海上保安庁 海洋情報部 技術・国際課 火山調査官 
新村拓郎(しんむら たくろう)

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
 2022年1月、トンガ近郊の海底火山が噴火し、日本の太平洋沿岸を中心に津波警報が発令されたことは記憶に新しい。日本近海の海底火山でも同様のことが起こる可能性があり、事実、ここ10年内で2回の大規模噴火があったのだ。こうした火山の動向を常時調査している海上保安庁海洋情報部の担当官に、話を聞いた。

海上保安庁 海洋情報部 技術・国際課 火山調査官 

2013年、2021年に小笠原諸島で噴火が発生

  2022年1月15日12時半。突如日本列島の太平洋側全域に津波警報や津波注意報が発令された。その原因は、日本列島から約8000㎞離れた、トンガ領内の海底火山の噴火であった。噴煙が16㎞にも及ぶ大噴火であり、噴火後に火山島はほぼ消失してしまったという。

 この影響で、日本では太平洋沿岸を中心に広範囲で津波警報が発令され、緊張が走った。結果、いくつかの箇所で小規模な津波が確認された程度で済んだが、これが日本近海の海底火山の噴火であれば、状況は大きく変わった可能性がある。

 実際、小笠原諸島において、2013年11月に「西之島」で、2021年8月には「福徳岡ノ場」で海底火山噴火が発生、後者はトンガに迫る高さ16㎞を超す噴火が発生、35年ぶりとなる「新島」を誕生させた。そしてその噴火により大量の軽石が発生し、沖縄や南西諸島沿岸部で、船舶の航行に悪影響を及ぼした。

福徳岡ノ場の噴火は高さ16㎞にも及んだ(提供:海上保安庁海洋情報部)

36海底火山や火山島の動向を定期的に調査

  幸い「西之島」「福徳岡ノ場」どちらも人命等に影響するような被害はなかったが、日本の海底火山の中には浅瀬にあるものもあり、漁場であることが多いという。そこで突如噴火すれば、漁船等が被害に遭う可能性は十分に考えられる。

 そのような事態を未然に防ぎ、安全な海を維持するため、海上保安庁では日本近海の36の海底火山や火山島を定期的に調査している。担当するのは、沿岸調査課内にある「海洋防災調査室」と、今回取材した技術・国際課に所属する火山調査官である。

 新村拓郎調査官は、2つの噴火について次のように振り返る。

 「現地調査は、各管区の航空基地などと連携して行っているため、西之島、福徳岡ノ場どちらも、噴火直後は現地の担当がすぐに駆けつけましたが、我々も準備を整え、すぐに現地に向いました。ただ、特に福徳岡ノ場は噴火が激しく、遠方からしか調査することができませんでした。それだけ危険と隣り合わせの調査なのです。安全を確保しつつ調査するのが大前提ですが……調査官としては、少しでも近くに行きたいという思いも持っています」

噴火後、35年ぶりに新島が誕生。一方で「軽石」も大規模に発生した(提供:海上保安庁海洋情報部)

前身から続く伝統ある調査 安全な渡航と生活を支える

  「海洋防災調査室」は、2013年に本稿で取材した際(第71号vol65)に創設された部署で、(1)対象火山近辺の写真撮影(2)目視観測(3)赤外線カメラでの温度計測(4)測量船による海域火山の調査、という4つの業務内容は当時と基本的には変わらない。

  平時の業務は、気象庁やJAXAなどと連携し、衛星経由の海域火山の情報を常時確認しながら、定期的に36箇所の現地観測や撮影を行う。そして、そのデータを収集保存し、行政や『火山噴火予知連絡会』などの関係団体に報告する。また、その情報は「海域火山データベース」にて一般公開している。

  「正直にいって、近年の2つの噴火前は目立った動きはありませんでした。それでも地道な調査を続け、『変色水』などの微妙な変化を確認し、噴火の兆候かどうかを分析してきました。幸い、西之島、福徳岡ノ場は無人島でしたが、36の海底火山や火山島の中には三宅島や伊豆大島など有人島もありますから、噴火リスクを少しでも減らす使命が、我々にはあります」

  同庁が海底火山調査を定期的に始めたのは、1974年とされているが、実は前身の「水路部」時代から行っていたといわれている。極めて伝統ある調査活動なのだ。

  「我々の使命である航海の安全や住民の安全確保を第一に、日々業務を行っていますが、調査自体は非常に地味な作業の連続です。しかし、地球や海洋の自然活動に直に向き合い、その動向を感じられる希少な仕事でもあります。実際、噴火直後の現場に行くことができたのはほんのひと握りの人間で、極めて貴重な体験でした。そうした自然動向にロマンを感じられる方には、これ以上ない仕事の一つだと思います」

  そのロマンを実感するかのように、満足そうな表情で、新村調査官は語った。

西之島は噴火直後(上)から2021年(下)まで溶岩の流出により拡大(提供:海上保安庁海洋情報部)

海上保安庁 海洋情報部 技術・国際課 火山調査官

新村拓郎 しんむら たくろう
1965年東京都生まれ。火山、地球、海洋に関わる仕事を志し、1987年海上保安庁入庁。海洋情報部に配置され、他の業務にも携わりながら、火山調査業務に合計5年間携わってきた。2017年主任海洋防災調査官を経て、2021年より現職。

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