収用委員会事務局長 杉崎智恵子氏

  • 聞き手:平田 邦彦

 東京都の各局が行う事業について局長自らが紹介する「局長に聞く」。今回は収用委員会事務局長の杉崎智恵子氏。事業内容について、より多くの都民に知ってもらい、活用してくれることを期待している。

収用制度の理解・活用を

収用委員会事務局長 杉崎智恵子氏

資産の評価を適正に判断

—収用委員会の仕事についてご紹介ください。

 収用委員会は、公共事業に必要な用地の取得に向けて、事業の施行者(起業者)と、土地所有者等の権利者との間に立ち、公共の利益と私有財産との調整を図ることが職責です。法律、経済、行政の専門知識を持つ7名の委員で構成される合議制の第三者機関です。

 事務局は、必要となる権利関係の書類や土地家屋の登記関係の書類を整えるとともに、当事者から意見を聴取し整理するなど、案件の審理や裁決がスムーズに進むよう、委員を補佐しています。

—事務局長に就任して実感したことは。

  これまでまちづくりの仕事に長く携わってきましたので、収用制度は、「様々な事情で用地の取得が困難となり行き詰まった時、これを解決する最後の手段だ」と理解してきました。道路整備など公共事業の効果を発現させるうえで、いわば、ジグソーパズルの最後のピースを埋めるような、とても重要な役割を果たしています。

 一方で、収用制度は、権利者から起業者に対して裁決申請を行うよう請求することもできます。ご家族の事情や高齢などの理由で早期解決を望む方からの申請は約4割を占めています。また、裁決前に補償金の支払いも受けられる制度となっており、早く移転して新しい生活を始めたい方などが活用されています。これは多くの都民の皆様に、是非知っていただきたいことですね。

 こうしたことから、起業者の事業推進、権利者の生活再建、双方のニーズからともに有効に活用できる制度なのだと、そのメリットを改めて実感しました。

—収用制度を活用して解決できる事例はどのようなものでしょう。

 相続などで権利関係が複雑になり、すべての関係人が特定できない、関係人の所在が不明である、借地権配分で争いがある、隣地との境界が確定できない、土地建物所有者が補償金などに合意していても借家人が合意しないなど、通常での契約が困難な事例であっても、収用制度の手続きを踏むことで解決できるケースが多々あります。

 また、補償内容や補償額などについて、当事者双方の隔たりがある場合でも、第三者機関である収用委員会が間に立って調整し判断する、その意義は大きいと感じています。

—東京都の収用事件の特色は。

 取り扱い事件数でみると、東京都は毎年全国の15パーセント前後を占めています。特に、権利者が多数のマンション敷地の案件や、相続人多数で権利関係が複雑な案件など、困難な事例が多いのは、東京都の特色です。

 また、都では、木造密集地域で消防車などの通行路を確保するなど、防災に寄与する路線の整備を進めていますが、その進捗に伴い、徐々にこの路線の申請件数が増えてきています。

 収用事件以外にも、都内で多く実施されている市街地再開発事業の権利者は、収用委員会に適正な資産評価を求めることができることとされており、その件数が多いのも特徴の一つといえます。

都民からの相談も受付中

—区市等への支援も行っていますね。

 区市が起業者となる案件も、東京都収用委員会が取り扱います。

 おおまかに言って、都道2千キロメートルに対して区市町村道は2万キロメートルと十倍ですので、事業量もトータルでは多いでしょうが、個々の自治体に割り戻すとそれほどでもない。

 そのため、あまり経験したことがない収用制度の活用は、ハードルが高く感じられるのかもしれません。

 そこで、区市の担当者にも収用制度の理解を深めて活用していただくため、また、手続きをスムーズに進めていただくため、事務局職員が区市に直接赴いて実務の説明を行う「出前講座」や「出張相談」を行っています。一緒に考えてよい知恵が出せればと思います。

 また、収用制度を活用したいとお考えの都民の方からの相談もお受けしています。ホームページやチャットボットでのご案内も行っていますが、個別の案件については、豊富な経験を有する職員がお話を伺います。是非お気軽にご相談ください。

—事務局として取り組んでいること、また今後の取組は。

 収用委員が執り行う審理、裁決に向けて、事務局は事前に当事者の方々のご意見を伺い、論点を整理し調査するなど、委員会として公正・中立な判断を下すための準備を行っています。

 そのためには専門的な知識が不可欠ですので、基礎的な研修に加えて、過去の事例研究なども通じて、より実践的な人材の育成に取り組んでいます。

 また、手続きを迅速に進めるため、職員がより生産的な仕事に専念できるよう、デジタル技術などの力も借りて、業務の効率化に努めています。

 収用制度は一般的にはあまり馴染みがないかもしれませんが、ひとたび関係人となれば、財産や生活設計にかかわる人生の重大事になります。

 都民の皆様の信頼に応えられるよう、一つひとつ着実に、同時にスピード感を意識しながら、今後も事務局一丸となって取り組みます。

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