バナナペーパーとの出会いが人生を変えた。

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

株式会社ワンプラネット・カフェ 代表取締役 エクベリ 聡子さん

野生の動物が見たいとアフリカのザンビアへ。そこで人々の貧困を目の当たりにし、自分にできることをしたいと思った。女性支援のパソコン教室を立ち上げたものの、後続の参入により挫折。再起を図るきっかけとなったのがバナナペーパーだった。バナナの茎の繊維で作る紙の生産と販売を手掛ける株式会社ワンプラネット・カフェのエクベリ聡子さんにお話をうかがった。

野生動物を見たいとザンビアへ。現場を見て、女性の教育支援を始める。

—サステナビリティをコンセプトにしてさまざまな活動をされていますが、サステナビリティという分野に携わるきっかけは何だったのですか。

エクベリ もともと私は、環境に特化したコンサルティングとしては日本で初めての会社である株式会社イースクエアで15年くらい仕事をしていたんですね。そこは2週間くらい夏休みが取れるので、毎年いろんなところに行っていました。

 2006年にたまたまアフリカのザンビアに行きまして、それがご縁で今に至るのですが、本当はカメルーンに行きたかったんですよね。アフリカで野生動物が見たかったのと、熱帯雨林も見たいと思っていて、カメルーンは熱帯雨林がありますでしょう。ところが、出かける直前に、雨季にかかっていて国立公園が閉まっていることが分かった。

 それで、雨季ではない、アフリカの自然を楽しめるところを調べたらザンビアだったんです。その際、ザンビアは環境配慮型のいろんな取り組みをしていることを知り、そこも引っかかりました。

 例えば、サウスルアングア国立公園というのがありまして、ここは世界初のサステナブルな国立公園に選ばれたところなんですね。基準は何かというと、動物の種類や数はもちろんなんですが、村の人たち、地元の人たちと一緒に野生動物ができる限り野生のままで生息できる環境の保護活動をちゃんとやっているということ。それから、国立公園では、塀など人工的なもので境界を作っていることが多いんですが、サウスルアングア国立公園は一切ない。大きな川だけが境界になっていて、そういう意味でもすばらしい国立公園というふうに言われます。

—実際に行ってみていかがでしたか。

エクベリ 本当にザンビアは野生動物の世界がすばらしいところでした。でも、一方で貧困も非常に深刻で、貧困のために密猟に手を染めてしまったり、違法な森林伐採に手を出してしまっている人がいるということを知りました。話を聞くと、皆さん、意外と普通なんですよね。お金、お金ということではなく、子どもを学校にやるためとか、悪いことをしているという感じではないんです。

—電気やガスがないから木を切らないといけないとか、生活のためなんですね。

エクベリ そうです。それまで仕事ではそういう話をいろいろしてきて、問題としては知っていたつもりだったんですね。

 でも、実際に現場を見て、こういうところで解決策が見いだせないと、私たちが言っていることは現実味のないものになってしまうと思い、何か自分たちでできるところをやってみようと思ったのが、今の仕事を始めるきっかけです。

—どんなことから始めたのですか。

エクベリ 最初は女性を中心とした教育支援です。一般の家庭には電気は通っていませんので、電気がつながっている場所を借りて、パソコン教室を開きました。生まれて数週間くらいの赤ちゃんをおぶってきてくれたり、受けた人が職を得ることにもつながりましたので、成果は上げたのかなとは思いますね。

ザンビアは野生動物の世界がすばらしいところ PHOTO: One Planet Cafe

ザンビアは野生動物の世界がすばらしいところ PHOTO: One Planet Cafe

現地の子どもたちと  PHOTO: One Planet Cafe

現地の子どもたちと  PHOTO: One Planet Cafe

日本の和紙の技術を使って、廃棄されるバナナの茎で紙を作る。

—その頃はまだ会社に勤めていたのですよね。

エクベリ はい。会社の自由度ももちろんあったのですが、社風としてもぜひやりなさいと、会長をはじめ皆さんが言ってくださったので、自由にさせていただきました(笑)。

 実はけっこううまくいったんですよ、そのパソコン教室が。ただ、そういうニーズがあるということを知ると、チャリティーの団体が入ってきて始めるんですよね。そこは海外の大きな寄付が入っている教会だったんですが、立派なパソコンが用意されて、全部無料。

 私たちは始めた時から、地元の先生のお給料ぐらいは、受講してくれる方々の授業料とかで払ってもらおうと決めていましたので、有料だったんですね。そんなに高くはなかったんですが、やっぱり無料があるとそちらに人が流れてしまいますからね。誰も来てくれなくなったんです。でも、無料でやってもらえるということは、村の人たちにとってはすごくいいことなので、そこはいいと。

 ただ、現地の雇用機会が足りないという課題はまだ残っていましたので、直接に雇用を生み出すようなことが何かできないか、現地では使われていないけれど価値があって、しかもそれが現地の環境に害を及ぼさないようなものはないだろうかと、いろいろ調べていたところに出会ったのが、バナナペーパーだったんです。2010年のことです。

 バナナは一般的な紙に使われている木と違って、1年で成長します。しかも実をつけるのは1本の仮茎に1度だけで、古い茎は切って捨てられてしまうんですね。バナナはあるし、しかもオーガニック。日本の和紙の技術を使って、廃棄されるバナナの茎で紙を作ることができる!

