他社に先駆け学校のICT化に注力
ウィズコロナを契機に企業、自治体にも
株式会社内田洋行

  • 取材:種藤 潤

 令和に入り、学校現場のICT化が加速している。国が『GIGAスクール構想』を掲げ、子どもたち「1人1台端末」を推進すべく、本格的に支援を始めたのだ。1980年代から教育の情報化に取り組んできた株式会社内田洋行は、この「追い風」に加え、ウィズコロナという社会変革も見据えながら、社会全体へのICTの浸透を目指す。

株式会社内田洋行の大久保昇代表取締役社長は、教員免許を持ち、生物の知識も豊富。お気に入りのペンギンとともに

全国400の学校で未来の教室導入 『GIGAスクール構想』が追い風に

 2020年、世界中で感染拡大した新型コロナウイルスの影響により、学校の現場でもリモート学習を余儀なくされ、ICT(Information and Co mmunication Technology=通信技術を用いた人同士、人とものがつながる技術)を活用した授業体制の構築が急務となっている。株式会社内田洋行は、いち早くその事業に着手してきた企業のひとつだ。

 同社の東京、大阪各本社の一角には、未来の学習空間「フューチャークラスルーム」があリ、アクティブラーニング(能動的に学べる学習方法)や新学習指導要領への対応など、ICT環境を実践するために同社が独自に開発した、さまざまなシステムが体感できる。東京本社で実際に体験してきた。

 そこは3方向の壁一面がモニターになっており、そこに文字をダイレクトに書き込んだり、動画を音声操作することができ、その様子が即時に生徒用のタブレット端末に反映されていた。また、大阪の同ルームとリモート通信を体験したのだが、文字やドリルを共有して行っている大阪の様子が等身大で映し出され、まるで同じ教室にいるような臨場感だった。空間を越えたリアルタイム性と双方向性が、当たり前にできる環境。今まで知っていたリモートワークの世界より、格段に進んでいた。

 「フューチャークラスルーム」は2010年時に完成。11年を経た現在、その技術は大学を含め全国400校以上で導入されているという。

  だが、あくまでそれらはICT教育に積極的な一部の自治体であり、世界に比べ、日本の学校のICT化は大幅に遅れているのが現状だ。国もその状況に危機感を覚え、令和に入り本腰を入れ始めた。それが『GIGAスクール構想』で、「校内通信ネットワークの整備」と「国公私立の小中特支等の児童生徒1人1台端末の整備」として、令和元年度の補正予算2000億円規模を計上。緊急経済対策とコロナ補正等を加えると、事業総額6000億円を超える予算となった。学校を運営する自治体、内田洋行を含む教育ICT関連企業等が連携し、全国での100%導入を目指していくという。



東京本社にある「フューチャークラスルーム」。音声制御で実寸のサメが泳ぎ回る(提供:内田洋行)

フレキシブル&ハイブリッドに いち早く学校の情報化事業に参入

 現在、教育現場の環境整備と情報化が主軸事業となっている内田洋行にとって、『GIGAスクール構想』は大きな「追い風」となっているが、それは創業から111年の歴史の中で培ってきた「教育」「情報」事業の積み重ねがあったからこそだと、同社を率いる大久保昇社長は語る。

 同社は1925年、先端的な計算器として技術者必携のヘンミ式計算尺で教育事業に本格参入し、学校現場の科学教育の普及に努めた。1963年には、初の純国産超小型電子計算機「USAC」を開発販売し、情報産業にも進出。PC黎明期でインターネットなどなかった1980年代、「教育」「情報」双方のノウハウを生かし、業界に先駆けて学校の教育情報化を推進し、それが今日の事業の土台となっている。大久保社長は、その現場の中核にい続けた。

 「私が担当しはじめた頃は、教育事業は社内の主要事業ではありませんでした。しかし1980年代からの情報通信技術拡大の流れに乗り、それまでの縁を生かし、教育現場の情報化という新たな分野を開拓してきました。世の中のニーズに合わせて、培ってきたノウハウを組み合わせて提案する。『フレキシブル&ハイブリッド』な姿勢は、当時も今も変わりません」

 その後、2004年からはネットワークによる教材コンテンツ配信事業「EduMall(エデュモール)」をスタート。2021年2月現在、約420自治体、7200校に導入されている。2008年には、児童1人1台PCを活用する学習効果の検証をスタート。2014年には東京都荒川区の全小中学校に日本初の1万台規模のタブレット導入を支援。『GIGAスクール構想』につながるICT化に積極的な自治体との連携を率先して行ってきた。

 1998年には「内田洋行教育総合研究所」を設立、総務省「フューチャースクール推進事業(2010年)」、文部科学省「学びのイノベーション事業(2013年)」「全国学力・学習状況調査英語『話すこと』調査(2019年)」などICTを生かすために多くの受託研究も行った。ちなみに大久保社長は、その初代所長である。

教育ICT基盤をフルクラウド化した鴻巣市(提供:鴻巣市教育委員会)

使う側に立った双方向の支援 社会全体をICT化した「カレッジ」に

 大久保社長は、教育現場でのICT化において、ハード面の充実だけでなく、使う側の立場に立ったサポートも不可欠だと話す。

 「児童や生徒の使いやすさはもちろんですが、実は先生たちへの配慮がそれ以上に重要です。弊社はソフトウエアの開発も行っていますので、学校現場のニーズをふまえ、学ぶ側にも、教える側にも使いやすいシステムを作り上げてきました。また、ICT指導員を派遣し、ICT機器使用の人的フォローも行っています」

 例えば埼玉県鴻巣市では、全国の教育委員会初となる学術情報ネットワークSINETとクラウド基盤(Microsoft Azure)を直接接続し、教職員がいつでも校務支援等を利用できるよう実装。授業等でのICT支援は5年間受けられる。

 同社では、教育環境にとどまらず、さらに広い視野で世の中の情報化を捉えている。すでに民間企業や自治体など、働く場でのICT化も事業化しているが、あらゆる場で「フューチャークラスルーム」の環境が整うことが大久保社長のひとつの理想だ。

 「私自身、コロナウイルスの影響で、リモートで会議や講演を行っていますが、当たり前のように『フューチャークラスルーム』の場を活用しています。ある世界的なIT企業は自社内を『カレッジ』と呼び、働く場と学ぶ場の概念の垣根をなくしています。まさに『フレキシブル&ハイブリッド』な考え方が日本でも広まれば、ウィズコロナ時代の新たな学び方、働き方がもっと見えてくるのではないでしょうか」

 特別ではなく、自然なこととして語る大久保社長。話を聞いていると、そんな未来がすぐにでも実現するような気がする。

企業、自治体でも同社ICTシステムは稼働。省庁のオフィス環境・働き方改革の支援も行う。写真は総務省行政管理局(2015年/提供:内田洋行)

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