新宿を愛する人たちの総合力が、新宿のまちの魅力をつくる。

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

新宿区長 吉住 健一さん

新宿区というと歌舞伎町をはじめとする歓楽街、あるいは高層ビル街というイメージがあるが、実は区の9割は住宅が多い地域だ。そして意外にも新宿御苑や新宿中央公園など緑も多い。住む人、働く人、訪れる人のバランスを取りながら区政を運営している新宿区長、吉住健一さんにお話をうかがった。

新宿は人が暮らすまちとイメージを変えていきたい。

—昨年11月の区長選挙で3選を果たされました。取り組むべき課題は?

吉住 まずはコロナ禍からの地域活動の再起動と経済の活性化です。新型コロナへの対応は、マスク着脱の判断が個人の判断に任されるなど、新たな段階へと移行しつつあります。

 新宿区では、感染拡大に最大限の注意を払いつつ、地域の社会経済活動の正常化や地域コミュニティ活動の再起動、「ふれあいフェスタ」をはじめとするイベントの再開に向けて取り組んでいるところです。

 また、コロナ禍において影響を受けた地域経済活動の活性化を図るため「中小企業経営力強化支援事業」を創設するとともに、プレミアム付商品券事業を拡充し、商店街等の活性化を推進しています。

 今までは、感染予防や営業を持続するための延命措置のような、どちらかというと守りの態勢の支援が中心でしたが、これから先は攻めの姿勢でチャレンジしていこうと考えています。

—原油価格・原材料価格の高騰、ウクライナ情勢の長期化など、社会経済情勢の不透明な状況が続いています。

吉住 物価高騰対策による区民生活・事業者の支援にも力を入れていきます。

 例えば、生活支援臨時給付金、ひとり親世帯支援特別給付金による区民生活の支援のほか、学用品の物価高騰分として、所得制限なしで小学生と中学生に一人当たり2万円ずつ支給しました。

 今回は新たに、家計への負担の軽減を図るために、入学の準備金という形でお祝い金として、小学校入学時に5万円、中学校入学時に10万円を支給する事業に取り組んでいます。

—新宿というと繁華街、オフィス街というイメージですが、実は神楽坂や市谷など閑静な住宅街もあります。区政を運営する上で難しい点は?

吉住 区内に住んでいる人は34万人。駅の周辺や繁華街周辺ですと住民はまばらですが、基本的には区の9割は住宅が多い地域です。

 しかし、働きに来る人や遊びに来る人がいないと、新宿の経済は回っていきません。住民サービスと、事業所があることによって発生する様々なメリット、デメリットを、バランスを取りながら回していくことが大切だと思っています。

—新宿御苑とか明治神宮外苑とか、緑も意外と多いですよね。

吉住 区内のまとまった緑地帯—新宿中央公園周辺、戸山公園周辺、落合斜面緑地、早稲田大学周辺、外濠周辺、明治神宮外苑周辺、新宿御苑周辺—を「七つの都市の森」と呼んでいますが、住む人、働く人、訪れる人などの安らぎの空間になっていると思います。

 また、区内に小学校が29校ありますが、先生の方針によって屋上で野菜を育て、それを子どもたちに販売をさせて、そのお金で学校の備品を買うという体験をさせている学校もあったりします。工夫一つで様々な体験ができるんだと思います。

 私は新宿区大久保で生まれて育ったので、新宿は人が暮らすまちだと感じてもらえるようにイメージを変えていきたいという思いが根底にあるんですよ。

新宿西口高層ビル群

新宿西口高層ビル群

「七つの都市の森」の一つ新宿中央公園の芝生広場

「七つの都市の森」の一つ新宿中央公園の芝生広場

東急歌舞伎町タワーの開業により、歌舞伎町界隈は変わる。

—4月14日に東急歌舞伎町タワーが開業します。歌舞伎町のイメージがだいぶ変わるのではないでしょうか。

吉住 今まではそれぞれの建物が、外側に向けてお店が並んでいる状態ではなく、建物内にいるお客さましか相手にできないまちづくりになっていました。まちが内側に向いていると、外で起きていることに無関心になりがちです。

 よくトー横キッズと言われますが、今はキッズばかりではなく、家庭での居場所を失った方とか、何かしら社会に不満を持った方たちが集まってお酒を飲んだりたばこを吸ったりルールを守らずにずっと滞在しているのですが、人の流れがあり、人の目があるとそこに居づらくなります。

 東急歌舞伎町タワー、それから既に建っている新宿東宝ビル、いずれも外に向けてお店を出していますので、歌舞伎町界隈はかなり変わっていくのではないかと思います。

—区の基本構想の一つに「『新宿力』で創造する、やすらぎとにぎわいのまち」とありますが、「新宿力」とはどういうことでしょうか。

吉住 例えば、コロナ禍初期の頃、新宿の感染拡大がひどいと言われていました。その時、自分たちの町をどうやって守るか、自分たちの仕事をどうやって守るかということで、繁華街のいろんな業種の方と勉強会をやったんですが、いろんな知恵が出てきて、皆さん当事者意識を持って実際に行動してくれました。

