バブルスタック煙突の技術開発・施工

コーキ株式会社

  • 取材:種藤 潤

 日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。

 日本にある世界トップクラスの技術・技能―。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。  都内で続々と建設される高層ビルの建物内には、「煙突」が必ず設置されているが、その製造規格などは、50年前からほぼ変わっていないという。長年その業界に携わった人物が、「バブルスタック煙突」という全く新しい製品を生み出した。施主にも、施工者にも、設計者にもメリットのあるこの煙突の機能と、開発の背景に迫った。

バブルスタック煙突の設置例(提供:コーキ)

バブルスタック煙突の設置例(提供:コーキ)

 かつては東京でも、建物の外に煙突が設置された風景をよく見かけたが、近年は特に都市部では、その姿を見ることはほとんどない。だが、都市部で目にする高層ビルや大型建築物には、排気のための煙突が必須であり、ビルトインの形で建物内に設計・設置されている。そして、その製造規格は50年前からほぼ変わっていないと、コーキ株式会社の小林公博(きみひろ)代表取締役は語る。

 「高さ100mを超える高層ビルでは、煙突は400~1500mmの内径が必要とされ、素材も『ケイ酸カルシウム(ケイカル)』を用いることがほとんどです。また、排出する空気の速度も20m/秒以下が適正で、現在もそれが常識とされています」

 こうした規格に問題があったわけではないが、より小型化できないか、別の素材も使用できないか、排出速度を早くできないか、などについて議論されることはほとんどなかったという。

 だが小林代表は、長年煙突関連事業に携わる中で、疑問を抱き続けてきた。そして、定年退職をした2002年、新しい煙突を開発するために起業。研究を重ね、18年の歳月を経て「バブルスタック煙突」を誕生させた。

バブルスタック煙突「ギザハット」と空気が通過するイメージ
(提供:コーキ)

バブルスタック煙突「ギザハット」と空気が通過するイメージ (提供:コーキ)

“うずまき”構造をヒントに 大学教授と共同開発

 この煙突は「ギザハット煙突」とも呼ばれ、煙突出口部を特殊なギザギザ状態に加工、その構造により、縦渦を起こすことで騒音を抑制する。さらに、頂部煙突の周囲空気を誘引し、従来の煙突では必要だった笠を付けずに設置することに成功。さらに、より遠くに空気を排出することも可能にした。

 「この技術により、騒音を心配せずに排煙速度を25~35m/秒まで上げることが可能になりました。また、従来の煙突では排気する範囲が狭く、周辺の建物に影響を与えてしまっていましたが、より遠くに排気できるため、周辺環境を心配せずに済むようになりました。そして、笠が必要なく、デザイン性を向上させることにもつながりました」  ヒントは“うずまき”にあったと、小林代表は振り返る。

 「3年前、テレビで防衛大学地球海洋学科の小林文明教授の“うずまき”の構造についての話を聞いて、煙突にも応用できるのではないかと考えました。そして、事業をサポートいただいていた岩成真一中小企業診断士などの人脈を伝って教授とつながることができ、共同研究でこの煙突を完成させました」

「隅切り」によりる排気の検証画像。赤色が早くスムーズに排出している箇所だ(提供:コーキ)

「隅切り」によりる排気の検証画像。赤色が早くスムーズに排出している箇所だ(提供:コーキ)

軽量化・小型化に加え 排煙速度の向上に成功

 加えて、煙突全体の改良にも着手した。これまで使用されていた「ケイカル」ではなく、ステンレス素材を使用。これにより耐久性、軽量化を実現し、煙突全体の小型化、さらにはアスベストフリーも可能にした。

 「ステンレスは、ロックウールという素材とともに使用しますが、従来のケイカルに比べれば素材自体のコストは上がります。しかし、取り付けの人件費が安く、設置費用も含めた全体コストはそれほど変わらないことがわかりました」

 加えて、横引煙突から縦引煙突に角度が変わる部分を「隅切り」することで抵抗を減らし、スムーズに排出することに成功。排煙速度をさらに向上できるようになった。

コーキの小林代表(左)と、事業をサポートする岩成中小企業診断士(右)

コーキの小林代表(左)と、事業をサポートする岩成中小企業診断士(右)

施主・施工・設計と みんなが喜ぶ次世代の煙突

 これまでの常識を覆す煙突は、すぐに受け入れられたわけではないが、完成から3年を経て、徐々に大手設計事務所や建設業者が導入を始めているという。

 「理論的には可能な技術でも、実際に使用した実績がないとなかなか導入には至らないことが多いです。そこで、ギザハット構造や隅切りについて、大学の研究機関に各機能の技術検証を依頼したところ、客観的データとして効果が現れ、その後の営業提案の大きな後押しになりました」

 2年前には、小林代表の息子の公武(きみたけ)さんが入社し、図面制作や現場管理などを担当。今後は営業活動にも加わっていくという。

 「私も前職で設備業界で働いていましたが、バブルスタック煙突は、従来の煙突にはないメリットが多くあります。父とともに、私もこの価値を広めていきたいと思っています」(公武さん)

 小林代表は、事業者はもちろん、行政関係者にもこの煙突のメリットを知ってほしいと語る。

 「建物の施主にとっては、煙突の小型化で商用面積が増え、施工業者にとっては、小型化によりコストが下がり、設計事業者にとっては、新しい煙突を導入する面白さがある。それらのメリットを各事業者はもちろん、建物認可を出す行政にも知ってもらうことで、可能性はさらに広がると思います」

 親子二代でつなぐ、煙突の構造改革。「ギザハット」構造のように、より遠く、広く拡散することを期待したい。

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