各種レーザー装置の開発

株式会社金門光波

  • 取材:種藤 潤

 日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。

 日本にある世界トップクラスの技術・技能−。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。  新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、日本国内でもかつてないほど「除菌」に対する意識が高まっている。本紙ではこれまでも「除菌」に関する商品を取り上げてきたが、今号では「オゾン」の特性を生かした機器にスポットを当てる。

オゾン発生器

約50年に及ぶ世界的ロングセラー商品「He-Cd(ヘリウム・カドミウム)レーザー装置」(提供:すべて金門光波)

 「レーザー装置」という言葉を聞くことはあっても、日常生活では目にする機会は少ない。しかし、実は生活の中で使用されている身近な機器を間接的に支える存在で、さまざまな形で活用されている。

 12年前に本シリーズの第一回目で紹介した、株式会社金門光波が開発した「He-Cd(ヘリウム・カドミウム)レーザー装置」もそのひとつだ。装置には325nm(ナノメートル=10億分の1メートル)と442nmの波長を発振する2つのタイプがあり、その波長の特徴を生かし、産業機器として大型レーザープリンタや3Dプリンタ、CDマスタリング(原盤作成)装置、半導体装置の光源など、多様な場面で採用されてきた。

 その後、2014年にノーベル物理学賞を受賞した日本人研究者3名による「青色発光ダイオード(LED)」の開発過程で使用され、「He-Cdレーザー装置」は一躍脚光を浴びることとなった。

 具体的には、「フォトルミネセンス=物質が光子(レーザー)を吸収し、再び蛍光を放射すること」による青色LEDの結晶の検査において、「He-Cdレーザー装置」の325nmの波長が適していることがわかり、採用されることになったのだ。そして現在も、世界で唯一の青色LED結晶検査に使用されるレーザー装置として、世界中で活躍している。

数少ないガスレーザー装置を開発 青色LEDの結晶の検査にも活用

  レーザー装置と一言で言っても出力や波長、仕組みは多種多様だ。代表的なタイプとしては、半導体素子からレーザー光を放出する「半導体レーザー」と固体の結晶からレーザー光を放出する「固体レーザー」があるが、「He-Cdレーザー装置」は、真空管に封入したガスによりレーザー光を放出する仕組みを持つ「ガスレーザー」に該当する。

 レーザーの特徴は、主に出力・波長などで決まり、出力は「W」で表され、波長は「nm」で表される。「He-Cdレーザー装置」は、前出のとおり波長が325nmと442nmと2タイプあり、それぞれの特徴により活用される技術や製品が異なる。ただ、前者は業界内でも特に希少な存在で、前出の青色LEDへの活用にとどまらず、国内外トップのシェアを誇っている。

諦めない姿勢を貫き高品質、安定、長寿命を実現

 「He-Cdレーザー装置」の開発に着手したのは、1960年代。同社の前身である金門製作所が持っていた、ランプの放電管技術を応用したレーザー装置の研究を開始したのが始まりだ。国内では珍しかった「He-Cdレーザー装置」にターゲットを絞ることにし、約4年をかけて完成、製品化を進めた。実は当時、大手も開発を進めており、一部は製品化されたが、安定的なレーザー放射技術の確立が難しく、多くは撤退していったそうだ。その結果、「諦めずに続けていたら、残ったのが弊社だけだった」(現在開発部に所属する佐藤毅さん)という。

株式会社金門光波開発部の佐藤毅さん

株式会社金門光波開発部の佐藤毅さん

 こだわったのは、高品質、安定性、長寿命。そのため、同社では外部委託はせず、ほぼ自社で装置の製造開発を行い、ついに平均寿命は業界一、モデルにより異なるが平均4500-8000時間以上を達成した。その後も品質に満足することなく、約50年間、良い製品づくりを目指し、研究を重ねてきた。

さらに省エネ、小型化を実現 次世代レーザー装置として期待

 同社は「He-Cdレーザー装置」以外にも、前出の「固体レーザー」タイプの装置も開発してきたが、近年は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から開発委託された「UVファイバーレーザー」に注力している。

UVファイバーレーザー装置

「He-Cdレーザー装置」の進化系として期待される「UVファイバーレーザー装置」

 「ファイバーレーザー」とは、「固体レーザー」の一種で、光ファイバーを発光源としてレーザーを作り出す装置で、同社の「UVファイバーレーザー」は、318nmの波長のレーザー光を作り出すことができるという。これは、「He-Cdレーザー装置」の波長325nmに近い数値であり、同装置に代わる次世代の主力製品として期待されている。

 「この波長は最新の3Dプリンタとも相性が良く、これからのフォトルミネセンス用の光源として活用することも期待できます。さらに、従来の装置よりも小型で、かつ省エネ効果が高く、ランニングコストを下げることもでき、さらには長寿命も実現しています。これからの時代のレーザー装置として、大きな可能性を秘めていると思います」(佐藤さん)

 2019年には特許を申請。私たちの身近な生活を支える機器はもちろん、青色LEDのような、世の中を劇的に変える技術や開発の裏側で、今後は「UVファイバーレーザー」が使用されていく可能性は十分にあるだろう。

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