ステップアップ方式と広大な施設
グループ一丸で自立生活を支援
株式会社東京空色(そら)

  • 取材:種藤 潤

「デイサービス」「グループホーム」という言葉を聞くと、介護施設を連想する人も多いかもしれないが、知的・精神障害を持つ人のための施設も、利用者はもちろん、家族や関係者にとって重要な役割を担う。今号で紹介する株式会社東京空色は、茨城県つくば市に3施設を運営するが、その利用者の9割が都内に暮らす人の家族や関係者が占め、東京にとっても欠かせない存在となりつつある。

株式会社東京空色の山川宏代表取締役自身の家族にも障害者がいる

創業6年目で3施設を運営 都内利用者が9割を占める

 株式会社東京空色は、2015年創業と、知的・精神障害を持つ利用者を対象とした福祉施設運営者としては後発といえるが、創業から6年目にして、短期入居施設(ショートステイ)の「松風園」「梅風園」、短期入居施設とグループホームを併設した「空色(そら)の庭」の3施設を運営している。

 現在、障害者区分2~6を対象に、グループ全体で約100名を受け入れており、年齢は18歳~72歳、男女比は7対3。特徴は、茨城県つくば市にありながら、利用者の9割が都内に暮らす人の家族や関係者で占められている点だ。

 「全国的に福祉施設は不足していますが、特に都内は顕著なようで、現在も受け入れ相談は少なくありません。つくばの施設ですが、そうした東京都の利用者様の要望に応えることも、我々の使命だと考えています」

 同グループを創業し、今も経営の傍ら現場でも活動している山川宏代表取締役は語る。

特徴ある5つのサービスを提供 目標は日本一支援の厚い施設

 昨今の知的・精神障害者を取り巻く環境は厳しく、複雑だ。前出の施設不足に加え、近年問題になっている「うつ」による潜在的障害者の増加、通称「8050問題」と呼ばれる障害者家族の高齢化、家族のいない障害者のケア……そうした状況の課題を解決し、より安心で楽しい生活が送れるよう、同グループでは特徴ある5つのサービス提供を基本に、施設運営を行っている。

 (1)地域生活移行プログラム:社会復帰への段階を細かく刻み、ショートステイからグループホーム、そして地域社会へ、着実にステップアップできる環境を用意。

 (2)目標を持った生活訓練プログラム:(1)に取り組むために、利用者一人ひとりの目標を立て、継続的なカウンセリングを行いながら支援。

 (3)多様な就労支援サービス:学園都市つくばには、畑や田んぼといった農業就労のほか、屋外軽作業など、就労支援を提携できる施設が充実、利用者の状態に合わせた就労先を提供。

 (4)福祉強化型施設の医療看護体制:入居者の健康管理、突発的な事態に対処するための医療看護体制を整えている。

 (5)大規模施設ならではの生活環境:広々としたリビングや居室、明るく開放的な浴室を完備。広大な敷地を生かした活動、イベント行事なども企画し、心の安定につながる環境を整備。

 「3施設の建物は、短期入所としてはどれも県内最大規模です。また、つくば市行政とも連携し、地元就労事業所の協力体制を強化する一方で、今注目されているSDGsの3つのゴールを目指し、『つくばSDGsパートナーズ』にも参加しています。つくばという地域の特性を生かした、日本でいちばん支援の厚い施設を実現したいと真剣に考えています」(山川社長)

写真はランドリー事業など軽作業を行う事業所「風」。他に耕作放棄地を活用した事業所など、つくばの地を生かしたユニークかつ多様な就労施設を用意

全ては利用者の幸せのために 信じ、励まし、褒め、時に厳しく

 取材は「空色の庭」で行ったが、玄関で対応し、山川社長のいるミーティングルームまで案内してくれた男性は、(1)の移行プログラムを経て、施設スタッフができるまでステップアップしたという。他にも、グループホームで生活しながら、地域のファミリーレストランで働き始めている利用者もいるという。

 「彼らは、3施設の利用者様の中では、ステップアップを体現したモデル的存在です。その存在を目標に、他の利用者様も日々の生活習慣改善や就労活動に励む。ステップに応じて施設を変えているのも、目標を明確にするためです」

 もちろん、誰もがすぐにステップアップできるわけではない。特に同グループは重度障害者を積極的に受け入れており、不安定な時は周囲に危害を及ぼす可能性もある。施設運営開発当初は、山川社長も含め、利用者に翻弄され続けたという。

 「最初の頃は、利用者様を落ち着かせるために、言われるがままに安易に欲しい食事などを与えていたこともありました。でもそれでは、健康面でもよくないですし、ましてや自立生活を目指す上では、節制することを身につけてもらう必要もあります。長期的な観点と自立生活に向けて、時には叱咤しながら、しかし基本は相手を信じ、励まし、褒めながら、粘り強く支援を行いました。すると、徐々に変化が起き始め、きちんと生活できる利用者様が増えていきました」

「松風園」→「梅風園」→「空色の庭」と施設ごとにステップアップし、それに見合ったサポートを行いながら、社会復帰を目指す仕組みになっている

従業員も楽しめる職場を目指し 将来は街づくり構想も

 山川社長は、利用者の幸せとともに、従業員の幸せも考え、次なる戦略を考えているそうだ。

 「現場で働いている従業員は、日々利用者のために支援を行い、誰よりも彼らの幸せを願っています。その想いと日々の頑張りに報いるためにも、働く人も楽しく幸せになれる環境を、経営者として整えたいと思っています」

 まず、年内にグループホームをもう一つ設立する。現在、「自分を整える=松風園」→「生活を整える=梅風園」→「自立生活を始める=空色の庭」という3ステップだが、その先の「地域生活を始める」前のステップを用意し、段階的に地域に溶け込みやすい環境を強化する。そしてその4施設体制を基に、「東京空色」グループ全体で障害者が活き活きと生活できる街づくりにつなげたいと考えているという。農業支援施設では農業体験や農産物販売を行い、軽作業施設で制作したものを販売するなど、つくばを中心とした一般の方々に利用してもらうことで、施設利用者、従業員、みんなが楽しめる場所にしたいと、山川社長は語る。

 「地元を中心とした一般の方々に門戸を開くことで、我々の活動への理解が深まり、何より利用者様が自然に社会復帰できる状況が作り出せると思います。福祉施設としては異例の挑戦ですが、我々ならできると確信しています」

 従来の障害者福祉の枠組みでは収まらない支援の形。来年には新卒採用も行い、本気で取り組む準備を進める。都民としても、その動向は注目せずにはいられないだろう。

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