左折時の事故となっています。ここで注意していただきたいことは、自転車利用者にまったく違反がない、いわゆるもらい事故が約6千件で、事故全体の46%を占めていることです。

 自転車利用者がいくら交通ルールを守っていても必ずしも安全とは言えません。なによりも、自転車利用者自身が自分の目で安全を確認することが大切だと思います。

 最後に当協会の自転車交通安全の普及啓発活動を3つ紹介させていただきます。

一般財団法人 東京都交通安全協会 安全対策部 安全対策課長 星野正之氏

 1つ目は自転車安全教育を行う指導員の養成講習を年2回、春と秋に開催しています。今年の春はコロナ禍で中止しましたが、秋は開催し、37回を数えました。

 2つ目は自転車安全利用管理者講習で、この講習は、自転車を通勤、通学または商業活動等に利用している企業や学校の中から模範運転を行う企業・学校を選抜し、企業の安全推進担当者と高校の生活指導担当教諭を招致して開催しています。これらは、いずれも警視庁と共同で行っている活動です。

 3つ目は自転車交通安全キャンペーン、あるいは自転車実技教室の開催に伴う助成です。当協会では都内に102か所ある地域交通安全協会に対して、東京都が主催する自転車安全利用キャンペーンに合わせた広報啓発活動を行い、あるいは自転車実技教室等を開催している協会に対し、助成金という形で支援を行っています。

 簡単に活動内容の一部を紹介しましたが、都内の自転車事故は、全国平均に比べて10%以上高いという現実がありますので、この辺のところを広く広報啓発し、今進めている自転車安全利用五則の推進を周知徹底していく所存です。

自転車事故を減らすためにすべきこと

司会を務めていただいた東京都都民安全推進本部 総合推進部 交通安全課長 串田治城氏

ー東京都として、自転車保険等の加入状況についてはいかがですか。

斎田 都は昨年9月に自転車安全条例を改正して以来、広報東京都やリーフレットの紙媒体だけではなく、ホームページにおいても、条例改正内容や保険加入の必要性をわかりやすく説明するとともに、保険加入促進に関する啓発動画を作成するなど、改正内容を周知徹底してきました。

 都では自転車損害賠償保険等への加入が義務化される直前、都内在住の20歳以上の自転車利用者を対象に自転車利用中の対人賠償事故に備える保険等に関する加入状況調査を実施しました。結果としては自転車を利用する都民の46・6%が対人賠償事故に備える保険等に加入していることや、加入している保険の種類や世代による加入状況の差など、今後の加入促進につながる情報を把握することができました。

 今回の調査結果を踏まえまして、今後とも自転車保険の加入促進に取り組むとともに、定期的に加入状況を調査して、それまでの取組みの効果を検証し、さらなる加入の促進につなげていく所存です。

ー今回は保険についての座談会ですが、安全教育も重要ではないかと思っています。
東京都自転車商協同組合では、子供を対象にした交通安全教室を開いているそうですが、小澤理事長からご紹介いただけますでしょうか。

小澤 今年はコロナの影響でほとんどできませんでしたが、講習会や学校点検に合わせて交通安全教室を行っています。

 自転車事故を減らすには、自転車に乗り始めた子供に、親がちゃんと一時停止を教えないとだめだと私は思っています。車の事故もそうですが、事故の大半は一時停止無視です。一時停止を絶対子供に教える。親も守る。そうすれば自転車事故は半減すると思います。

 昔は自転車は弱者という考えでしたが、今は自転車は軽車両で車と同じという考えになっています。警察官が取り締るというより指導、徹底するのが現実的だと思います。

瀧口 自転車の事故件数は16歳から19歳が最も多いという統計があったと思いますが、ちょうど高校生ぐらいの年齢層になります。高校の学習指導要領改訂もあり自転車事故のリスクと保険での備えをよりいっそう認識してもらう必要があるのではないかと思っています。

 それに、成年年齢の引き下げということもありますから、高校生に対するリスク啓発の取組みには力を入れていきたいと思っています。

斎田 ありがとうございます。通常であれば入学してすぐ交通安全についての教育を受けるところ、今年はコロナの影響で休校になってしまったので、私どももたいへん心配して、学校で使えるように、ホームページに必要な動画等を載せたりもしていたのですが、やはりこれからを考えると、全世代を対象にした交通安全教育というのが非常に重要になってくると考えています。

 先ほど瀧口事務局長のお話にあった自転車シミュレーターや歩行者シミュレーター等を活用して、自分事として体感し、一生涯安全に自転車に乗るという意識を身に着けていただきたいと思います。

伊藤 斎田部長のお話に関連するのですが、安全意識というのは保険だけでなく、安全運転、自転車の安全性能、それぞれを気にしなければならないのですが、残念ながらいずれも十分なレベルまで至らないというところが問題です。

 東京都で行っている市町村の自転車点検整備事業に対する補助についてですが、安全教室と併せて行っている自治体が毎年増加していると聞いています。自治体はもちろんですが、都でも継続して助成していただけると安全意識の向上の一助になると感じています。

斎田 ありがとうございます。

ー手前みそで恐縮ですが、市町村補助については、昨年度は17自治体が利用しています。東京都としてもしっかり取り組んでいきたいと思っています。

小澤 安全点検に関して、もう一つお願いしたいのは、「自転車っていつまで乗れるんですか?」とよく聞かれるのですが、私は「いつまでもは乗れないんですよ」と答えています。自転車に乗るとふらふらするという高齢者がいますが、それは平衡感覚がなくなっているからハンドルが右左にぶれるんですね。車の卒業と同じで自転車も卒業時期がある。それをはっきり言ってあげたほうがいいと思います。どうしても出かけたいなら4輪のシニアカーのほうが安心ですと、私は勧めています。道路交通法上、歩行者と同じ扱いですからね。

伊藤 ご参考までですが、12月1日から改正道交法の一部が施行されて普通自転車、つまり歩道に乗れる自転車が、これまで3輪までだったのが、今度4輪の自転車も認めるとなりました。高齢者だけではないと思いますが、より倒れにくい自転車を認めようという話だと聞いています。

ー自転車、そして保険という切り口でいろいろお話をうかがい、たいへん参考になりました。
 皆さまに保険に入っていただくことが理想ですが、さらなる理想は、その保険が適用されない、つまり交通安全がしっかり守られて交通事故が起きないということだと理解しています。
 今日いただいたご意見は、普及啓発の一環にさせていただいて、さらに交通安全促進に皆さまにご協力いただいたうえで、しっかり取り組んでいきたいと考えています。本日はどうもありがとうございました。

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