ICタグを活用した管理システムの構築

帝人フロンティア株式会社

  • 取材:種藤 潤

 日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。

 各分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められているが、医療機関の物品管理においても、大きな効果を生むことがわかってきた。帝人フロンティアは、素材メーカーとしてのノウハウを応用して構築したRFID(ICタグを活用した情報技術)管理システムを用いて、医療機関のDXを進めてきたパイオニアのひとつだ。現在同事業の中核を担う一人に、その実績と今後の可能性を尋ねた。

帝人フロンティアが提供する医療物流DXに活用される「Recoシリーズ」の導入事例。左は聖路加国際病院での「RecoPick(R)」、右は済生会滋賀県病院での「RecoFinder(R)」(写真提供:すべて帝人フロンティア)

帝人フロンティアが提供する医療物流DXに活用される「Recoシリーズ」の導入事例。左は聖路加国際病院での「RecoPick(R)」、右は済生会滋賀県病院での「RecoFinder(R)」(写真提供:すべて帝人フロンティア)

 中央区の聖路加国際病院では、帝人フロンティアの物品管理システム『RecoPick(R)(レコピック(R))』を導入している。それまでは臨床工学室で医療機器を集中管理しており、使用の都度看護師が現場と行き来する必要があった。過大な業務負担がかかると同時に、利用履歴や所在管理はバーコードシステムで行っていたため、読み取り漏れが発生するなどして正確な台数把握が難しかった。

 導入後は、機器にICタグを、保管場所にリーダーを設置することで、機器の出し入れだけでリアルタイムな在庫把握が可能になった。また、バーコード読み取りの工数削減に加え、余分な搬送作業を8割以上削減でき、さらに正確なデータを分析することで機器の在庫の最適化を進め、約3000万円の経費削減を達成した。

 滋賀県の済生会滋賀県病院では、手術材料の管理に同社の通過検知システム『RecoFinder(R)(レコファインダー(R))』を採用。手術材料は保険料算出の重要な要素で、病院の収益に大きく影響するため、これまでは手書きや手入力で管理しており、多くの工数が発生していた。

 導入後は、手術材料を使用後にボックスに入れるだけで手術コストの正確な把握が可能になり、作業工数も軽減。今後は取りまとめたデータを分析し、診療科の傾向や最適材料の把握につなげていくという。

「RecoPick(R)」では、独自に開発したシートにより、ICタグをつけた医療機器をリアルタイムに管理できる

「RecoPick(R)」では、独自に開発したシートにより、ICタグをつけた医療機器をリアルタイムに管理できる

ICタグと近距離無線で 非接触で情報をやりとり

 医療機関は、院内にある数百数千に及ぶ医療機器に対し、安全面などの観点からも厳重な管理が求められ、近年は主にバーコードシステムで管理していた。しかし、読み取り漏れなどヒューマンエラーが発生するだけでなく、読み込む作業自体の工数が現場スタッフの業務負担に繋がっていた。

そうした課題を解決する新たなDXツールとして、ID情報を埋め込んだICタグと、電磁波を用いた近距離の無線通信により、非接触で情報をやりとりする技術「RFID(Radio Frequency Identification)」に注目が集まっている。同技術には「HF帯」と「UHF帯」の二つの周波数があり、前者は交通系ICカードに、後者はアパレル用下げ札や航空貨物用タグ、そして前出のRecoPick(R)、RecoFinder(R)など物品や医療機器の管理に活用されている。

「RecoFinder(R)」はICタグがポストやボックスなどを通過することで、使用数や使用履歴を管理できるシステムだ

「RecoFinder(R)」はICタグがポストやボックスなどを通過することで、使用数や使用履歴を管理できるシステムだ

LAN用シート開発から 図書館棚管理を経て医療分野へ

 2008年、帝人グループは素材メーカーとしてのノウハウを生かし、パソコンを置くだけでLAN通信が可能になる近距離無線通信シートを開発。この技術のさらなる活用を模索する中、当時アメリカの小売店で導入が進んでいたRFIDを用いた物流管理ツールに着目。3年の研究開発を経て、シートの技術と連動させ、読み取りシートを敷くだけで、タグを設置した対象物の利用状況や保管場所をリアルタイムに把握できるRecoPick(R)を完成させた。そして、まずは対象物の個体差が少なく、シートも敷きやすい図書館棚での利用に特化した。

 その後、物流や医療分野に導入を拡大していったが、特に医療分野に可能性を見出し、2019年には新たな管理システムRecoFinder(R)を完成させ、さらに独自のクラウド技術をもとにした医療機器管理システムを構築した。一方で、管理データを活用した流通・消費管理のノウハウを生かし、内閣府「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の「スマート物流」に参画し、『SPDXプラットフォーム』という、医療機関と医療機器ディーラー間の情報をリアルタイムでつなぐ仕組みも完成させている。

「Recoシリーズ」を担当する、帝人フロンティア・新事業推進本部・スマートセンシング部・第2ソリューションチームリーダーの阿磨由美子さん。彼女は帝人ファーマから現職に異動してきた

「Recoシリーズ」を担当する、帝人フロンティア・新事業推進本部・スマートセンシング部・第2ソリューションチームリーダーの阿磨由美子さん。彼女は帝人ファーマから現職に異動してきた

医薬品事業の経験を生かし 現場での運用まで支援

 医療分野で成果を上げている背景には、帝人グループ内で医療事業を展開する帝人ファーマ株式会社の存在が大きいという。

 「異分野のメーカーが医療機関との接点を持つこと自体ハードルが高いので、その接点が存在したことはアドバンテージだったと思います。また、医療機関の機器管理の実情を知ることで、適切な利用方法の提案ができることもメリットだと思います」(帝人フロンティア・新事業推進本部・スマートセンシング部 阿磨〈あま〉由美子さん)

 そうしたつながりと経験を生かしながら、帝人フロンティアはシステム全体の構築はもちろん、その運用サポートまで行っている。

 「RFIDのシステム導入には、単に商品を提供するだけなく、利用するためのルールづくりなども必要で、さらには利用する現場スタッフの積極的な参加も不可欠です。そうしたあらゆる要素を含め、我々は運用全体をサポートしていきます」

 高齢化による患者数の増加、診療報酬の抑制、人材不足と人件費増大……医療を取り巻く課題は山積みだ。一方で、RFIDによるDXは、ICチップ等機器も低コスト化し、先の『SPDXプラットフォーム』なども活用すれば、さらなる効果が見込めると阿磨さんはいう。都内でもDX未着手の医療機関は多いはず。まずは同社の技術導入などを筆頭に、検討をはじめる段階に来ているようだ。

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