「誰も取り残さない」教育ICT化と
労働人口減少時代に求められるスマート社会を
株式会社内田洋行

  • 取材:種藤 潤

学校現場の「ICT化」元年とも言える2021年。令和に入り国が進めてきた『GIGAスクール構想』による「子ども1人1台端末整備」が本格稼働し、その一役を担った株式会社内田洋行は、2期連続となる過去最高益を達成した。また、同年にはデジタル庁が創設され、さらなるICT化需要の高まりが予測されるが、同社は2025年に起こる社会課題を冷静に見据え、「人」と「データ」の時代に即した事業体制の再構築を進める。

1年前同様、株式会社内田洋行の大久保昇代表取締役社長が自ら2021年を振り返り、2022年以降の展望を語った

「フューチャークラスルーム」は1年間でさらに進化

 株式会社内田洋行の教育ICT事業のシンボルとも言える東京、大阪各本社の一角に設置されている「フューチャークラスルーム」。アクティブラーニング(能動的に学べる学習方法)や新学習指導要領への対応など、ICT環境を実践的に検証するために同社が独自に開発した、さまざまな学習システムが体感できる未来の学習空間だ。

 1年前にその空間を取材したが、本稿のために再度体験してみると、さらなる進歩に驚かされた。

 3方向の壁一面がモニター状態になり、そこに文字をダイレクトに書き込んだり、動画を音声操作したり、それが生徒用のタブレット端末に即時に反映されたり、大阪のルームと等身大でリモート通信できたり……と、空間を越えたリアルタイム性と双方向性は健在なのだが、通信機器をつなぐアナログコードやカメラ、マイクなどが見当たらない。コードは完全無線化され、カメラやマイクは壁やタブレットに埋め込まれており、映像も音声もむしろクリアであった。さらに、QRを通して遠隔地にいる生徒が回答した内容が即時にグラフ化されたり、タブレットを通して生徒の表情がアプリで読み取られアラートが出たり……教育ICT化の進化に終わりがないことを、改めて実感した。

「フューチャークラスルーム」では、大久保社長自らプレゼン。1年を経た技術進化に編集部一同驚きを隠せなかった

『GIGAスクール構想』による端末133万台以上の導入を実現

 技術革新の手を緩めない同社だが、2021年は全国の学校現場でのICT化の裾野を広げたことが、結果として主力事業につながった。それは、昨年掲載した記事でも触れた『GIGAスクール構想』が、大きく影響している。

 『GIGAスクール構想』とは、文部科学省が令和に入り推進してきた、全国の公立小中学校の児童生徒1人に対し1台の端末(タブレット)を整備するというものだ。令和元年に補正予算、さらに緊急経済対策とコロナ補正等が加えられ、総額6000億円に達することは前回の記事でも触れたが、昨年はそれが本格的に施行され、年間800万台のタブレットが学校現場で導入された。その事業を担った一社である内田洋行は、133万台以上のタブレット導入を支援。さらに現場ですぐ使用できるようにキッティング(IT機器の各種設定、ソフトのインストールなど)にも対応し、2期連続過去最高益達成に貢献した。

 大久保昇代表取締役社長は、この1年を次のように振り返った。

 「正直、一年前に想定した以上の受注量で、最高益を出せたことは大変嬉しいことですが、何より大きなトラブルもなく無事に納品できたことにホッとしています。133万台という大量のタブレットを、実質4ヶ月ほどで導入から設定まで終えられたのは、現場の技術と経験があってこそだと思います」

 そうした社会全体の追い風を感じつつも、大久保社長は冷静に、今後の同社の教育ICT事業について語る。

「『GIGAスクール構想』整備の一方で、文科省は『学びの保障オンライン学習システム(MEXCBT)』の開発を進め、そのなかで弊社の学習eポータル『L-Gate』の基本機能が活用されてきました。昨年11月には『MEXCBT』機能拡張版の提供が開始されましたが、現在は約250団体、200万アカウントを超えるお申込みをいただいています。弊社も『L-Gate』製品版でさまざまな学習系データを収集しながら、将来的には他社システムともスムーズに連携できるデジタル教育環境の整備を目指します。一方で、教育現場では教室自体のITインフラが課題で、環境格差をなくしていきたいと思います。また、現場でのIT人材育成も急務であり、特にITが苦手とされるベテラン教師が技術を克服できる研修方法などを模索します。目指すのは、誰も取り残されない教育のICT化です」

「L-Gate」とMEXCBTを接続し、授業での活用や、全国学力・学習状況調査のデジタル化、教育データの利活用を進める。写真は鴻巣中央小学校(提供:鴻巣市教育委員会)

生産人口1000万人減を見据え 誰も取り残されないICTを

 教育現場にとどまらず、2022年以降はあらゆる場面でICT化と、DX(デジタルトランスフォーメーション=テクノロジーの進化による生活環境の変革)が進んでいくと、大久保社長は予測する。

 「2021年に創設されたデジタル庁の存在が大きな後押しになるでしょう。同庁には非常に優秀な若手人材が集まり、省庁の枠を超えた自由な発想を持っています。彼らが主導で教育、自治体、民間のDXを後押しすれば、普及のスピードはさらにアップすると私は見ています」

 視野に入れているのは、2025年に起こる1000万人規模の生産年齢人口の減少だ。2021年に発表した同社の「第16次中期経営計画」では、「人」と「データ」の時代に対応した事業再編を掲げる。

 「労働人口が減少するなかで、デジタル化による産業の効率化は必須であり、今後は本格的に官民あげてのDX時代に突入します。そしてその時代に対応できるデジタル社会の担い手の育成を見据えた『人』と『データ』への投資が一層必要になるでしょう。

 そうした社会的ニーズに対応するために、弊社ではこれまでの【環境構築】【ICT】という事業と、【民間】【公共】という市場別の4つのマトリクス別構造を俯瞰的に見直し、2025年とともに、コロナ後の景気回復も念頭において新たな需要に対応できるリソースの再編に着手しています」

 少し先を見越した取り組みといえるが、教育ICT事業も、同社は1980年代から取り組んできたことだ。その答えがいつ、どのように出てくるか、今後の動向に期待したい。

 最後に、教育ICTに続く可能性を持つ事業があるかと尋ねると、大久保社長は迷わず答えた。

 「弊社では、国産木材を用いた環境整備に長年注力してきました。近年、SDGsや生物多様性というキーワードも認知されてきましたので、今後面白い形で事業展開していけるのではないかと、私はひそかに期待しています」

国産木材を使用したモデルルームも東京本社内にはある。大久保社長はその中心産地である宮崎県の「みやざき林業大学校」名誉校長も務める

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