 また、死亡者が多発したデルタ株の頃は、医療・介護・福祉ネットワークの皆さんが会議を通じて区民の命を救うために何ができるか真剣に考え、そこで出てきたプラン、アイデアをいくつも実現して、死亡者をなるべく出さずに乗り切りました。

 在住者だけでなく、新宿に働きに来ている人たちが、大きな課題に直面しても、結束力とチームワークを持ってそれを乗り越えるために力を発揮する。新宿を愛する人たちの総合力、新宿の中の人的資源が「新宿力」と解釈しています。

—新宿は人と人とのつながりが薄いというイメージがあったので、意外でした。

吉住 地方から引っ越してくる人も多いのですが、新宿がこんなに下町だと思っていなかったと皆さんおっしゃいますね。

 この5年くらい10代から30代の人たちに集まってもらい、新宿の課題について話し合う若者会議をやっているのですが、地域の町会や自治会に関心はあってもアクセスの仕方がわからないという声が多くありました。そこで、東京都の助成金でタブレットを買って各町会に何台かずつ持ってもらい、地域の情報を発信するアプリを導入しました。コロナの次の時代のコミュニティ活性化につながるといいと思っています。

 また、区内にはタワーマンションが非常に多いので、今後はそういうマンションに入居される方に、地域との接点を持つ努力をしてもらうことを条例化できないかと考えています。条例で何か義務を課すということではなく、まちと接点を持つ窓口をつくっておき、そこから入ってなじんでいったら個人的に町会に加入するとか、無理せずに自然な形でコミュニティをつくっていけるような、未来の自治会ができていったらいいなと思い、その種まきを始めたところです。

3選後、初登庁した時の様子

3選後、初登庁した時の様子

子どもたちにプライドを持ってもらえる まちの特徴をつくっていきたい。

—日本大学法学部の雄弁会にいらしたそうですね。その頃から政治家を目指していらしたのですか。

吉住 よく聞かれるのですが、そんなに志のある人間ではなくて(笑)。

 実は、高校生の時から与謝野馨という政治家に興味を持っていたんです。消費税が導入されたのが中学生の頃だったのですが、同じ自民党の人でも、見直しますとか凍結しますとか言っていた中、与謝野馨は、消費税は将来絶対に必要になる税金だと主張されていて、漠然とこういう人っていいなと思ったんですね。

 私はもともと歴史を調べたり、本を読むことが好きだったので、趣味の延長で史学科を目指していたんです。が、残念ながら史学科を落ちてしまい、法学部に受かった。歴史の研究家になることができないなら、せめてそういう人のもとで働きたいと、伝手を探すために雄弁会に入ったんです。

—そこで政治家になろうという意識が芽生えた?

吉住 また期待を裏切るんですが(笑)。

 与謝野馨の秘書になって、地元担当秘書として後援会をサポートする仕事をしている時、担当地域の区議会のベテランの先生が勇退されることになった。後継者探しもお手伝いしていたんですが、残念ながらどなたにも手を上げていただけず、どんどん締切りが迫ってくる中、「吉住くんを出したら手っ取り早いんじゃないか」と。

 当時、与謝野馨は落選中だったのですが、私たち秘書を一人も解雇しなかったんですね。議員報酬もないわけですから大変です。ここにいるのも迷惑だという思いもあり、お引き受けすることにしました。

 区議会の時も都議会の時もそうですが、候補者としてお引き受けする以上は、これだけは自分が手がけなければならないというテーマを持つことをミッションとして課していました。

 それが多国籍地域に秩序を取り戻すことです。いわゆる多文化共生に反対ということではなく、多文化共生にもルールが必要だということです。新大久保や百人町などは多国籍の人が集まるエリアです。異なる文化を受け入れるからには、そこで発生するひずみや軋轢を取り除くために、エリアにあったルールが必要で、ルールを守ることで初めて多文化共生が成り立つと思っているんです。

 今は8割以上のお店が自分の店から発生したごみは自分の店で集めていますし、ごみ拾いにも積極的に参加してくれています。むしろ夜飲みに来ている人たちが夜中に騒いたりする観光公害のほうが問題になっていますので、その対策を模索しているところです。

—住んでいる人たちに対して思っていることは?

吉住 住んでいる人って意外と地元の特徴や良さを知らないんですね。例えば、夏目漱石の記念館がありますが、新宿にこういう偉人がいたとか、地場産業である染物は、加賀、京都、江戸の三大産地の一角を占めているとか。

 愛郷心と言いますか、こんなに都市化された、いろんなものが混ぜこぜの不思議なまちだけど、こんな特徴があって、これは他のまちに誇れる、そういうプライドを子どもたちに持ってもらえる特徴づくりをしていきたいと思っています。

—最後に、区長が個人的にいちばん好きな新宿はどんなところですか。

吉住 飲み屋が多いところですね。ほぼ毎晩徘徊しています(笑)。

—どの辺りを?

吉住 エリアを変えて(笑)。思い出横丁に行くこともあれば、ゴールデン街で飲むこともあります。歌舞伎町、落合、大久保、高田馬場、早稲田、神楽坂、四ツ谷……なるべくまんべんなく飲みに行くようにしています(笑)。

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