衣料・産業資材用途の原材料・製品の開発・製造・販売

帝人フロンティア株式会社

  • 取材:種藤 潤

多様な場で活躍する「エアロシェルター®」。曲面を生かしたスポーティな外観と、カラフルなカラーが選べるのも特徴だ(提供:帝人フロンティア株式会社)

 日本にある世界トップクラスの技術・技能−。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。
 ここ数年、野外イベントを中心に、よく見かけるトンネル状の大型ドームテント。それが帝人フロンティア株式会社が製造販売する「エアロシェルター®」だ。超軽量で設置が簡単、その上コンパクトに収納可能なテント。その開発の裏側には、あるアウトドアスポーツの存在があった。

 ある時は、スポーツイベントのパブリックスペースとして。ある時は、大型客船の寄港イベント会場の受付として。ある時は、野外で行われる結婚式場のチャペルとして。さまざまな種類の屋外イベントで目にする機会が増えている大型仮設テント「エアロシェルター®」だが、近年は、防災用のテントとしても注目を浴びている。

 新潟中越地震の際は、ショッピングセンターの駐車場に設置し、避難場所として使用された。以降、熊本地震の現場でも活躍したように、自治体を中心にニーズは高まっている。

 サイズは8.4×6.57×3.9(m)のミニミニサイズから、19×10.95×5(m)のレギュラーサイズまであり、目的により使い分けが可能。連結もできるため、広さの調節もしやすい。注目すべきは、収納サイズがコンパクトなこと。レギュラーサイズの収納時は約110×110×90(cm)まで縮小でき、重さも約85kg、宅配便でも運ぶことができる。さらに設置や撤収が簡単なことも大きな特徴だ。送風機で空気を送るので力を要することもなく、慣れれば約30分で設置が可能だという。

パラグライダーを応用し独自の大型テントが完成

 使用する素材は、同社が独自に開発した「テイジン®テトロン®パワーリップ®」だ。高強力ポリエステル糸を用い、ダブルリップ(二重ステッチ)構造により織り上げ、染色仕上げ加工および特殊ウレタン樹脂の薄膜コーティングを施したポリエステル繊維で、薄く、軽く、強度があり、さらに難燃加工も施しているため、燃えにくく、防水性もある。ちなみにリサイクルも可能だという。

 その繊維を「二重膜構造」というトンネル状のドーム型に形成することで、柱がなくても比較的大型の空間を確保できる機能性と、空気を入れるだけで設置ができる簡便性を実現した。もちろん、風洞実験(空気抵抗などの実験)などを重ね、一定の耐風性も確保している。

 こうした技術開発の裏側には、過去に手がけていたパラグライダーの技術の存在があった。

 「以前、子会社にアウトドアギアメーカーがあったのですが、そこに造船所の雨よけ用ドックに使えるテントができないかとという相談がありました。それにパラグライダーの技術を応用してみたら、非常に使い勝手が良かった。それで、造船だけでなくイベントなどの雨よけにも使えないかと開発を進め、『エアロシェルター®』が生まれました」(繊維資材第一部 東京キャンバス資材課の井上誓吾さん)

立ち上げから今に至るまで「エアロシェルター®」を担当する、同社繊維資材第一部 東京キャンバス資材課の井上誓吾さん

新幹線デッキ広告が幅広いニーズを開拓

 まずは菓子メーカーのイベント用に販売したところ、手ごたえがあった。次に、カーディーラーの年6回のファミリーレース時の常設テントとしても好評を博した。

 「機能性はもちろん、従来の屋外テントの設営の手間やコスト、レンタル料などと比較して、コスト面でもメリットを感じてもらえたと思います」(井上さん)

 ただ、どんな場面で使用してもらえるかは、手探りだった。そこで、さまざまな業種の人が目を留めるスペースとして、新幹線の車両デッキに着目し、商品広告を出稿した。すると、教育、音楽、飲食などさまざまな業種から問い合わせが来た。

 「ウェディングのテントも、その時の問い合わせがきっかけで開発し、製品化しました。防災用は、海外難民支援の方からの問い合わせで、災害に強いテントを作ったところ、偶然新潟中越地震が起こり、災害テントとして活躍したことがはじまりでした。その後、東日本大震災の被災地である宮城を中心にご購入いただくことが多くなり、原子力防災対策用のテントを作れないかと相談を受けたことで、専用テントができました。他にもクルーズ寄港時や、橋梁作業など、ほとんどのテントがお客様のニーズから誕生しました」(井上さん)

軽量かつコンパクト、即時に設置収納できる機能性により、防災用テントとしても使われている(提供:帝人フロンティア株式会社)

大事なのはお客様の発想と商品を作る職人の存在

 井上さんは、「エアロシェルター®」の応用の幅は無限大にあると考えている。そのためにはこれまで以上に、お客様の声に耳を傾けていきたいという。

 「私たちの仕事は、お客様の要望や発想に『できません』と答えないこと。『やれない』ではなく、『どうやるか』を考えるところから、新たな可能性が生まれます」

 一方で、「エアロシェルター®」の高い機能性を維持するために、繊維工場の職人たちも同じぐらい大事にしているという。

 「どんなにニーズが増えても、それを形にできる職人の存在がなくては『エアロシェルター®』は成り立ちません。パラグライダーをつくっていた時代から続く技術力を、これからも大切にしていきたいと思います」

橋梁工事の雨よけにも使用され、全天候型の現場を可能に(提供:帝人フロンティア株式会社)

 今後はさらに強風でも耐えられる商品開発を進めたいそうだ。機能が高まることで、ますます活用の場が広がりそうな「エアロシェルター®」だが、実は東京の都市部では、広い敷地が少ないためか、自治体の需要が少ないという。しかし、スポーツを中心とした野外イベントが増えている東京である。このテントが活躍する場はまだまだありそうだ。今後さらに都市部でこのテントを見ることを願う。

    

情報をお寄せください

NEWS TOKYOでは、あなたの街のイベントや情報を募集しております。お気軽に編集部宛リリースをお送りください。皆様からの情報をお待ちしております。