都市農地貸借法を活用し
農協が農地を借り入れ体験農園を開設
世田谷目黒農業協同組合

  • 取材:山下 里美

2018年9月、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」(以下、都市農地貸借法)が施行された。都市農地貸借法は、生産緑地の所有者が生産緑地を他人や企業に貸しやすくなる法律。世田谷目黒農業協同組合(以下、JA世田谷目黒)は、同法を活用し、入園者が土づくりから種まきや苗植え、収穫までの一連の農作業が体験できる体験農園を開設している。

都市農地貸借法により、生産緑地の貸借が進んでいる(玉堤体験農園)

都市農地を保全するために 生産緑地の貸借における課題を解消

 都市農業は、住民に地元産の新鮮な野菜などを供給するだけでなく、防災機能、良好な景観の形成など多様な機能を有している。都市農業を継続し、これらの機能が十分に発揮されるためには、都市農地の有効活用が必要だ。しかし、農業従事者の減少や高齢化が進み、農地所有者自らによる農地の有効活用が困難なことに加え、土地の価格が高く農地を購入して農業を行うことも困難であるため、貸借によって有効活用が図られることが重要になってくる。そこで都市農地貸借法が制定され、生産緑地の貸借が安心して行われる新たな仕組みがスタートした。

 この制度を利用すると、農地法の規定は適用されず、契約期間経過後に農地が返ってくるので、所有者は安心して農地を貸せるようになった。また、これまでは生産緑地を自ら耕作をしたまま相続した場合に受けられていた相続税の納税猶予が、他の人に貸した場合には打ち切られ、すぐに相続税等を払わなければならなかったが、相続税の納税猶予を受けたままで他の人に貸すことができるようになった。

 「いったん貸したら、なかなか返ってこないのではないかという所有者の不安、また生産緑地を貸した際に発生する莫大な相続税等の支払いという課題が解消されました。組合員の長期入院などの場合や、高齢で農作業が難しくなった場合など、今後この都市農地貸借法を活用する場面が増えるのではないでしょうか」と、JA世田谷目黒の代表理事理事長の上保貴彦さんは話す。

JA世田谷目黒代表理事理事長の上保貴彦さん

借りた生産緑地で体験農園を開設 全国でもJA世田谷目黒だけ

 JA世田谷目黒が都市農地借地法を活用して行っている取組みは、JA自らが生産緑地を借入れ、借りた生産緑地で体験農園を開設するというもの。同法を活用して体験農園を開設しているのは、全国でもJA世田谷目黒だけだという。区内に3カ所の生産緑地を借りており、そのうち2カ所は、企業との業務提携により、JA世田谷目黒のサポートのもと企業が従業員向けや顧客サービスとして提供している農園で、残り1カ所が近隣住民向けの体験農園だ。

 「農地を貸す相手がJAなので、安心して貸すことができると言ってくださるのはうれしいですね。体験農園を開設している農地は、所有者から高齢などが理由で営農が難しくなってきたと相談を受けたものです。短期の場合は、JAが営農支援として農地の保全管理を行うことができますが、年単位などの長期間になると、JAの営農支援では難しく、結果的には農地を手放すという選択しかありませんでした。しかし、生産緑地の貸借がしやすくなったおかげで、農地を農地として残すことができるようになったんです」

※生産緑地とは、都市計画法によって「生産緑地地区」として指定された市街化区域内の農地。指定されると固定資産税・相続税などが優遇される。

鈴木尚広さん。農園にはなくてはならない存在

鈴木尚広さん。農園にはなくてはならない存在

玉堤体験農園は1区画10㎡。利用期間は4月~翌1月、入園料金11万円。3年まで更新できる

玉堤体験農園は1区画10㎡。利用期間は4月~翌1月、入園料金11万円。3年まで更新できる

手ぶらで来て気軽に農業体験 アスリート部長が手伝ってくれる

 借りた畑で自由に野菜作りを行う市民農園とは異なり、JA世田谷目黒が行っている体験農園では、JAが借りた農地をJAが園主という立場で区画割。利用者はJAが決めた作付計画に基づき、JA指導のもと農作業を行う。農園設備から土づくり、種や苗、肥料などの準備まですべてJAが行うので、利用者は手ぶらで気軽に訪れて収穫などを楽しむことができる。

 「近所でのアウトドアで、こんなに最高のレジャーはないですよ!」と上保さん。倉庫には農作業に必要な道具がすべて揃っており、まさに至れり尽せり。

 そして、JA職員に交じって利用者の作業を手伝うのが、アスリート部長こと元プロ野球選手、読売ジャイアンツで活躍した鈴木尚広(たかひろ)さん。最初は、世田谷に畑があると知って驚いたそうだ。

 「知り合いがいたJA世田谷目黒からの依頼で、昨年からお手伝いしています。プロスポーツ選手として、健康や食事には人一倍興味をもっていました。食生活を改善すると、けがをしにくい身体づくりにつながるなど、食生活の大切さは実感しています。今後は農業から学んだ野菜の知識などを、食育に活かしていきたいです」と話す。

 取材当日の体験農園での講習内容は、種まきと苗植え、そして防虫や遮光などの目的で使われる寒冷紗掛け。うまく寒冷紗を掛けられない利用者を見つけると、素早く駆け寄っていった鈴木さん。寒冷紗をテキパキと掛け始めた。その手際のよいこと。日頃から、しっかりと農業について学んでいるのがよくわかった。

 「世田谷の農地も本当に少なくなりました。これ以上減らしたくないですから、営農の継続についての相談があれば、JAが借入れて体験農園として活用していくのも農地保全の一つの手段だと考えています。都市農地を守るためにも、区民の皆さんには農業を知るきっかけとして、ぜひ体験農園を利用していただきたいです」

と上保さん。JA世田谷目黒では、今後もこのような体験農園を増やしていきたいという。

水野ひとみさん「自分で育てた野菜を食べられて幸せ!」

水野ひとみさん「自分で育てた野菜を食べられて幸せ!」

相楽進さん、英美さん夫婦「夏は野菜の育つ速度に、食べるのが追い付かなかった(笑)」

相楽進さん、英美さん夫婦「夏は野菜の育つ速度に、食べるのが追い付かなかった(笑)」

木村麻奈美さん、氏家春奈さん、吉田洋子さんは幼稚園のママ友「野菜好きな子になってほしいな!」

木村麻奈美さん、氏家春奈さん、吉田洋子さんは幼稚園のママ友「野菜好きな子になってほしいな!」

情報をお寄せください

NEWS TOKYOでは、あなたの街のイベントや情報を募集しております。お気軽に編集部宛リリースをお送りください。皆様からの情報をお待ちしております。