 エコ名刺を広げていらっしゃる北海道の丸吉日新堂印刷の社長が、ぜひ一緒に開発しましょうと応援してくださったこともあり、スタートしました。

—最初はご苦労がおありだったでしょう。

エクベリ はい。まずは繊維の取り方から全く分からないんですよ。一応、本なども出てるんですが、肝心のいちばん知りたいことが書かれていない。とにかく水分を出せばいいということくらいしか分からなくて、そこからは試行錯誤。それこそ踏んだり、たたいたり、農家さんと一緒にやりましたよ。今は機械を入れましたので、だいぶ楽になりました。

—クラウドファンディングで工場を建てる資金を集めたとか。

エクベリ クラウドファンディング自体あまり知られてなかったので、300万円集まるかなという感じだったんですが、おかげさまで370万円くらい集まり、その後、ある財団から100万円の支援をいただいて、目処が経ちました。それでかなりの足がかりができたという感じですね。

—渡航費とか滞在費は自腹ですか。

エクベリ 自分たちのお金でやりましたね。現地ではよく、2年プロジェクトと言われるんですね。すてきな思いで支援を始めても、続かなくて2年くらいで撤退するということです。私たちも「2年プロジェクトね」とよく言われましたよ。現地の方に少し信頼してもらっているなと感じ始めたのは、4年、5年経った頃からですね。

PHOTO: One Planet Cafe

オーガニックなバナナは食料になり、紙にもなる  PHOTO: One Planet Cafe

日本の伝統技術、物づくりの知恵は、今、世界で求められている。

—昨今のSDGsブームについてはどうお考えですか。

エクベリ 1972年にスウェーデンのストックホルムで初めて環境に関する国際会議が開かれて、今年で50年なんです。この間に積み重ねてきた議論がSDGsに集約されているので、2015年に新しく始まったものではないということですね。

 サステナビリティとは、環境、社会、経済の3つの柱のバランスをとって発展していくことと定義はついていますが、国際会議を見てみると、気候変動だけ、開発途上国の貧困の問題だけ、経済だけと、ばらばらにやってきた感がある。そこで、一度ちゃんとテーブルの上に上げようとまとめられたのがSDGsと言われます。

—これまでの集大成というか、目指すべきところを示したということなんでしょうね。

エクベリ そうですね。SDGsは2030年までの目標ですからあと8年ですが、必ずその先もある。決してこれが最終ゴールということではありません。結局はサステナビリティを追い求めていくということなんだろうなと思います。

—2年プロジェクトと言われたものが、ここまで来られたのは、サステナビリティという考えが根底にあったからですか。

エクベリ 常にそこがあったからこそ、いろんなものが乗り越えられたと思います。

 今はバナナペーパーの協議会もあり、このバナナペーパーも私たちだけのプロジェクトではなくなっています。サステナビリティの旅、サステナビリティのジャーニーと言われるんですが、協議会のメンバーの皆さんと、どうやったらバナナペーパーを広げられるだろうか、アフリカの貧困問題の解決に向けたアクションができるだろうかと動いていますので、共通の目標を一緒に見ていると感じています。

—コロナの影響もあり木材価格の高騰「ウッドショック」が起きて、紙産業への影響も大きいですよね。

エクベリ いちばん先にやめられるのは紙とか、そういう身近なものだと思うんですね。一方で紙の歴史を見てみると、文化を支えてきましたし、知恵を継承する大切なものでもある。だから紙がなくなるということはおそらくないでしょう。

 一方で、脱プラの動きでストローやカップなどが紙に移行していますが、移行した先がサステナブルでなくてはなりません。今までの何かを否定するのではなく、新しい時代の紙産業のあり方を、社会がもっとオープンに議論していく必要があると思いますね。

 例えば、木を使わずに美しい紙を作る日本のすばらしい和紙技術があります。日本の伝統技術は伝統のまま語られることが多いですが、日本の技術とか、物づくりの知恵は、今の時代に合うサステナブルなもので、世界で求められていると思います。それを広げるきっかけとして、バナナペーパーが役に立てたらいいですね。

—バナナペーパーと出会って、ずいぶん人生変わりましたね。

エクベリ 10年前には全く予想はしていませんでしたが、こんなふうに世界課題に関わることができて、本当に幸せなことです。現地のいろんな人たちの顔を思い浮かべながら、貧困のことを話すことができますし、野生動物の話もできます。人生を豊かにしてもらったと思っています。

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