100年に1度の大開発は次のフェーズに
働く、遊ぶ、暮らすが進化・深化した渋谷へ
東急株式会社

  • 取材:種藤 潤

東急株式会社は1922年の創業以来、自らの拠点でもある渋谷エリアのまちづくりを行ってきた中核的存在だ。2000年代に入ると「100年に1度」の大規模開発に着手し、約20年を経て渋谷はさらなる変容を遂げた。そして2024年の現在は、開発が新たなフェーズに突入。「働く」「遊ぶ」「暮らす」が融合し、「デジタル」「サステナブル」な要素も取り入れた今後の展開を、中心的な役割を担う二人に聞いた。

東急株式会社・渋谷開発事業部・開発計画グループ・まちづくり戦略担当の篠田なつき課長(左)と、同グループ総括担当の青戸孝之課長(右)

東横線地下化に伴う開発が契機 渋谷らしい快適・安全なまちづくり

 東急株式会社が「100年に1度のまちづくり」を行う契機となったのは、2000年に国土交通省の答申に盛り込まれた、東京メトロ副都心線と東横線の相互直通運転だった。2線を繋ぐための東横線渋谷駅から代官山駅の地下化が決定。それに伴い、駅施設と路線の跡地に広大なスペースが生まれ、未利用地と2つの駅周辺および構内の大規模開発の動きが加速した。

 渋谷区はその開発の方向性を「渋谷駅中心地区まちづくり指針2010」として策定。「世界に開かれた生活文化の発信拠点“渋谷”のリーディングコア」を目指し、公民のパートナーシップによる開発が進められることになった。

 東急株式会社は、その指針を踏まえ、渋谷の強みを活かしながら、課題を克服するまちづくりの方向性を検討。東急不動産株式会社と協力し、打ち出したのが、「100年に1度の大開発」として掲げたまちづくり戦略『Greater SHIBUYA 1.0』だ。東急株式会社・渋谷開発事業部・開発計画グループ・まちづくり戦略担当の篠田なつき課長はいう。

 「2000年までのまちづくりの結果、渋谷は多様なカルチャーが集う、日本を代表するエンタテインメントシティの地位を確立してきました。ですが、駅設備や周辺ビルの老朽化や、複数路線が入り混じることでの構内の複雑化、路線や道路による人的動線の分断、滞留空間の不足、自然災害への対応など、課題も浮き彫りになっていました。そこで、渋谷駅周辺の課題解決にもつながる新たな複合施設開発を進め、エンタテインメント性を深めるとともに、青山、表参道、原宿、松濤、池尻、代官山、中目黒、恵比寿、広尾などを広域な渋谷(Greater SHIBUYA)と定義し、エリア全体で利便性、快適性、安全性を向上させていくことに取り組みはじめました」

「100年に1度の渋谷のまちづくり」を掲げてスタートした「Greater SHIBUYA 1.0」が「2.0」へと進化・深化するイメージ(文中図はすべて東急提供)

コロナ、持続可能性 新たな課題に配慮した都市型ライフを

 『Greater SHIBUYA 1.0』のわかりやすい事例といえば、2012年開業の「渋谷ヒカリエ」を皮切りにはじまった、「渋谷キャスト」「渋谷ストリーム」「渋谷ブリッジ」「渋谷ソラスタ」「渋谷フクラス」「渋谷スクランブルスクエア」などの街づくり拠点の開発だ。

 「遊ぶ」「働く」といったソフト面を充実させる一方で、水面下では課題解決につながるハード面の改善にも着手。鉄道施設の改良により、乗り換え動線を改善し、移動空間「アーバン・コア」や「歩行者デッキ」を設置することで、分断した東西南北の回遊性も向上させた。また、渋谷駅東口地下に複数路線からの動線を結ぶ広場を開設。カフェやパウダールーム、公衆トイレなどを設けて利便性を向上させるとともに、雨水貯留施設を設置し豪雨対策も行った。さらに、前出の各複合施設内には、大規模災害時の帰宅困難者受け入れエリアを設けている。

