下水道局長 奥山宏二氏

  • 聞き手:平田 邦彦

東京都の各局が行っている事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」、今回は下水道局長の奥山宏二氏。頻発する豪雨への対策や脱炭素化に向けた取組などについてお話を伺った。

強靱でしなやかな東京下水道を

下水道局長 奥山宏二氏

「経営計画2021」に基づき施策を展開

—就任してこれまでの感想をお願いします。

 下水道局長に就任して以来、各現場の膨大な施設を見て、「まさに都民の生活や社会経済活動を支えているのは下水道だ」と実感しました。これは他の各種のインフラにも言えることですが、道路、河川、鉄道などは「見えるインフラ」で、下水道をはじめ地下の「見えないインフラ」は、これこそ縁の下の力持ちだと思います。

 多くの都民の皆さんは下水道を意識することなく過ごしてきたと思いますが、東京の下水道は複雑で規模が大きいことが特徴です。運営に当たっては、毎日、大なり小なり何らかの困難に直面していますが、職員や関係企業の皆さんが長年の経験と知恵を動員して解決に当たってきたことで、外面上は大きなトラブルはありません。都民が下水道を意識しなくてすむことは我々の最大の成果です。

 一方で、下水道の管理や建設を円滑に進めるため、都民の皆さんに普段目にしない下水道を知っていただく必要があります。下水道施設の見学会、オンラインツアー、インフラツアーなどのイベントを実施しており、今後も広報活動に力を入れたいですね。

—「経営計画2021」にかかげた主要施策の動向は。

 下水道局では、「老朽化に伴う施設の更新需要」、「気候変動に伴う豪雨の激甚化」、「首都直下地震への対応」、「エネルギー使用量や温室効果ガスの削減」など、多くの課題に対応するため、「経営計画2021」に基づき様々な施策に取り組んでいます。この中で「気候変動に伴う豪雨の激甚化」に対し、昨年3月、区部全域で時間雨量75ミリの降雨に対応することを目標とする浸水対策計画を発表しました。

 更に、昨年末に取りまとめた「TOKYO強靭化プロジェクト」で示したように、頻発化、激甚化する豪雨や台風に備えるため、気候変動による降雨量の増加に対応した下水道施設の整備を進め、浸水対策を更に強化します。また、気候変動の影響を踏まえた高潮等に対応するため、下水道施設の耐水化をレベルアップすることとしました。「首都直下地震への対応」では、耐震対策を優先的に実施する施設や範囲を拡大し、下水道機能が確保されるよう一層努めます。

—来年度予算要求の概要が示されました。

 下水道事業会計の令和5年度予算要求額は約7509億円で前年度予算額との比較で約3・5%、250億円の増加となっています。

 建設費については、「経営計画2021」で予定したとおり、区部下水道事業では前年度予算額と同額の1800億円、流域下水道事業では前年度予算額から18億円増加の163億円を計上しました。資材高騰の影響はありますが企業努力による建設コストの縮減など内部の工夫を進め、建設事業を計画的に推進します。

 維持管理費については、区部・流域下水道ともにウクライナ情勢や円安に伴うエネルギー価格上昇の影響による電気料金の高騰などで増加傾向にあります。一方で、新型コロナ感染症拡大の影響により大幅に減った下水道料金収入は、経済活動等の再開により回復傾向にあるもののコロナ禍前の水準まで戻っていません。厳しい経営環境ですが、不断の経営効率化に努めて経営基盤を強化します。

カーボンハーフの取組を検討

—脱炭素化に向けた取組やエネルギー対策などの環境対策は。

 下水道事業では、水処理や汚泥処理の工程において大量のエネルギーを必要とし、それに伴い多くの温室効果ガスを排出しています。この排出量は都庁の事務事業における排出量の35%を占める規模です。今後、都が掲げる2050年ゼロエミッションや2030年カーボンハーフの実現に向け、下水道局でもより一層の削減が必要です。

 昨年、外部有識者による「下水道カーボンハーフ実現に向けた地球温暖化対策検討委員会」を設置して今後の方策や実現を見据えたビジョンなどを検討し、昨年末に検討結果を報告書として取りまとめました。今後、具体的な取組方針を検討していきます。

 一方、電力需給のひっ迫対策として東京都が都民や事業者の皆様に呼びかけている「HTT」(電力を【H】減らす、【T】創る、【T】蓄める)を、都内の電力使用量の1%を占める大口需要家である下水道局として自ら率先して取り組む必要があります。計画的な電力使用のピークシフトや、下水道施設である発電・蓄電設備の最大限の活用により「HTT」を推進します。

—物価高騰など、現下の社会経済情勢を踏まえた取組は。

 ウクライナ情勢や物価の高騰など、先行きが見通しにくい社会経済状況も続き、今後も下水道事業を取り巻く事業環境は厳しいと想定されます。

 下水道は、人々の生活に欠かせない、首都を支える重要な都市基盤施設としての役割を担っており、厳しい事業環境の中であっても、引き続き持続可能な事業運営が求められています。下水道の役割を後退させるわけにはいきません。

 今後も、「強靭でしなやかな東京下水道」を築くため、これまで培ってきた経験や技術力、組織力を大いに発揮し、局一丸となって下水道事業を推進していきます。

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