 約20年にも及ぶ大型開発を振り返り、一定の手応えを感じつつも、新たな課題が出てきたと、同グループ総括担当の青戸孝之課長は語る。

 「この開発により一定の課題解決は進み、結果、渋谷駅全体の乗降率は10%上昇しました。また、オフィススペースを増やすとともに、多様な人材が交流できる施設『SHIBUYA QWS』などの環境づくりを行うことで、働くまちとしての機能も向上しました。

 しかし、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大や、SDGsに象徴される持続可能性への配慮など、当初にはない社会環境の変化により、その対応も求められるようになりました」

 これまでの開発の方向性を活かしつつ、社会環境も踏まえた新たなフェーズの開発。そこで同グループが打ち出したのが、『Greater SHIBUYA 2.0』だという。

 「1.0でこれまで注力して進めてきた『働く』『遊ぶ』に、より『暮らす』の要素を融合させ、その基盤となる『デジタル』『サステナブル』な要素も取り入れ、時間、場所を選ばずに、充実した『働く』『遊ぶ』『暮らす』が実現できる、その人らしい選択が可能な『渋谷型都市ライフ』を提唱していきます」(青戸課長)

渋谷駅周辺開発の全体図。「渋谷ヒカリエ」に隣接する物件が、今年上期開業予定の「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」だ

渋谷と青山を「アクシュ」する 人々が集い、楽しむ交流空間へ

 「働く」では、スタートアップ支援や交流・共創を一層後押しするとともに、多様な働き方にも応じたオフィス・サービスを提供。「暮らす」では、商業・文化施設の再整備やホテル、医療等のサービスの充実に加え、モビリティの充実、次世代教育の育成にも注力する。「遊ぶ」では、渋谷カルチャーの発信を強化しつつ、クリエイター支援も強化。エリア各地でのイベント運営もサポートしていく。

 それらを繋ぐ「デジタル」要素は、大容量通信インフラの整備、リアルとオンラインを融合させたライブイベントの企画、都市景観と一体となったデジタルサイネージの設置などを実施していく。「サステナブル」要素では、脱炭素化の推進はもちろん、災害時のエネルギー確保の強化、障害などを持つ人にも優しいウォーカブルな環境整備を進める。

 そうした『2.0』の直近の事例としては、今年前半に竣工予定の商業・オフィス複合施設「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」がある。「渋谷ヒカリエ」の東側に隣接するこのエリアは、渋谷駅東口と青山エリアをつなぐ機能を持ちながら、幹線道路による動線の分断や、高低差による移動のしにくさなどの課題があった。そこにこの「渋谷アクシュ」が誕生することで、両エリアを行き来しやすくするだけでなく、休憩したり、食事を楽しんだりできるようになるという。

 「この建物は、エネルギー収支ゼロを目指す『ZEB Oriented』認証を取得。オフィス部は建築物省エネルギー性能評価制度(BELS)の『ZEB Ready』認証も取得しています。また、1、2階のアトリウムや3階のオフィスエントランスにはインテリアグリーンを配置し、緑豊かな空間を演出。青山側の広場には、パブリックアート作品を展示できるようにし、文化発信も行っていきたいと思います」(篠田課長)

 「渋谷アクシュ」はもちろん、これまでの開発は、渋谷エリアの事業者、生活者の声を聞き、ニーズを最大限活かすことにも注力してきたという。

 「我々は長年かけて蓄積してきた行政や他の鉄道事業者、施設運営者との深い繋がりがあり、そうした皆さんの意向を調整しながら、一連の開発を進めてきました。一方で、我々は複合施設を手掛けてきたことで、渋谷を利用する生活者のみなさんの声も反映させてきました。これほどの大規模開発は、我々の力だけではできません。渋谷に関わるあらゆる方の力を借りながら、渋谷にしかない新しい都市型ライフを提案していきます」(青戸課長)

「渋谷アクシュ」のパブリックアートも展示する予定の青山側広場のイメージ

情報をお寄せください

NEWS TOKYOでは、あなたの街のイベントや情報を募集しております。お気軽に編集部宛リリースをお送りください。皆様からの情報をお待ちしております。